コロナ禍生活、不況、物価高騰…という昨今。我慢を強いられる様々な状況が続いていますが、一方で、「どうしたら楽しく過ごせるか」という前向きな生活者志向も見逃せません。身の回りにあるものを上手に活かす創意工夫によって、今までになかった、全く新しいタイプのものが様々に生み出されています。
なかでも今回は「スペース活用」にフォーカスし、何の変哲もない場所が、素敵に生まれ変わっている数々の事例をご案内していきます。
【ONタイム】スペース活用から、身近な日常が楽しくバリューアップ
マイオフィスの「どこでも化」
コロナ禍を経てビジネスシーンは大きく変わりました。リモートワークは、仕事と家庭の両立をかなえる合理的なものとして、今後も一定の定着が見込まれています。場所の制約を受けずに仕事をする、新しい日常スタイル。街のありかたにも画期的な変化をもたらしています。駅や郵便局には、個室型ワークスペースがあったり、印刷サービス店やカラオケ店がオフィススペース化したり、街じゅういたるところで、デッドスペースを活かしたビジネスパーソン向けの「カフェ化」が始まっています。
なかでも大手書店では、シェアラウンジなるものを設置。「新しい発想を提供する場所」がコンセプトで、おしゃれなBOOKライブラリーでヒントを得たり、ヘルシーなドリンクやスナックで気分転換したり、スタイリッシュに居心地よく能率的に作業できる、ワンランク上の空間になっています。
昨今では、デザイン性あふれる素敵な図書館も増えています。東京の武蔵境にある、アーティスティックな建築が魅力の図書館は、カフェ、ワーキングスペース、託児エリアまで装備されています。さらには生涯学習を支援する講座やイベントも豊富に企画され、働く世代が日ごろ通いたくなる文化的複合施設となっています。
地元をツカエル化し、ランクアップ
外出自粛の風潮で、自宅近辺でやりくりすることが増え、近場の利点が見直される動きもありました。いま、近場で「素通りしていた場所」が、もっとツカエルものになっています。最寄り駅構内の「宅配受け取り」サービスは代表例かもしれません。また、居酒屋店スペースの日中時間活用としての「軒先シェア」では、今日はカレー、明日はフレンチと、いろいろなお店のランチを日替わりで楽しめ、駅前や商店街の昼間のムードを活気づけています。
昔ながらの酒店でおなじみの角打ちも、昨今では、一見(いちげん)さんでも足を踏み入れやすい今風のインテリアで、店主こだわりの逸品を気軽に楽しめる「ネオ角打ち」として生まれかわり、遠方の客をひきこむほどに話題を呼んでいます。
またコインランドリーも、新たなスタイル「ランドリーカフェ」としてリニューアルの動きがあります。面倒で退屈な洗濯場から、居心地の良い通いたくなる場所へ。スタイリッシュなカフェが併設され、洗濯中も楽しく過ごせる、地元生活を格上げしてくれる存在です。カフェメニューのこだわりは勿論のこと、マッサージチェアで癒し空間化、ボルダリングでスポーツスペース化など、さらに個性的な店舗も続々登場し、進化が止まりません。
遠のいた場を、立ち寄る場に
生活に欠かせない行政・金融機関。ITが進む昨今では、リアルでは遠のきつつある印象もあるかもしれません。そんななか、大阪の堺市役所では、賞味期限が近い飲料品を2割程度の価格で提供する30円自販機を設置したところ、売り切れ続出するほどの人気に。わざわざやってくる人も増えているとのことです。
また、愛知県一宮市の信用金庫では、ATMのスペースに、地元でとれた野菜や卵、ご当地の冷凍食品など、様々な食品の自販機がずらりと並び、誰でも立ち寄れる地域のショッピングコーナーとなって話題を呼んでいます。多数を占める高齢の利用者はもともと窓口利用の割合が高く、ATMは1台のみ。余った空間で取引先商品を販売し、若い世代を呼び込むしかけとして機能しています。
[Tips]居酒屋・コインランドリー・役所や金融機関まで!空きスペースの活用で「ジモト」が活性化
【OFFタイム】スペース活用から、別次元のアトラクションへと進化
スポーツ観戦は、もはやサブ!? 余興体験に目まぐるしい進化
