毎年のように全国的に頻発する災害。我々は毎回のように「記録的」という情報を目の当たりにしながら、自然の脅威をますます強く意識しています。そして備えの習慣も新たなトレンドが生じています。今回は、災害大国日本の新たな生活スタイルと、今後の行方について検証していきます。
高まる防災意識と対策
度重なる大地震、そして地球温暖化の加速による大規模豪雨や降雪…。常に報道を目にするようになり、何かしておこうという防災意識は高まっているようです。内閣府調査でも「災害についての話し合い」をしている率が、2002年34.9%であったのに対し2017年で57.7%、2022年では61.4%となっていて、大きな震災を経て顕著な伸びを示しています(内閣府 防災に関する世論調査2022)。
備えについてはどうでしょうか。大地震を意識した準備として、最も多いのが懐中電灯で5割強、食料や日用品などの必需品は約4割となっています。さらに、携帯やスマホの予備電池となると約15%、衣類や毛布は8%程度と少なくなってきます。何かしようと思いつつも、いざアクションをとなると後手に回っているのが実態です(同調査)。
あなたは、大地震に備えて、どのような対策をとっていますか。内閣府 防災に関する世論調査2022https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-bousai/gairyaku.pdf 意識の高まりに比べ行動が至っていない現状。まさにいま、アクションを浸透させていく大切な段階にあるといえます。備えの基本については、行政や各種メーカーから様々な情報がわかりやすく発信されています。例えば、「防災・減災の7つ道具」として「缶詰食&水3日分、簡易トイレ、充電ラジオ、ソーラー充電器、保温アルミシート、食品用ラップ、ウェットティッシュ」など、その気になればすぐに用意できるラインナップが示されていたりします。また避難場所についても、自治体HPなどでスピーディに確認できます。
実際のところ、こうして防災アクションスタートのお膳立てはできているのです。つまり、もう一歩を後押しする工夫、手を伸ばすためのきっかけづくりが必要といってもよいのかもしれません。
[Tips]
現在は、意識啓発以上に、行動を促す知恵が必要。
防災をアクションドライブする 新たなトレンド
必要なことはわかっていても、つい後手に回ってしまう。なぜ行動に移そうというちょっとした意識が働かないのでしょうか。そこには備えをとりまく特有の心理も関係しているようです。
防災用品というのは、出番がなくて終わるのがベストです。その存在感が示されないことは大変幸運であることは言うまでもありません。ところが災害に見舞われない限り、その便益と有難みを実感できないのです。実際に備えをしても、だんだん奥にしまい込んでしまったり、使用期限切れで無駄になったり…。防災品は、実生活でその意味が見えづらい「非合理性」をはらんでおり、それが浸透を滞らせる要因にもなりえるのです。
裏を返せば、「合理性」を付与すればアクションの後押しになると考えられます。いま新たに受け入れられている旬の防災グッズやアクションは、理にかなった賢いものばかりです。キーワードは「フェーズフリー」。非常時だけでなく、普段の暮らしに溶け込むのがトレンドです。生活のあらゆるシーンに防災の要素が取り込まれ始めています。
●進化するローリングストック
代表的なものして注目されているのが「ローリングストック」習慣。レトルト食品やカップ麺など保存食を日常的に消費しながら、その余分も蓄えておく。循環させるように常に新しい非常食を準備しておくという仕組みです。面倒なマネージメントなく、楽しく実践できるサービスが人気になっています。大手カップ麺メーカーのサブスク型のセット商品を皮切りに、他の食品メーカーからも、無添加のレトルト和食セットや缶詰セットなどグルメ化も進んでいます。また、古いものから消費していく収納BOXや、ローリングストック食材を活用した料理教室など、くらしへの浸透をはかる積極的な動きがみられます。
●「あえての防災」でなく、「防災兼用」で安心にくらす。
普段使いで無駄にならず、いざというときは即座に稼働が理想的です。日々のくらしから、どうせ使うなら防災にも使える賢いタイプの商品が選ばれはじめています。
・防災兼用の代表格、カセットコンロ
鍋、焼肉…いつもの食卓で楽しくフル活用しながら、ボンベをローリングストック。
・寝袋になるクッション
好みのカバーで一見通常のクッション。広げると貴重品入れやフードのついた寝袋に。
・収納BOX型玄関スツール
玄関先のミニベンチのなかにいつも防災品。いつでも持ち出せる場所に置けて安心。
・災害時用トイレin壁掛け絵画
普段使いできないものは、スタイリッシュに邪魔なく収めたい。アートのなかの防災品。
・キーホルダーホイッスル
ソーラー型スマホ充電器に次いで、いつも持ち歩くものには安心をプラス。
●他カテゴリーからの応用:アウトドア、介護、ワーキング
いまや、キャンプ用品などのアウトドア系商品は、そのまま防災と兼用できる基本アイテムとされています。さらに、介護や工事などのカテゴリーにおいても、現場で活躍している優れものの数々に応用の可能性があり、大いに注目です。
介護などの福祉用品では、大人用おんぶひもや、ポータブルトイレなど、災害時にも実力を発揮するグッズが様々。また、ワーキングウエアで人気のチェーンからは、防水防寒力抜群のパーカーや、バケツに早変わりする防水トートバッグ、災害時のケガを防止するゴム背抜き手袋など、高機能商品が続々登場しています。
[Tips]
「しまう」から、「使う」防災へ。非常・日常・仕事・余暇…フェーズフリーに。
今後の行方 新たな時代にむかって
災害は来ないことがベストです。しかしながら、自然のなかに生きる以上、それは不可避な存在であり、まず備えることで少しでも減災につなげていかなくてはなりません。あらためて、身を守るという観点で、防災はくらしの一部として肝要なものです。
しかし、それだけではありません。同時に、自然の猛威というものから、生きることそのものを学ぶこともできます。現代人は文明の利便性に支えられて、ついそのことを見失いがちです。しかし我が国でも、自然災害の頻発に加え、経済成長低迷や世界情勢不安という流れにあって、いかに人生100年時代を安全に生き抜くことができるかという「サバイバルな問題意識」が一人ひとりに芽生えつつあります。 そうした状況と並行して防災教育の需要が高まるなか、「防災サバイバルキャンプ」型の林間合宿など、防災を通じて生きる力を養う様々な取り組みが始まっています。特に工夫を凝らした例として、「防災小説」ワークショップがあります。実際に災害に遭遇したと仮定し、自分を主人公にして物語をつづり、どう行動すべきか、どんな気持ちになるのか、命の重みとはいかなるものか、その後どう生き抜いていくのか、身を以て最大限に想像力を働かせるものとして評価されています。
今まで私たちは、決まりきったカリキュラムやルーティーンに沿って過ごすことを日常ととらえてきました。しかし時代は、もはやそう簡単に進んでいかない流れにあります。直面する様々な課題にしっかり向き合って、自ら知恵を出し、新たな構想をもって生き抜くという能力が求められていきます。防災を学ぶことは、予想していなかった様々な困難を乗り越えるチカラを育む、まさに、これからの時代に不可欠な修養につながっていくのです。
[Tips]
防災こそが、新たな時代の人生の学びをくれる。