筆者は「広告」というものが好きで、それはセレンディピティの典型のようなところがあるからなのですが、今この時代に広告が好きだと語られることは少なくなっているのではないでしょうか。筆者自身の実感としても 今は広告に勢いがある時代とは感じられないのが残念なところです。今回は「広告」が好き、或いは嫌いと言われるその理由を考察し、今後のヒントを導き出したいと思います。
広告が魅力を発していた時代
広告が魅力を発していた時代(1980年代~90年頃)、勢いのあった広告は、時代を表すコピーとグラフィックが素晴らしかったものでした。当時はテレビCMもグラフィック広告の影響を大きく受けていました。コピーライターは広告の枠を超えて、出版界、音楽界(作詞)、アカデミーなどといった別の領域と行き来して活躍していましたし、グラフィックデザイナーはファッションやアドボード、ロゴタイプなどを通じて自身のアートの思想を投影することで、街の“装い”にも関わっていました。こういった時代の変化の先端と広告界が作用し合って新しいものが生まれて、時代の”空気感”をもたらしている感じが確かにあったのです。それが「広告」が魅力的だったということなのです。「広告」が好きだと語られている時代でした。
Tips 1980年代~90年頃、時代の”空気感”をもたらす「広告」が好きだと語られていた。
いま、広告へのネガティブ評価
続いて、いまの広告を取り巻いている状況に触れることにしましょう。 最初に マスメディアにおける広告の方に目を向けてみましょう。広告というものはメディアにおけるメインコンテンツではなく、あくまで付帯的に現れるものです。中でもテレビやラジオにおいては番組を中断して放送されるものでしたので、もともと好まれるポジションにはいなかった訳ですが、フォーマット、クリエーティブ、エンタメ要素など様々な視点からのブラッシュアップと創意工夫を加えられたことでユーザーから受容され、現在の形が出来上がっています。
「嫌い」という評価については、昨今では特にデジタル広告において強く見られます。下記の図はJIAA「2019年インターネット広告に関するユーザー意識調査」
※1の結果ですが、いくつかの調査でも同様に「不快」 や「うっとうしい」といったネガティブな反応が顕著に表れています。
こうした傾向に関しては、首相官邸の「デジタル市場競争会議」
※2でも課題となっており、「デジタル広告市場の課題と懸念点」としていくつかの指摘がなされています。
消費者の7割が、ターゲティング広告に対しネガティブである(煩わしい・どちらかというと煩わしいと感じている)。ターゲティング広告に利⽤されるデータを提供する消費者からは、パーソナル・データの扱いに対する懸念の声がある。(消費者の8割は、ターゲティング広告に対し、事前に設定を変えることができたら外したいという意見を持っている。)
業界の対策としては、アップル社に代表されるプライバシー保護措置も推進され始めています。これによって関係するプラットフォーマーの中には自社の広告収入が減少すると予想する会社も現れていますが、プライバシーに不安を持つユーザーにとってこの措置は朗報と言えるでしょう。
Tips デジタル広告で広告への嫌悪感が強い。改善の動きもある。
考察)クリエーティブとメディアフォーマット
広告の印象をかたちづくるのには重要な2つのファクターがあります。ひとつは「表現(クリエーティブ)」、もうひとつは「露出様式(メディアフォーマット)」です。前述のとおり、多くのユーザー=メディア接触者(視聴者、聴取者、読者、インターネット利用者)にとって、広告は主目的の対象ではありません。当然ながらメインコンテンツからの情報取得を目的にしているのです(ニュースなどに限らず広くエンタメコンテンツを楽しむことなども含む)。
しかしその際に「1. その主目的である情報取得を阻害するようなこと」や、「2. 情報取得のために整えた快適な接触環境を損なわせるようなこと」が起これば、感情を害し(イラっとする、むかっとする、モヤモヤするなど)、それがネガティブに働くわけです。
テレビやラジオでは放送局の決めたメディアフォーマット(露出様式)に則って視聴/聴取せざるを得ません。それは変えようがないと認識されているものであり、「広告が流れること」について予め認識のうえでCM露出のタイミングを迎えることになります。このため表現については様々な評価が行われるものの、露出様式についての評価は特に発生することがありません。
一方のインターネットでは、表現クリエーティブの評価そのものより「メディアフォーマット(露出様式)」に関して、“予想していない状態”で“問題がある出方”が発生し得るところに違いがあり、これによって強い嫌悪感が発生するという構造になっています。
※“問題がある出方”とは、例えば、インターネット利用中の「ポップアップ広告」「画面全体を占領する広告」「スキップできない動画広告」「映像や音声が勝手に流れる自動再生広告」等です。
Tips 嫌われる広告の理由考察(その1):デジタル広告のメディアフォーマット(露出様式)
加えてターゲティング広告については「(関心がなかったとしても)何度も、何か所も、同じ広告が出る」というところに気味悪さがあるというのです。さらにこれがクリエーティブ表現上で質の低い広告だった場合にはなおさらです。(※上記 JIAA「2019年インターネット広告に関するユーザー意識調査」※1結果参照) 前述の 首相官邸「デジタル市場競争会議」※2の資料に「消費者がターゲティング広告を煩わしく感じている背景」という項目があります。
消費者がターゲティング広告を煩わしいと思う理由:
① 求めていない内容の広告が表示される。
② 同じ内容が執拗に表示される。
③ 私個人をターゲットに提供されている。
④ 自分の意思を誘導されているように感じる。
⑤ 要配慮情報などを基に(選んだと思われるような)広告が表示される。
⑥ (ターゲティング広告と思われるものは)すべての内容を不快に感じる。
⑦ インターネット広告におけるデータの取得・利用に懸念がある。
⑧ 居住地域、位置情報を活用されることに対する拒否感が強い。
⑨ 行動・購買履歴等を利用したターゲティング広告に対する抵抗感がある。
このような、ユーザーにとって望ましくない広告のメディアフォーマット(露出様式)がまだ存在しているのは、マスメディアに比べて遅れて登場したインターネット広告業界において、長らく業界としてのコントロールタワーが機能していなかったことに原因があったものと筆者は捉えています。
ずいぶん時間を要したわけですから、ユーザーの保護、ユーザーオリエンテッド思想を念頭に、関係者、特に広告配信事業者が率先してこうした環境を改善することが求められます。
Tips 嫌われる広告の理由考察(その2):ターゲティング広告への嫌悪
これからの広告のヒント
さて、話を戻していきますが、これから広告が「好かれる存在」になるためにはどういった方向性が考えられるのでしょうか。ひとつ、ヒントになりそうな視点があります。それは広告をコンテンツとして捉えたときの「フロー型」と「ストック型」それぞれの違いです。
フロー型コンテンツ |
ストック型コンテンツ |
短期間での大量拡散が求められる 同一情報を多数に向けて拡散する 大量生産-大量流通-大量消費に向く マスメディアネットワークが得意とする
例)新聞、ニュース、広告など |
ストック型コンテンツ 長期間の利用が求められる 利用者は短期的には少ないが、長期にわたって保存される 適宜取り出して利用される
例)書籍、レコード、映画、ドラマなど |
同一性、均質性 |
多様性、独自性 |
「フロー型コンテンツ」は、新聞やニュースに代表される、同一情報を短期間で大量に拡散するコンテンツの型であり、マスメディアネットワークが得意としています。ここで流れるコンテンツは瞬発力が命です。基本的にはその即時性に価値があり、それゆえに消費されたら捨てられるようなものです。情報の大量生産―大量流通―大量消費といったイメージです。マス・マーケティング・モデルにマスメディアネットワークを使った従来型のマス広告スタイルはこちらにあたります。現在のインターネット広告(デジタル広告)のアドネットワークもこちらだと言えるでしょう。
これに対して「ストック型コンテンツ」は、長期保存される情報コンテンツであり、豊富な情報や文脈を持ち得ます。メディアデバイスとしては書籍やレコードのようなものが代表的です。放送で言えばニュースというよりも記録性の高い番組というイメージでしょう。時には別途パッケージコンテンツとして発売されるようなものです。接触人数は短期的には少なくても、長期にわたって保存されていることから、適宜取り出して利用されるようなイメージです。情報は豊富にあるため、そのコンテンツを何度も読み返したり聴き返したりすると新たな発見があったりしますので広告的にも複数の切り口が活用できそうです。
Tips コンテンツには「フロー型コンテンツ」と「ストック型コンテンツ」がある
さて、これまで「広告」は、上記の「フロー型コンテンツ」を典型としてクリエーティブを制作し、メディアで露出展開されてきました。なるべく多く製品をつくり、なるべく多くの人に買ってもらいたいーというマス・マーケティングの思想のもとで 「予算内でなるべく多くの人に知ってもらうために忘却されない短期間のうちに多く露出する」というのがマス広告の基本形でした。
しかし、大量生産・大量消費というマーケティング・モデルが、持続可能性の観点から考え直されてきている時代を迎えた現在では、消費者の意識や志向も変化し、大量生産品よりも、クラフトワーク/工芸品的な少量生産ものの方に価値の高さを見出すような変化が起きているようです。筆者は、こうした変化に追随して、広告のかたちも変わっていくことになるだろうと想像しています。
Tips 広告は「フロー型コンテンツ」だが、「ストック型コンテンツ」への展開性にヒントがある
まとめ
一例を挙げれば、世の中のサスティナビリティニーズに応えられる商品づくりを推進するためには、現実的には調達・生産・物流・販売といったサプライチェーン全体についてサスティナビリティを意識して取り組まなければなりませんが、その取り組みの産物として、そこには時代の変化に対応するための思想や、実現のための工夫が生まれていることでしょう。広告コミュニケーションの視座からみれば、それによって自ずからストック型コンテンツが蓄積されているということになっているでしょうし、当然ながらそのストック型コンテンツはコミュニケーション上でも有効に活用されるようになることでしょう。クリエーティブはより深くなり、長尺ものが求められるかもしれませんし、バリエーションが多くつくられることになるかもしれません。記録性のニーズも一層高まるかもしれません。
近い未来において、付加価値の高い少量生産品を多様性や独自性といった特徴を価値として提示していくとき、貴方はどのような広告コミュニケーションのかたちを採るでしょうか。例えばそれを考えるのが時代を面白く変えていくことに繋がるのかもしれません。そしてそれがアドマンを活き活きさせ、周囲に広告好きを増やしていくのかもしれませんね。
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