従来の広報は、広報誌やWEBサイトで注目を集め、興味や関心を持ってもらう手法が主流でした。しかし、ソーシャルメディアによるコミュニケーションの比重が高まっている現代では、ただ単に情報を流すだけではなく、"sympathy"(共感)を抱いてもらうことが重要になってきました。ソーシャルメディアを使う場合もその観点を忘れてはいけません。情報に共感すると友人へ教えたり、SNSで「いいね」を押したり、書き込んだり、フォローしたりして関与していくことになります。情報を共有し、拡散していくプロセスが重視される時代なのです。
オンラインだけでは完結しない自治体広報
行政が関与する広報は対象となり得る国民(住民)全員にくまなく伝えるという大きな宿命があります。オンラインにアクセスできない人がいることへの配慮も自治体広報の難しいところです。チラシやポスターのほうが広報手段として適切な方も多いのです。オンラインだけでは伝えきれない事態は、地方などにまだあります。それらの層にも確実に届ける必要があり、マスメディアも含めて周知させる必要があります。
【Tips】オンラインにアクセスできない人たちには、マスメディアも含めて代替や補完を考える。
テーマによって異なる最適な伝達手段
コロナの感染率が拡大するなかでの緊急事態宣言時には、外資系ホテルが感染防止対策のメッセージを先導して発出。動画サイトにアップし、他社も追随していきました。
利用者側からみて知りたい情報はどんな手段を用いて表現するのがいいのでしょうか。感染防止に関する注意事項や対策方法は静止画(写真、イラスト)およびテキストが評価される傾向にありました。動画はわかりやすいという感想が多いのは確かです。しかし、コロナ感染は命にかかわる事項です。いち早く全体を確認したいという点では、静止画やテキストのほうが向いていました。その点、臨場感が重視される観光プロモーションなどとは性格が異なります。つまり、テーマによって最適な伝達手段は異なるのです。
観光分野においても宿泊や観光施設の案内は静止画が適しているとされます。動画はイメージを膨らませるPRには向いているのですが、閲覧するための時間を要するので直ちに確認したいという情報には適合しません。
コロナ禍による影響もあり、移動制限の制約をカバーするためにさまざまなデジタルコミュニケーションツールが登場しました。よって情報発信は基本的にはウェブマーケティングのノウハウを活用し、SNSに加えビッグデータなども活用してデジタル施策の比率を高めていくことが中心になっていくでしょう。
【Tips】動画による広報の割合が増えているがテーマによって最適な伝達手段は異なる。
地域を知らせる新しい手法
コロナ禍による非常事態宣言により、リアルな移動は難しくなりました。その状況下で今までになかった新しいコミュニケーションが登場しています。観光広報は競争の激しい分野ですが多くのオンラインツアーが登場しました。従来あった単なる風景紹介では新鮮味がなく、人の目を引きません。参加者にはあらかじめ、地域の特産物を送付しておき、画面を見ながら同時に食べるなど、現場にいるような臨場感を現出するための工夫が加えられました。SNSを活用しながら、リアルタイムに参加者が感想を述べあい、盛り上げを図る仕掛けも有効です。友人同士や親子連れで参加するなど、新しい顧客の獲得に繋がり、地域の魅力を広く伝達できる状況になっています。デジタルコミュニケーションツールは登場して間もないので発展途上です。他社の事例などを参考にしていきましょう。違う業界の実施事例なども積極的に取り入れていくことも必要です。
「川越市川越駅/本川越駅/仲町観光案内所」のInstagramでの情報発信はユニークです。「川越に行きたい、散策してみたい」と思ってもらうためのコンテンツを有しています。案内所スタッフが地域の飲食店の商品を紹介するシリーズ企画「TAKEOUTサラメシ」が人気を呼んでいます。特定の店舗の紹介は従来の観光案内所では行いにくいものでした。その点をスタッフ個人の行動録として見せる工夫が秀逸です。ストーリー機能を利用した定点写真の配信も注目されています。
【Tips】ZOOMなどを使用した新しいコミュニケーション手段は、特性を理解して効果的に活用。
脱コロナ時代の広報テクニック
自治体や観光協会の広報は限られた人数で運営されています。ホームページの更新が滞り、まったく読まれないものになってしまうケースもあります。人員が少ないのであれば、なおのこと、工夫した情報発信を行わなければなりません。InstagramやX(旧twitter)には、ほかのユーザーの投稿を引用し、自分のフォロワー向けに再投稿する機能があり、それをリポストといいます(Facebookにおけるシェアに当たります)。ハッシュタグを活用することで、最小限の人員によりリポストメインでアカウントを運用することも可能です。
ZOOM等のツールを活用したミーティングは参加者の顔がはっきりと示され、リアルな会合よりも広範囲に人と接することができる利点があります。参加者が同時に地域の特産物を食したり、リアルタイムでSNSの情報交換をしたりするなど、リアルな出会いとは違った工夫を入れることで、今までになかった新しい魅力を掘り起こすことも可能になっています。リアルに集まらない場合であっても、現地の人や同時に参加している人と同一の体験を通して現地のことを知り、交流する行為も連帯的な気分を味わえ、新しい形のコミュニケーションの一つといえます。
日常生活のあり方が大きく変貌した今、コミュニケーションのあり方も改めて考える機会です。オンラインを通して地域の人と繋がり、継続して繋がり続けることで、新しいつながり方を見出す機会になります。
【Tips】現代、コミュニケーションのあり方も変貌し、リアルの手法ではできなかったことも可能に。
言語の枠を超えて世界へ発信ができるInstagram
Instagramは旅行の計画を立てるにあたって非常によく活用されているソーシャルメディアです。観光広報を行う際には積極的な活用を図っていきましょう。フィード投稿(通常投稿)は画像や動画をベースに作成します。魅力的な写真を掲載することが最も重要ですが、画像という検索しにくい情報をユーザーに届けるためには、写っているものや撮影場所などを文字に起こして「#(ハッシュタグ)」として添えることが必要です
「ストーリー機能」もよく使われています。ストーリーに投稿する写真や動画は縦長の長方形が基本で、ライブ配信も可能です。投稿は24時間後、ライブ配信の場合は配信終了後に自動で消滅しますが、「ハイライト」としてプロフィールに保存しておくことができます。
24時間だけ有効なプロモーションコードの配信や、動画の冒頭部分のみを見せて外部コンテンツに誘導するなどの工夫も有効です。
ハッシュタグ検索などでアカウントを知ったユーザーはアカウントのプロフィールに注目します。プロフィール内の情報を充実させることはとても重要です。「まとめ(ガイド)機能」では、おすすめ商品や場所などをブログやカタログとしてコンテンツ化を図りプロフィール上に表示しておくことができます。
【Tips】「#(ハッシュタグ)」や「ストーリー機能」をうまく使って世界へメッセ-ジを発信。
まとめ
脱コロナ時代、デジタルコミュニケーションの占める割合は急速に進展しました。新しく誕生したツールを有効に使うことで、広報の効果を飛躍的に高めることも可能です。でも忘れてはいけないことがあります。SNS全盛の今、ただ単に情報を一方通行に流すだけではコミュニケーションとして成立していない、と言えます。対象とする人々に何の意識変容も与えないメッセージもあるのです。コミュニケーションにおいては、"sympathy"(共感)を抱いてもらうことを重視してください。そうすることで、伝えたいメッセージは拡散していくのです。