若者はテレビを見ていないのか?若い世代とメディアの関係

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若者はテレビを見ていないのか?若い世代とメディアの関係

ここ数年、メディア調査の結果を受けて「若い世代のテレビ離れ」というテーマが話題になることが多くなりました。これは主として「メディア接触時間の世代間比較」と「デジタルメディアの隆盛」という文脈において語られますが、切り口としては、若い世代(10代・20代)でのメディアデバイスの接触時間で1位がデジタル機器、2位がテレビ受像機であるという調査結果が出たことについて、また、テレビの視聴時間が長い高年齢層(主に50代以上)との比較において、述べられているようです。

ここでは、「若い世代のテレビ離れ」の実態について具体的に触れ、そして「広告を掲出するメディア」としてはどのようなかたちが望ましいのか、について考えていきたいと思います。

「若い世代のテレビ離れ」について

総務省情報通信政策研究所が毎年発表している「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」 には、各メディアの利用時間と行為者率が世代ごとに掲載されています。

表1は、特に利用時間の多い「テレビ(リアルタイム)視聴」、「インターネット利用」について世代別の推移を直近10年分で抽出したものです。同調査書のp5に「(5)備考 経年での利用時間等の変化については、調査時期の違いによる影響や単年の一時的な傾向である可能性も否定できず、継続的な傾向の把握については、今後の調査等の結果も踏まえる必要がある」と記載があるように、各年の調査時期の利用環境、すなわち新デバイス・新サービスの登場や普及、イベントの有無なども見ていく方が良いのですが、ここでは10年の大きな潮流を捉えることにフォーカスしたいと思います。


表1)
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※今回はスペースの関係上平日のみを取り上げます。
※詳細は別章および上記の総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」に掲出されています。


テレビのリアルタイム視聴時間 世代別概観

まず、スコアが高い50代・60代の「“テレビ”のリアルタイム視聴の利用時間」を見てみます。50代では主に3時間台、60代では4時間超といったところです。この世代は“テレビっ子”という言葉が生まれた時代(1960年代と言われています)に子供時代を過ごしていた世代でもあり、テレビとともに成長してきた世代とも言えそうです。 一方で、10代は2021年にはテレビのリアルタイム視聴時間が1時間を切りました。このことは一部メディアでもニュースになりました。20代でも2021年に71.2分と減少しています。しかし、ここ10年での世代間比較において、もともと10代・20代がテレビを多く見ていたかというと、そのようなことはなく、「高年齢層ほど多く低年齢層ほど少ない」という傾向そのものには変化はありません。元来、若者ほど外出が多い、というのが一般的な感覚であるように思います。

ある意味では、若い世代はテレビに“没入”しない生活様式になっているといってもよいでしょう。一方でスマホ依存が心配されている状況(スマホ脳/アンデシュ・ハンセン著 など)も存在していますが。

インターネットの利用時間 世代別概観

一方のインターネット利用について表1を見てみると10代・30代を除く各世代で増加を見せています(直近の単年比較では、2021年の10代の減少は後述する2020年のコロナ禍の反動もありそうです。2021年の30代は微減だがほぼ横ばい。)。世代別では2021年には20代では4時間超、10代・30代でも3時間超。40代でもほぼ3時間というレベルまで。50代・60代でも例外なく伸びています。

考察1. [テレビリアルタイム視聴]+[ネット利用]の合計時間の極大化 と“ながら利用”

ここで、さらにもうひとつ踏み込んで、[テレビのリアルタイム視聴時間]+[ネットの利用時間]の合計時間を見てみましょう。2020年に極大化(2020年のスコアは調査期間:令和3年1月12日(火)~1月18日(月)が、コロナ禍での11都府県を対象とした緊急事態宣言下で行われたものであることに留意が必要 。)しています。2021年はコロナ禍の影響が少々薄れたためか、メディア利用時間全体が2020年と比べると減少しましたが、10年前の2012年との比較では全世代にわたって2020年&2021年で著しい増加がみられます。
なお、表1に掲載していない「テレビ(録画)視聴」、「新聞購読」、「ラジオ聴取」に関して、この増加分に対応するような数字減はありませんでしたのでこれらからのシフトではなく、[テレビリアルタイム視聴]+[ネット利用]の合計時間は、ほぼ純増したとみなしてよいでしょう。

