デザイン・シンキングとマーケティング、そしてアート・シンキングへ

マーケティング

デザイン・シンキングとマーケティング、そしてアート・シンキングへ

【イノベーションを志向するマーケターのために】
マーケティングはサイエンスとしての側面があり、その点からはロジカルであることが重要視されてきました。ロジカル・シンキングは全てのビジネスにおいて重要なことであって、ロジカルに顧客の行動を分析し、戦略を立て、適切に測定した結果に基づいて次の戦略を立案するというステップは、マーケティングの領域に限らず、ビジネスを成功に導くために必要な要素です。

一方、ロジカル・シンキングとは対立するかのようなイメージのあるデザイン・シンキングやアート・シンキングという言葉を耳にすることが増えてきました。ただ、これらは必ずしもロジカル・シンキングの対立概念ではありません。

本稿では、デザイン・シンキングやアート・シンキングという考え方が出てきた背景と、そのポイントについて解説していきます。


デザイン・シンキング

デザイン・シンキングの定義

デザイン・シンキングのポイントは、人を中心とした考え方であるということです。個々のデザイナーやデザイン会社によって、それを言葉にしたときにはそれぞれの違いがありますが、有名なものに、デザイン業界を長きにわたってリードしてきたIDEO社のティム・ブラウン氏によるものがあります。
そこでは、デザイン・シンキングは人を中心としたアプローチであり、人々のニーズや技術的な可能性、そしてビジネスの成功のための要件を統合したものであるとされています。

デザインは、その美しさの価値もさることながら、マーケティングの領域に応用される場合には、製品やサービスが顧客となるターゲット層のニーズに合致したものであることが重要で、そのためにデザインの要素が考慮されることになります。例えば、Webデザインを行う際に、ユーザにとって見やすい画面になっているか、サイト内を見て回る際に、分かりやすい導線になっているか、サイト内で探している情報にたどり着きやすいか、といったことをデザインしておくことが必要です。
Webサイトにおける「エクスペリエンス・デザイン」とは、ユーザが利用しているサイト内でよりよい体験ができるように、これらの要素を考慮してサイトのデザインを行うということです。
また、これはWebサイトのようなデジタルでの体験のみならず、商品を利用するときの体験でも同じことがいえます。例えば、上記のIDEOはアップル・コンピュータの初期のマウスを設計したことで有名ですが、そのようなプロダクト・デザインの領域でも、製品を利用する人を中心に考え、利用する人のニーズを満たすような製品をデザインするという点で、デジタルの領域もリアルなプロダクトの場合も同じです。

デザイン・シンキングの各ステップ

マーケティングなどのビジネスにおけるデザイン・シンキングのプロセスは以下のように進められます。
人を中心としたアプローチは、まずは顧客についてのインサイト=深い洞察に基づいています。顧客のニーズを本質的な部分で理解し、そのニーズを満たす製品やサービスを設計する必要があるからです。
また、そのビジネスが成立する(Feasible)かどうかという点も考慮する必要があります。いくらそのサービスや製品のデザインが画期的であっても、それがビジネスの観点から見たときに成立しえないものであってはならないからです。
さらに、そのデザインが技術的に実現可能かどうかという点も考慮する必要があります。この点を検証するために、プロトタイプを作成するという方法がとられます。プロトタイプは、その製品やサービスの試作品のことで、技術的に確認をするためのものです。デザインが画期的なものである場合、それが技術的に実現可能ではない場合も往々にしてあります。プロトタイプを作成して、その検証をすることは、デザイン・シンキングの成果を具体的な形に実現するために重要なステップです。

デザイン・シンキングの応用例

このようなデザイン・シンキングですが、IDEOをはじめとするデザイン会社の多くの実績のみならず、様々な業種や業界でも応用されています。例えば、Googleの新規事業開発のための内部組織であるGoogle Venturesの事例であるDesign Sprintがあります。
Google Venturesによれば、Design Sprintは顧客とともにアイデアの設計、試作、テストを重ねることにより、事業における重要課題に応えるための5日間のプロセスです。それは試⾏錯誤を重ねた末に事業戦略、イノベーション、⾏動科学、デザイン思考などの要素をパッケージ化されたプロセスとして組み込んだものであり、あらゆるチームが活⽤可能なものです。

