どうすればいい?広告表現・制約と対策 ~食品編

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どうすればいい?広告表現・制約と対策 ~食品編

「最も自由自在で、しかも最も規制が多い」
「広告」を表現コンテンツの一つとするなら、それはこんな言葉で言い表せるのかな、と思います。例えば、テレビCM。映画のような本格的なドラマ仕立てのもの、ニュースやバラエティ番組をもじったようなもの、アニメ、CG、ドキュメンタリー風など、クリエイターがありとあらゆる可能性に挑戦している半面、実は様々な法令やルールで他のコンテンツにはない制約を受けてもいます。

このうち「制約」の方に焦点を当て、各業種別にどんな制限があるのかを、広告表現を立案する立場で見ていきます。「どんなルールがあるかは想像がつくが、具体的にどうすればいいのか、悪いのか」という声に少しでも応えたいと思います。

今回は、食品の広告について取り上げます。


表現への制限・3つの段階

広告一般の表現についてのコンプライアンスについては、別の記事でまとめていますのでそちらもご覧ください。ここでは、食品の広告に当てはめて考えていきます。

広告表現への制限は、概ね3つの段階があります。

  • A. 法令による規制
  • B. 人権侵害や差別などの社会通念
  • C. 受信者の著しく不快な感情
Aによる制限は言うまでもなく100%従わなければなりませんが、B、Cの段階になるにつれて排除の強制力・圧力は弱まっていきますから、発信者側の判断で広告掲出・オンエアを続ける場合もあり得ます。その意味では、広告表現を構築するクリエイティブ側からすれば、BやCの方が是非を判断するのが難しいと言えます。順に考えていきます。


食品の広告表現に関わる法律

まずAの法令について見ていきましょう。

日本の法律では、広告表現を規制するものは大きく3つあります。景品表示法(景表法)、不当競争防止法、それに著作権法です。食品の場合はこのほかに、薬機法(旧薬事法)と健康増進法等が関わってきます。

景品表示法で特に食品の広告が気をつけるべきポイントは「優良(有利)誤認表示」の項です。条文によれば、「実際のもの、他社のものより著しく優良である、有利である」と誤認させたり、「事実に相違して」他社のものよりも著しく優れていると示したりする表示、ということを禁止しています。注意したい言葉は「著しく」です。例えば、おいしさの表現について、「すごくおいしい」「とってもジューシー」はどうなのか?結論から言いますと、これらが規制を受けたという話は聞いたことがありません。おいしい、ジューシーは形容詞で、もともと主観的な感覚に基づいた言葉であり、人によってはそう感じる可能性があるから、ということでしょう。同様に、「一流レストランの味」「もぎたて新鮮」なども、微妙ですが何らかのファクトが伴った表現なら規制は受けにくい、と言えます。

逆に、具体的な固有名詞や数字などを提示してしまうと、客観的に誤認の可能性を証明できるので場合によっては「優良誤認」との指摘を受けるかもしれません。同じおいしさ表現でも実際は輸入牛や他の肉を使っているのに「松坂牛100%のおいしさ」と書いて、「これは実際松坂牛100%なのではなく、それに匹敵するおいしさ、という意味だ」といくら主張しても通らないでしょう。「高級国産牛にひけをとらないおいしさ」であれば通る可能性は高いと思われます。

この他に注意すべきは「最大級表現」です。いくら「おいしい」が主観的な言葉、と言っても例えば「日本一おいしい」という表現は要注意です。景表法や不当競争防止法で定義する「最上級表現」に当たる表現となり、使用するには根拠となるエビデンスの明記が必要になるからです。この場合は何かのコンテストで優勝した、などの根拠があればそれを付記することになります。

食品の広告表現は、商品の性格上このような「エモーショナル・ベネフィット」をキャッチコピーに使用するケースが多いので、優良誤認・有利誤認に当たらないかどうか注意が必要です。

Tips 食品で注意すべきは、まず「優良誤認」と「最大級表現」。



健康食品とは

(参照=消費者庁:「健康食品に関する景品表示法および健康増進法上の留意事項について・平成28年」)

食品の広告でもう一つ考慮すべき法律に、健康食品の効能・効果などに関わる「薬機法」「健康増進法」があります。これらの法律により「健康保持増進効果等を表示すること」についての条件や禁止事項が規定されています。上記が「おいしさ」といった食品の「エモーショナル・ベネフィット」に関わるものが主だとしたら、こちらは「ファンクショナル・ベネフィット」の領域に関わってきます。

