コロナ禍の期間中に影響を受けた業界は様々ですが、中でもイベント業界は最も大きな影響を受けた業界の一つでしょう。イベント全体の参加者の人数を制限したり、会場の規模に対応してイベントに参加する人数を限定したり、開催の時間帯が特定されたり、マスク着用やアルコール消毒が義務化されたり、会場での声援が禁止されたり、そもそも開催そのものが不可能になったイベントも多数ありました。
これらの制限に対し、2023年3月以降、マスクの着用が個人の判断にゆだねられるようになり、5月には新型コロナ感染症の感染症法上の分類が、2類から5類へと引き下げられました。感染症法は、その広がりやすさや症状の重さなどの危険度に応じて、1類から5類までの分類がなされていて、新型コロナウイルスは当初は結核やSARSと同じ2類に分類されていましたが、その性質が明らかになるにつれて、既存の分類では対応が困難になり、新たに「新型インフルエンザ等感染症」という項目が作られ、そこに分類されることになりました。
過去約3年間にわたって制限が続いていたイベント業界においても、これを機に大きな変化が訪れることが予想されます。どのようなイベントでどんな変化が起きうるのか、コロナ前後の比較をしつつ、具体的に予測をしていきたいと思います。
イベント業界のコロナ前後での変化
イベントと言っても様々なものがあり、スポーツの試合、コンサート、展示会、セミナー、パーティー、等々、それぞれによって規模や実施形式などが異なります。まずは、これらの様々なイベント全体に共通で起こった変化について見ていきます。
イベント実施形態の変化
コロナ前後で大きく変わったことの一つに、オフライン(リアル)かオンライン(バーチャル)かといった実施形態の変化があります。コロナ前からウェビナーのようなオンライン形式でのイベントやセミナーの実施形態は存在していましたが、海外からの配信のように距離的な制限がある場合など、限定的な使用が中心でした。しかし、コロナ期間中でもイベントの開催による顧客とのリアルな接点を求めて、多くのイベント、特にビジネス系のイベントであるセミナーや展示会が一気にオンラインでの開催にシフトしました。オンラインでもオフライン同様の見込み顧客の情報が得られたり、展示会等に出展する企業が提供したい詳細な情報を伝えることができたりするなど、オンラインでの開催の効果が認識されたことが大きな要因です。
コロナ後にはオフラインでの開催が予定されているイベントも増えてきていますが、オンライン開催のメリットも同時に享受したいと考える企業を中心に、オンラインとオフラインのイベントを同時開催するハイブリッド型のイベントが多く見られるようになりました。この点はコロナ前後での大きな変化です。コロナ後にはハイブリッド型の展示会の開催が大幅に増加することが予想されます。
配信用の機材やノウハウの蓄積
コロナ期間中に配信用機材の販売は大きく伸びました。従来から演劇やコンサート会場においては照明、音響、映像の機材は必須の機材でしたが、これに配信用の機材が追加され、通信機材や配信プラットフォームなど、配信関連の市場が大きく伸びました。さらに、小規模なイベント会場でも、カメラ、録音機材、画面のスイッチャー、音声のミキサーなどの機材の整備が進みました。さらに、これらの機材を扱うエンジニアも増え、この3年間に多くの配信のためのノウハウが蓄積されました。
多くのイベント会場では、これらの機材やノウハウをコロナ後も有効活用すべく、オンラインやハイブリッドでのイベント開催を行っていくことが予想されます。
バーチャル空間の発達
配信でのイベント開催が増加するのと同時に増加したのがメタバースなどバーチャル空間でのイベントの開催です。メタバース空間の技術は、ゲームなどでは以前から積極的に活用されていましたが、コロナをきっかけに住宅の展示や居住空間、自動車などの乗り物、、演劇や美術の展示といったアート関連、また、なかには禅寺のお堂で座禅会を体験できるバーチャル空間など、様々なイベントでも活用されるようになりました。
コロナ後においても地方の観光地のバーチャル体験や、リアルでは体験が難しい自然環境など、コロナ前からも体験が容易ではなかった領域においてバーチャル空間体験の提供が進むと考えられます。コロナ期間中に、ヘッドセットも新製品が続々と誕生しており、これらを活用した新しいタイプのイベントの発展が予想されます。
[Tips]