この結果からは、40代以下の若い層では、テレビのリアルタイム視聴時間の一部を削っていること、それ以上にメディア接触以外の時間の一部をネット利用時間に向けていることが、見えてきます。40代以下は、上の世代ほど時間に余裕が無いことがここからも見えてきます。
但し、それほど切り出す時間に余裕がない際には一部、「並行利用(ながら利用)」=何かをしている時間に重複してネットを利用すること、も出てきています。実社会においても「ながらスマホ」(歩きスマホはやめましょう)をはじめ、食事の最中にスマホ、会議の間に「ちょっとメール返信だけします」というような姿は、マナー上の良し悪しは別にして、珍しくはありませんよね。
また、この「テレビのリアルタイム視聴時間の一部を削る」ことの代替措置として「倍速視聴」のような姿が現れているのではないかと筆者は捉えています。 

考察2.「ネットの利用」:エンタメ利用と業務利用

この調査における「ネットの利用」とはいったいどのようなものであるか、その内容を確認していきましょう。 

下記の表2を見てみると、「メールを読む・書く」「ブログやウェブサイトを見る・書く」「ソーシャルメディアを見る・書く」「動画投稿・共有サービスをみる」が上位4項目になっています。このうち10代・20代では「ソーシャルメディアを見る・書く」「動画投稿・共有サービスをみる」が上位です。(表3のサービス別利用率を参考にするとLINEとYouTubeをしているーというようなイメージですね。)また、全年代でのトップ項目である「メールを読む・書く」は高年齢層ほど高く表れています。

あわせて表4も見てみると昼間の8時台から18時台まではテレビよりもネット利用のスコアが高く出ています。この昼間の時間帯での利用シーンを考えると、この「ネット利用」の中身は娯楽/エンタメのみではなく業務関連用途の利用率も入っているものと思われます。同様に10代・20代の「ソーシャルメディアを見る・書く」もエンタメ系コンテンツサービスを受けるのみに限定されるものではなく、メールに代わる情報伝達共有機能としての業務関連用途での利用も高くなっているのではないかと考えられます。




広告対象としてのメディア考察

これまでの調査結果から得られた、若い世代、とりわけ10代・20代のネット利用時間の増大と、テレビ(リアルタイム)視聴時間の減少について、広告視点から考察してみたいと思います。

広告メディアとしての「ネット」(デジタル広告)の課題

これまで触れたとおり利用時間が増えている「ネット」。しかし残念ながらそこに掲出される広告には、低品質なものも少なくないように見受けられます。クリエーティブの質が低いもの、公衆の面前で出してほしくないような表現のもの、表出方法がメインコンテンツの邪魔をするもの、同じ広告が繰り返される…等々。テレビ等マスメディアと比べて受け止める消費者のためのコントロールが効いておらず、かえって逆効果になるのではないかと思われるものも残念ながら存在します。
こうした声は少なくないようで、首相官邸の「デジタル市場競争会議」でも取り上げられており、「デジタル広告市場の課題と懸念点」として以下のような指摘がなされています。

デジタル広告市場は、デジタル市場のマネタイズのためのインフラとして大きく成功したが故に、いわゆる「アテンション・エコノミー」につながり、デジタル社会の様々な歪みを同時にもたらしている。広告主にとっては、悪意の者による広告収⼊の不正取得(アドフラウド)、ブランドを毀損しかねないサイトに広告が配信されるリスク(ブランドセーフティ)、消費者に広告が視認されない(ビューアビリティ)などの問題が存在している。請求の基礎となる広告の表⽰回数等について第三者による客観的な測定がなされていないとの不満も存在している。
消費者の7割が、ターゲティング広告に対しネガティブである(煩わしい・どちらかというと煩わしいと感じている)。ターゲティング広告に利⽤されるデータを提供する消費者からは、パーソナル・データの扱いに対する懸念の声がある。(消費者の8割は、ターゲティング広告に対し、事前に設定を変えることができたら外したいという意見を持っている。)