5日間のプロセスは、

  • ターゲットの設定などを行うコンシューマージャーニーの策定
  • 課題解決のためのソリューションのスケッチ
  • 可能性の高いソリューションを選定した後にプロトタイプのカンプを作成する意思決定のプロセス
  • プロトタイプ作成の実施
  • ユーザーテストを実施した後にラップアップ
といったものです。こうした開発のためのプロセスを5日間で行うことで、開発のスピードを上げつつ、顧客を中心にしたデザインに基づいた開発を行うことができます。これはGoogleに限らず、他の業種の企業でも応用可能なプロセスであるといえます。

Tips 。デザイン・シンキングのベースは、人を中心としたポイントが発想の起点であるということ。デザイン・シンキングの考え方に基づいた開発プロセスの方法には様々なものがあるが、基本的に、顧客のインサイト、ビジネスの可能性、技術的な実現性を検証しながら進めていくもの。

アート・シンキングとは

デザイン・シンキングとアート・シンキングの違い

デザイン・シンキングと同様に、近年に話題になっている概念にアート・シンキングがあります。「デザイン」と「アート」は概念として近いものとして捉えられがちですが、根本的に異なっている部分があります。

アート・シンキングは、その発想が顧客のニーズから捉えられるものではなく、まさにアーティストのように、自分の内面から生まれてくるものです。デザイン思考は顧客からの要求が完成品の達成基準ですので、プロトタイプづくりを重ねて、その水準に達するまで作業が続きます。しかしアート思考の場合は自分自身が本当に満足するまでそれは完成されません。

主に、アート・シンキング的な考え方は、イノベーションを求める企業や組織において必要とされるものだと思われます。従来の発想と異なった考え方は、顧客のニーズを分析して得られるものではなく、アート作品を作るように、自分の内面から生まれてくるものである、ということです。

ただし、デザイン・シンキングのプロセスもイノベーションを追求する組織で活用されるものでもあり、その発想の起点は異なるけれども、どちらも新しいものを生み出そうとする方向性は共通しているといえます。

アイディエーションへの応用

マーケティングの領域に限らず、新しいことをやろうとするときは、アイデアを生み出すことが必要です。そのようなアイディエーションの手法には様々なものがありますが、古典的なアイディエーションの手法はブレインストーミングです。ブレインストーミングは、多くの人がアイデアを出し合い、それをベースにイノベーティブなものを生み出そうとする方法ですが、昨今は、そのバリエーションとなるような手法が様々に考え出されています。多岐にわたるため、本稿ではその詳細な内容は割愛しますが、アイデアを生み出そうとするときに、アート・シンキング的な考え方は、とても重要です。

アイデアを生み出すことは、単なる偶然のひらめきに頼るのではなく、様々に存在する具体的な手法を活用することで、可能になるものです。上記のDesign Sprintのような手法も、具体的にアイデアを生み出すための方法の一つです。

このような手法を活用しようとする際には、広告会社のようなアイデアが勝負の世界で活用されてきたファシリテーションの手法などが有効な場合が多くあります。自社だけでは運用が難しそうというときには、そのような広告会社に相談をしてみるのも有効かと思われます。

Tips アート・シンキングとデザイン・シンキングの最大の違いは、発想の起点が顧客か、自分自身かという点。デザイン・シンキングやアート・シンキングの領域で活用されているアイデアを開発する方法は、広告会社などの専門家に相談してみるとよい。

まとめ

デザイン・シンキングとアート・シンキングは似たようなものとして捉えられることが多いですが、共通の領域がある一方で、根本的に異なった点もあります。どちらもイノベーティブなサービスや製品を開発しようとするときに重要な考え方となるものであり、実際に活用しようとする際には専門家に相談してみるのがよいでしょう。適切なアドバイスを得つつ、自社のビジネスに応用してみることが重要だと考えられます。

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