・コロナ期間中に起こったイベント業界の変化は、今後のイベントのあり方に大きく影響する。
・技術面では、配信関連やバーチャル空間を活用したものの発達が大きく影響している。
イベントのタイプ別の変化
ここまで見てきたように、多くのイベントでオンライン開催の環境が整ってきた結果、オンラインとオフラインの両方での開催が増加することが予想されますが、個々のイベントの種別に見ていくと、なかにはオンラインが主流になっていくもの、それでもオフラインに戻ることが予想されるもの、ハイブリッドでの開催が定着するもの、と様々なタイプがあります。技術や会場の環境以外の、様々なビジネス要因によって、これらの違いが現れてきます。ここでは、どのようなイベントがそれぞれのタイプに該当するかを見ていきます。
オンラインへの移行がさらに進むイベント
この3年ほどで蓄積された技術やノウハウ、人材を活用して、オンラインへの移行が進むと、その利点をさらに積極的に活用したほうが望ましいと考えられるイベント事業者が増えてきました。このようなイベントの特徴としては、情報を伝達することが重要であったり、オンラインでの開催でコストを削減することができたり、オンラインでの開催による成果がオフラインの場合と比べて遜色がないといった点があります。
具体的には、セミナー中心の展示会や株主総会、学会などです。
特にBtoB系の展示会ではリードの獲得が主な目的となっていて、顧客との接点もオンラインとオフラインで得られる成果に大きな差がなく、場合によってはIT系のソフトウェアなど、オフラインよりもオンラインのほうが詳細な情報を伝えられると考える企業もあり、そのような場合にはオンラインでの開催のほうがオフラインよりも優先されることになります。
このようなイベントはコロナ後もさらにオンラインでの開催にシフトしていくことが予想されます。
オフラインでの開催に戻るイベント
上記とは反対にオフラインでの開催に戻っていくイベントもあります。リアルな体験をしないと価値が伝わらない商品やリアル体験そのものが商品になっているような場合です。
具体的には、食フェス、食品や化粧品、自動車などの味覚や嗅覚、触覚も含めた五感を刺激することが必要な商品の展示会、参加型のスポーツイベント等です。これらのイベントではオンラインではその価値を伝えることが難しく、オフラインでの開催が中心になっていくことが予想されます。コロナ期間中に開催ができなかったこのタイプのイベント業界にとっては満を持しての再開となり、開催を待ちわびていた参加者も多いため、コロナ明けにおけるV字回復が期待されています。
ハイブリッド開催が主流になるイベント
オンラインとオフラインの両方のメリットを享受できるタイプのイベントは、やはりハイブリッドでの開催が主流になることが考えられます。もともとデジタルコンテンツでの流通が可能であり、かつリアルでの接触に価値があったイベントはこのタイプになります。
具体的には、音楽イベント、スポーツイベント、ゲーム関連の展示会、ファッションショーなどが挙げられます。
音楽関連のフェスは、無観客での開催の際に配信の技術やノウハウが広く普及し、観客もそれに慣れていました。しかし、それと同時にライブ演奏は、オンラインでは得られない価値を提供することができます。スポーツイベントも、東京オリンピックを見れば分かるとおり、オンラインでも一定の感動を伝えることはできたものの、会場で選手を応援することや、その場の空気を感じることで得られる高揚感はオフラインならではのものです。これらのイベントは、今後、オンラインとオフラインのハイブリッドでの開催が定着していくと考えられます。
[Tips]
・イベントのタイプによって、オンラインに移行するもの、オフラインに戻るもの、ハイブリッドが定着するものがある。
・開催しようとするイベントの特性を考慮し、最適な開催方法を選択していくことが重要。
まとめ
コロナ禍によってイベント業界は大きな影響を受けました。しかし、それはネガティブな影響だけではなく、新しいタイプのイベントのあり方を生むきっかけにもなりました。
企業でマーケティングを担当される方や、イベントの企画、運営事業者の方、その他イベント業界に携わる全ての方が、新しいイベントのあり方について、それぞれの関わるイベントのタイプを考慮して最適な形でのイベントを実施し、コロナ後に大きな成功をおさめていただくことを願っています。