最近私たちが接する調査書やアンケート、履歴書などの回答者の性別のチェック欄に、「男性」「女性」だけでなく「その他」や「回答しない」などの項目を見ることが多くなりました。これは日本においても徐々にLGBTQ+(※1)層に対する理解と受容が浸透してきていることのひとつの表れといえるでしょう。
今世界中の優良な企業でこれらの人々の支援と受入れのため、DE&I(※2)の理念に基づいた様々な取り組みが行われています。このことが企業にもたらすメリットは何なのか、そこに潜在する課題とは何なのか、少し見てみることにしましょう。
※1 L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル・両性を好きになる人)、T(トランスジェンダー・体と心の性が一致しない人)、Q(クエスチョニング・どのセクシャリティにも当てはまらない人)、+(その他左記にあてはまらない様々な性志向を持つ人)。多様な性志向を持つ人々の総称。
※2 ダイバーシティ・エクイティ&インクリュージョン。それぞれ社会の「多様性」・「公平性」そして「包摂性」と訳される。人々の多様性を認め、不平等を抱える人には同じスタートラインに立てるよう社会からの配慮がなされ、さらに組織の中で常に尊重され正しく評価される環境を整えようとする概念。
概況・企業の社会的責任
LGBTQ+はマイノリティなのか
電通ダイバーシティラボが2020年に実施したLGBTQ+の日本の調査では、6240人の回答者のうちLGBTQ+層が占める割合は8.9%だったそうです。また2021年に米世論調査会社Gallup社の報告した調査では、米国においてこれらの人々の割合は10年間に倍増しており、特にZ世代(1981年~2003年生)においては21.8%であったとしています。
いわゆる性的マイノリティとして認知される彼ら(彼女ら)ではあるのですが、この数値を見て、もはやマイノリティと呼ぶことができるのでしょうか。企業は新しい発想の下、あらゆる面での環境整備を待ったなしで求められているのです。
なぜLGBTQ+を取り上げるのか
企業が単なる利益追求だけでなく、社会的責任を果たすこと(CSR)が持続的経営の必須事項とされている昨今、こういった人々の暮らしづらい環境を改善するべく積極的な対策を講じることはいわば必然の活動であると言えます。
またすでに一定の母数を持ち、経済活動の中でも重要なポジションを担うようになった彼らに対するアプローチは、一方でマーケティング的側面においても今後の企業の業績を左右する重要な戦略にもなっているのです。
【Tips】LBGTQ+をもはやマイノリティと呼べない環境下、企業はCSRとしてだけでなく、マーケティング的にも対応が求められている。
企業の外へ向けて
広告としての発信
このような中、企業はLGBTQ+を意識した、または支援する活動・コミュニケーションを様々に行っています。広告という範囲においてはセクシャルマイノリティを公表するモデルを積極的に起用したり、偏見に苦しむ彼らの実像を描くことでエールと支援を表明する企業が増えています。ごくごく一例ですがP&G、ナイキ、アディダス、アップル、アマゾンなど、名だたる世界企業が広告を通してLGBTQ+への理解を示す発信を行ってきました。また日本においても多くの企業が消費者へ向けて理解促進を促す活動を行っています。これも一例ですが楽天グループはその姿勢を積極的に表明し、広告だけでなく販売商品においてもLGBTQ+対応の開発を活発化させています。
広告で描くことへのためらい
とはいえ、現状すべての広告主がLGBTQ+を描くことに前向きになっているわけではないのも現実です。これまでも活動に積極的であったP&G社が公表した調査レポートによると、多くの企業はその責任と重要性を認識しつつも、間違った伝え方をしてしまったときの企業への負の反動、リスクを懸念している、または制作の難しさを感じていると答えたそうです。実際、米国ではそのような意識をもって広告を打ったものの、一部の保守派層から過激なデモンストレーションとともに猛反発や脅迫を受ける企業もあり、やむなくキャンペーンを取り下げるような事態も発生しています。
実際の消費者は
いっぽう上記調査によれば、このような企業のLGBTQ+の立場に対する理解や問題提起は、消費者には非常に前向きに受け止められているようで約8割の回答者がその企業に好意を持つとしています。一部の消費者から反発を受け、キャンペーンを取り下げた企業は商品の売り上げをその後落とし、毅然とキャンペーンを打ち続けた企業の商品は売り上げを伸ばした、という報告もあります。
企業は様々な観点で現状と課題を踏まえ何を伝えるべきなのか、一貫したコミュニケーション活動をとる必要に迫られているのです。
【Tips】世界中の企業でLGBTQ+への理解促進の発信がなされている。ただいまだ一部から反発が起こることも事実。企業の一貫した姿勢が問われている。
企業の中から
LGBTQ+フレンドリー
「LDBTQ+フレンドリーな会社」とは、差別なく彼らを組織や体制の中で受け入れ、それに向けての政策や環境整備がある会社のことを言います。
企業がこれらの層への支持理解を本気で推進するなら、外部へ向けての発信を行うだけでは足りません。その組織の内側からまず改革を行わなくてはならない。見せかけだけの支援は自社のアピールに利用しているだけだと見透かされてしまうことを肝に銘じなくてはなりません。こういった外部へ向けての発信だけで実態の伴わない活動は、しばしば「ピンクウォッシング」などと呼ばれ批判の対象にもなります。
では企業は社内でどのような取り組みを行うべきなのでしょうか。
DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクリュージョン)
大本になるのはこのDE&Iの理念に他ならないのですが、具体的にはそういった層に対する以下のような取り組みでしょう。
・採用や福利厚生などにおける不平等の廃止、改善
・評価、昇進の公平性担保
・LGBTQ+に関する方針の策定、および周知徹底
・トイレや更衣室などの設備含む環境の整備
・ハラスメントの起きない風土作り、相談窓口などの設置
・定期的なセミナー実施、関連イベントへの公的な参加
他にも様々に考えられるでしょうが、まずは社としてLGBTQ+層の公正な受容を実現させるための確固たる実践が必要ということです。
企業の真の発展のために
このような取り組みは短期的なレピュテーションや環境整備にとどまるものではなく、将来の企業の飛躍のためにも重要なファクターとなりうるものです。少子高齢化による人材不足の中で、より選択される企業になりうること。IR含めた企業そのものの価値を高めること。そして日々の仕事の中で一人一人がお互いを尊重しあえることでのモチベーションアップ、そこから生まれる生産性の向上。などが期待できるのです。
【Tips】外部への発信だけではなく、LBGTQ+への理解支援は企業の中から行うべきもの。それが長期的な企業の評価を生む。
まとめ
LGBTQ+の理解促進の課題は本来社会全体としてとらえるべきものです。日本においても関連の法整備が徐々にではありますが進行しつつあります。ただ欧米に比べてまだ不完全なものであることは否めません。よって企業が果たせる役割はこれからまずます大きくなっていくでしょう。まずはLGBTQ+への正しい知識を社全体として持つことが重要。そしてゆるぎない信念で活動を続けることが、ひいては企業の大きな発展につながるものだということを理解しましょう。