法令によれば、健康保持増進効果について、「健康状態の改善又は維持を目的とした『健康の保持増進の効果』と『内閣府令で定める事項』に分類され、疾病の治療又は予防を目的とする効果、身体の組織機能の増強を主たる目的とする効果、栄養成分の効果、人の身体の美化に資する効果等が該当し、暗示的又は間接的に表現するものも含む」としています。また、この効果を表示して食品として販売される物を「健康食品」と定義しています。大きく言うと、「飲食物として売られる商品」のうち、医薬品を除く全てのものが「食品」で、このうち「健康保持増進効果」を表示しているものを「健康食品」と定義している、というわけです。「健康食品」には「特定保健用食品」「機能性表示食品」「栄養機能食品」が含まれ、この3つを総称して「保健機能食品」と呼びます。

健康食品の広告表現ではこれらの法律の範囲内で表現を考える、ということですが、大事なのはこれらの法の趣旨を理解することです。平たく言えば「国民にとって有益な情報は積極的に表示する」「国民にとって無益な、あるいは有害な情報は表示しない」ということです。

例えば、健康食品は「食品」であって「医薬品」ではない、ということ。つまり法的には「治療や予防を目的とするもの(=医薬品)ではない」ということですから、「虫歯にならないガム」とか「がんに効くお菓子」などの表現は食品としては認められない、ということになります。また、科学的根拠があいまいなものを、あたかも「奇跡的な食品」として効果を標ぼうするようなものも「優良誤認」と言わざるを得ません。逆に、健康効果について国が認めた成分が入ったものや、疾病リスクの低減について医学的・栄養学的に効果が広く確立されているものは、そのことを謳ってもよい、むしろ積極的に世間にアピールしてほしいと国も願っているといえます。

「医食同源」は今に始まった考え方ではなく、国も健康増進につながる食品には積極的に「お墨付き」を与えていこう、と考えている一方で、誇張や優良誤認など消費者が効果を誤解しかねない表現を「違法」として消費者を保護しよう、というのが基本的な考えです。

具体的な表現例をいくつか挙げます。

【医薬品でないとできない表現】
「アレルギーが緩和する」「生活習慣病予防に」「疲労回復」「老化防止」

【食品のうち、特定保健用食品でないとできない表現】
「血圧が高めの方に」「コレステロールの吸収をおさえる」「おなかの調子を整える」

【一般的に健康食品としてできる表現】
「カルシウム〇〇mg配合」「カロリー□□%オフ」

Tips 「医薬品」にしかできないことがある。でも、「食品」にもできることがある。

法律以外の制約

ここまで述べてきた法律については、個別の是非論は別として、広告表現としては100%守らなければならないわけですが、それ以外の制約~社会通念・受け手の不快感~については、ルールではないため、対処の仕方はより難しくなります。

食品でよく話題になるのはジェンダー問題です。「おふくろの味」「おかあさんの手作り」のような表現は食品ではよく見かけますが、この表現がネット上で批判されることがあります。「料理は女性がするものだ、という昔ながらの誤ったジェンダー意識に基づく表現」だというのです。これについてはネットでも賛否両論でした。「お母さん=優しく、暖かいイメージ、として感じられ、むしろ好感が持てる」「確かに『料理=女性の仕事』という先入観が背景にあることは否めないが、それを性差別とまでは思わない」などなど。こうした表現が話題に上るのは決して最近のことではありません。それでもいまだにこの手の表現が世に出て、同じような議論が起こる、ということをどう考えればよいのでしょう?

このケースで関連する「社会通念」は、「家庭での役割を性別によって限定すべきではない」ということになるでしょうか。これについては諸意見あれども現代の多数の人が支持する通念でしょう。問題は「おふくろの味」という言葉がこの社内通念にそぐわないのかどうか、です。発信者側に断固たる信念があれば、「そのような意図は全くないのだ」とつっぱねてその表現を使い続ける、というのも一つの選択肢でしょう。ただ、こと広告の場合、やはり多くの人の支持を得たいのが本音なので、そこまで思い切るマーケティングを選択しにくいのも現状です。そうなれば、表現者側、発信者側からすれば、「おふくろの味」的コンセプトを性差別的な印象が出ないように書き換える、というのが最善の選択肢、ということにならないでしょうか。「ジェシカおばさんの手作りクッキー」「おうちで食べた味がする」などの代案を検討するのも一つの方法です。


まとめ

残念ながら今のメディアでは匂いや味は送信できませんから、食品の広告表現では、視覚と聴覚だけでいかにおいしさを伝えるか、発信者側は常に様々なアイディアを出していきます。焼き肉が焼ける音、ナッツをカリッとかじる音など、実際の音をかなり強調したり、画面上に湯気を足したりすることは実は日常的に行われています。それらが現実を「著しく」誤認させる恐れがなければ消費者庁などのチェックを受けることはありませんが、一方で行き過ぎた誇張や事実と反する表現が、特にネット上では流れていることも事実です。法律は守ったつもりでも、世間から思わぬ批判にさらされることも少なくありません。でも、「あれもダメ、これもダメ、というのではもう手がないよ」とあきらめるのはもう少し先にしましょう。法の趣旨、社会通念はよく理解した上で、それらを踏まえた表現の方法は、まだまだあるはずです。

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