あわせて、同会議の資料に「消費者がターゲティング広告を煩わしく感じている背景」という項目がありましたので、以下にご紹介します。

消費者がターゲティング広告を煩わしいと思う理由
1. 求めていない内容の広告が表示される。
2. 同じ内容が執拗に表示される。
3. 私個人をターゲットに提供されている。
4. 自分の意思を誘導されているように感じる。
5. 要配慮情報などを基に(選んだと思われるような)広告が表示される。
6. (ターゲティング広告と思われるものは)すべての内容を不快に感じる。
7. インターネット広告におけるデータの取得・利用に懸念がある。
8. 居住地域、位置情報を活用されることに対する拒否感が強い。
9. 行動・購買履歴等を利用したターゲティング広告に対する抵抗感がある。
こうした現状の課題を把握したうえでの改善に向けた取組が始まっています。
・日本においては、広告の効果について分かりやすいアウトカムを求める傾向が強い
このような傾向に強く影響を受けて、デジタル広告が、「ブランディング」のための手段ではなく、「販促」のための手段として発展したとの指摘がある。つまり、「見せる」ではなく、「行動させる(買わせる)」ということに主眼があった。
近年は、デジタル広告においても、「クリック広告ではなく、ブランド力を高められるようなサイトで、ちゃんと広告が掲載されて、かつ、ちゃんと読んでもらった上で消費者を誘引しつつ、ブランド・ビルディングをも目指す、といった意識を持つ広告主も徐々に増え始めている」との意見もある。

・デジタル広告市場がもたらす社会の「歪み」
デジタル広告が下⽀えとなる中で、⾏き過ぎたアテンション・エコノミーがもたらす「フィルターバブル効果」、「フェイクニュース」等の歪みが顕在化。これらの弊害を緩和し、「Trusted Web」構想によるTrustをベースとしたデジタル社会の構築を⽬指す。

出典:首相官邸 第5回デジタル市場競争会議(令和3年4月27日)配布資料より(抜粋)

デジタル広告は、「消費者のために」という設計面運用面での意識が、マス広告に比べると低いところがありました。その成り立ち、歴史の短さ、プレイヤーの多さ等 さまざまな背景もあるでしょうが、改善に向けての動きは国も率先して進めようとしているところまで来ました。
テレビ広告も草創期から批判や規制が講じられて今の姿に至っています。
広告主側の現時点の防衛策として、デジタル広告出稿のプランニングにあたっては、せっかく行った広告出稿が逆にネガティブな印象を持たれることがないように「消費者のために」という視点でチェックしながら進めたいところです。具体的には、TPOを考えていない、買わせることを前面に出しすぎる広告クリエーティブや、邪魔をしても前面に出てくるようなネガティブな印象を生む広告手法からはすぐに脱却しなければなりません。


テレビ(リアルタイム)視聴時間の減少についての考察

情報爆発や情報洪水、データ流通量の拡大といった言葉を持ち出すまでもなく、今日の私たちはオンオフ問わず情報処理を行って生活しています。

情報処理時間の捻出志向

今回のテーマに戻って、若い世代に注目しますと、限られた時間の中で多くの情報処理を行おうという状況に身を置かれれば、録画やTverなどの【事後タイムシフト】、さらに「倍速視聴」や「ダイジェスト型視聴(YouTubeでのあらすじ解説、逮捕者も出た「ファスト映画」のようなものも含む)」のような【時間節約】、さらには「スタート前のドラマの事前解説(予習、或いは“失敗”しないための事前選択用)」といった【失敗回避】など、時間の効率的利用や節約思考が行動に現れてくるのも、こうした環境下での工夫の表出であるということが認識できます。若い世代は表1のとおり全くテレビを見ないわけではなく、番組コンテンツは見ているし、表6のとおり信頼できる情報入手メディアとして、テレビは(新聞と共に)スコアが高い結果が出ています。リアルタイム視聴時間は減っても、テレビのコンテンツは必要とされているのです。


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“ライブ(視聴)”という捉え方

若い世代には、テレビのリアルタイム視聴を「ライブ(視聴)」と呼んでいる人もいます。これは、もう既に「タイムシフト視聴」の方が一般的で、「ライブ(=リアルタイム)視聴」の方が特殊であるということを示しているのかもしれません。別の言い方をするなら、時間の効率化や節約というコントロールをしないで、わざわざテレビを「ライブ」で見るには“イベント”に参加する理由が必要であると捉えなおすということかもしれないのです。時代はここまで来ているのですね。

テレビ番組がネットコンテンツの再録で構成されているようなかたちでは、こうした若い世代はそれらを見る必要性はあまり感じないでしょう。ヴァルター・ベンヤミンの言うところの「いま」「ここ」だけのものに宿るという「一回性のアウラ」が、これからのテレビにはいっそう必要なのではないでしょうか。

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