野球観戦の2時間3時間をもっと有意義なレジャータイムに。北海道の新スタジアムでは、試合を見ながら天然温泉やサウナを楽しむことができます。水着でフィールドを一望してくつろげる “ととのえテラスシート"も用意され、屋内バーゾーンでは球場内醸造のオリジナルクラフトビールが堪能できます。野球「以外」の体験スペースの上手な導入で、まったく新しいかたちの観戦スタイルが生まれました。
また、サッカーでは、全国のJリーグのホームスタジアムで「スタグル」(=スタジアムグルメ)がブームに。毎週末様々なご当地グルメのキッチンカーが勢ぞろいし、それを目がける多くの人でスタジアム周辺がにぎわっていたりします。例えば、茨城の鹿嶋市のスタジアムでは、地元メーカーオリジナルの「ハム焼き」が人気。ジューシーな肉の塊の串焼きでほかにはない味わいです。また、川崎では近隣相撲部屋の「塩ちゃんこ」、大阪では本場のおいしさを堪能できる「大たこ入りたこ焼」など…、その地域でしか味わえないご当地グルメイベントを楽しむことができます。
目的地化し、多様化するサービスエリア
ドライブのほんの休憩スポットとして位置づけられてきたサービスエリア。昨今では、規制緩和もあり、様々なアトラクション要素を追加で設置する動きがあります。魅力的なショッピングスペースは勿論のこと、風光明媚な絶景展望台、遊園地、花火鑑賞ゾーン、水族館などが併設され、メインの遊び場として目指したい「ハイウェイオアシス」として、人気を集めています。
大分のSAは、そのもの自体がゆっくり滞在する観光地として成立するほど。別府湾を望む絶景を楽しめ、上下線のエリアを徒歩で移動できる天空遊歩道があり、さらにエリア内には、湯布院の老舗旅館プロデュースの温泉宿泊施設や、古民家を移築したレストランなども並んでいます。
また、「複合型レジャー公園」タイプのものも、ファミリー層に嬉しい場として人気スポットになりつつあります。自然環境のもと存分に楽しめる遊具やゲーム、親子向けのハンドメイドマルシェ、子育て世代の交流に嬉しいワークショップ企画など、週末に気軽に通いたくなる場になっています。
究極の空きスペースイベント「軽トラガーデン」
まさかのスペース活用が新たなクリエーティブイベントに。富山県では、昨今「軽トラガーデニング」コンテストが大反響を呼んでいます。軽トラックの荷台スペースを活用してミニ庭園を制作するという驚きの発想。決められた大きさの軽トラ空間に、造園職人たちの技と独創力が発揮され、美しい新緑の造形美、流れる水の演出、池に泳ぐ金魚など、面白く見ごたえのある作品が勢ぞろい。SNSでも映える写真が拡散されています。また、あらかじめ個々で制作し、そのまま移動してイベント会場まで運搬し展示できる、運営上の合理性も評価され、今後の広がりも期待されます。
[Tips]サービスエリア、スタジアムのバックヤード、軽トラの荷台まで!かつてのサブが「主役」の座に。
まとめ
さびれつつある場も、流行とはまったく無縁のデッドスペースも、プラスアルファのスペース活用術次第でトレンドスポットになり得ます。
まず、その場を使う可能性がありそうだけど、近寄ってくれていない、惜しいところにいる「新たなターゲット」を検証し、その人たちのくらしをよく理解することが重要です。
ライフスタイルとマインドをよくスタディしながら、「この場をこうしたら立ち寄ってくれそう」と思えるヒントを探ります。例えば、「本を買わなくなったけど、手に取ることはしてくれそうな若者」には「本屋とせずにラウンジ」としたり、また、「洗濯が面倒で居場所が限られている独身層」には「コインランドリーとせずカフェ」としたり、「スポーツに興味ないけどにぎわっている場所が好きな女性」ならば「スタジアムでなくグルメフェスタ」とするなど…。既成概念にとらわれずに、新たなターゲットが注目してくれる「別の目的での使用イメージ」を主軸に、その場にあるものと上手に共存できる方法を探っていくのです。いままでにない新しいカテゴリーのものを創出できれば、大きなイノベーションとなります。
あなたの身近なデッドスペースにも、もしかしたら、大きなポテンシャルがあるかもしれません!