「知的障害スポーツ」と聞いて、まず正確に知的障害の定義から説明できる方は少ないかもしれませんが、実際に競技として存在しているだけでなく、マーケティング活動も行っているのです。今後の「共生社会の実現」など、企業が「社会解決型マーケティング活動」を推進するうえで、是非正しく理解し、このページでヒントを得ていただけたら幸いです。
知的障害スポーツについて
まずは、「知的障害」の定義からご説明いたします。内閣府による「平成30年版障害者白書」によりますと、身体障害者(児)436万人、知的障害者(児)108.2万人、精神障害者392.4万人が日本国内で生活している、とされています。知的障害者(児)は平成23年から約34万人増えており、要因としては知的障害への認知が高まり、手帳取得者が増えたことがあげられています。
厚生労働省の「知的障害児(者)基礎調査」において、「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に障害が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義しました。ここで重要なのは、知的障害の判定について、法的な基準がないという点です。判断基準としては、①『知的機能の障害』標準化された知能検査(ウェクスラーによるものやビネーによるものなど)によって測定された結果、知能指数がおおむね70までのもの②『日常生活能力』自立機能、運動機能、意志交換、探索操作、移動、生活文化、職業等の日常生活能力の到達水準が総合的に同年齢の日常生活能力水準と比べ程度を判定する(下記厚生労働省HP参照)、としています。障害の判定は、18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所で判定し、療養手帳が発行されます。判定基準や区分、手帳の名称が自治体により異なるのも、状況をより複雑にしています(東京都:愛の手帳、重度区分1度・2度・3度・4度、埼玉県:みどりの手帳、重度区分マルA・A・B・Cなど)。
*知能水準がI~IVのいずれに該当するかを判断するとともに、日常生活能力水準が a ~ d のいずれに該当するかを判断して、程度別判定を行うものとする。その仕組みは下図のとおりである。
(
厚生労働省HPより引用)
知的障害者が参加するスポーツにおいては、1986年、スポーツに携わり、精神障害のあるアスリートのエリートスポーツへの参加を促進したいと考えていたオランダの専門家によって国際知的障害者スポーツ連盟(Virtus、旧INAS)が設立され、現在「知的指数(IQ)が75以下」「社会適応能力・生活能力の障害が明らか」「18歳未満の発達期に現れる」選手が参加資格と定義されています。
この参加資格の明確化は、1990年代以降パラリンピック競技の拡大が期待される中、2000年のシドニー大会において新種目となったバスケットボールでの事件がきっかけでした。男子バスケで優勝したスペインの選手12人のうち10人が健常者であったことが内部告発で発覚したのです。見た目では判別しづらいことが盲点になった出来事で、スペインは金メダルをはく奪、知的障害スポーツはパラリンピックの競技から実施されなくなりました。その後、国際パラリンピック委員会(IPC)は障害の科学的な証明を求め、2009年にチェコで開催されたINAS-FID(現Virtus)グローバル大会において、クラス分けでの統一的な評価のトライアルを実施し、要望に応えました。このトライアルによって認定基準が確立された「陸上」「水泳」「卓球」の3競技が2012年のロンドン大会において、復活することになりました。
パラリンピック以外の国際大会としては、Virtus(旧INAS)が主催しているグローバルゲームズやスペシャルオリンピックス国際大会(1968年設立・スペシャルオリンピックス主催)などがあり、前述夏季パラリンピック3種目+冬季パラリンピック種目であるスキー以外の競技も行われています。
日本においては、1992年に「全国知的障害スポーツ大会」が東京で開催され、2000年に「全国身体障害者スポーツ大会」と統合、現在は「全国障害者スポーツ大会」として、以降毎年開催されています。
Tips
知的障害は法的な判定基準がなく、身体障害と異なり外見からも見分けがつきにくいが、約110万人が存在し(※手帳発行していない人数は把握しづらい)、社会において理解が必要。スポーツ競技としては判定の科学化により、クラス分けなど徐々に整備されつつある。
日本における知的障害スポーツ競技団体とマーケティング
Tips
競技団体は資金不足のケースが多く、協賛金は非常に貴重。競技団体と一緒に、「アスリートファースト」の意識を大切に寄り添うことが肝要
知的障害スポーツの今後について
2023年4月、日本知的障がい者陸上競技連盟が日本パラ陸上競技連盟と統合しました。
この動きを加速化させたのが、文部科学省が2022年8月に発表した、「
障害者スポーツ振興方策に関する検討チーム報告書(高橋プラン)」です。この報告書においては、「東京大会のレガシーを基盤とした、スポーツを通じた共生社会の実現に向けて」といったサブタイトル通り、普及面では都道府県における障害者スポーツセンターの整備、育成面ではコーチ・審判といった資源への支援などが言及されています。そして、共生社会の実現に向けた競技団体のあるべき姿として、「オリ・パラ競技団体または障害者スポーツ団体間の統合を視野に入れた連携環境の整備」がうたわれています。
団体が統合することで、事務局のスタッフやコーチ不足の解消、効率的な練習場所の確保など、さまざまなメリットが考えられます。
Tips
知的障害スポーツ団体は今後、肢体障害のスポーツ団体との統合が進むことで、組織体質が改善されることが期待できる
まとめ
いかがでしたでしょうか?知的障害および知的障害スポーツについて、新たな発見はありましたか?
企業のマーケティング活動における、今後の社会解決型参画といった視点において、知的障害者スポーツへの協賛は選手の扱い方の難しさなど、より一層の障害に対する知識や理解が必要といえます。ただし、真の共生社会の実現に向けて、障害に対する知識や理解は避けて通れない一面も存在していると考えられます。よりよい共生社会の実現に向けて、マーケティングを通してできることをこれからも考えていきたいと思います。