インターネット調査の調査票づくり、チェックポイントを徹底解説

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インターネット調査の調査票づくり、チェックポイントを徹底解説

定量調査の定番がインターネット調査となって久しいですが、インターネット調査がなかった時代の定量調査を振り返ってみると、電話調査、郵便調査、戸別訪問調査等が主なものでした。訪問調査は時間もコストもかかりましたし、手書きの回答の集計に大変手間がかかりました。電話調査ならばすぐに実施できますが、画像の提示などはできませんでした。今考えれば帯に短し襷に長しの状況だったと思います。そのあたりの短所を解決した、インターネット調査による安価なサーベイが今は主流になりました。

すっかり様変わりした感のある定量調査ですが、あまり大きく変化していないと思われるのは調査票づくりです。調査方法がどうであれ、今も昔も雑な調査票からは雑な調査結果しか得られません。そこで今回は、インターネット調査で期待した結果を得るための、調査票のチェックポイントについてご説明します。

調査票チェックの重要性

商品やサービスならば、消費者からのクレームや評判などによって問題点を認知することも可能でしょう。ところが「調査」においては、調査対象者はどんな雑な調査票に対しても黙々と回答してしまいます。質問の意味がわからなくても調査会社に問い合わせたりしません。自分に当てはまる選択肢が用意されていないからと抗議してくることもまずありません。なんか変な質問だな、とか、あてはまる答えがないと思いつつも、示された選択肢から無理やり選んで回答してしまいます。そうしないと次の質問に進めないし、謝礼ももらえませんから。

対象者からのフィードバックが期待できないため、しっかりと調査票設計をしておく必要があります。さもないと、せっかくの調査が意味不明なデータを生むだけの徒労に終わりかねません。

Tips 調査票に対する対象者からのフィードバックは期待できない

いつ調査票を確定するのか

調査実施機関にてインターネット調査実施の手順としては、調査票案確定→調査画面作成→調査画面確認→実査開始というのが一般的で、調査票案は調査画面作成前に確定するべきものです。
ところが調査の現場では、「調査発注元は調査画面でないとなかなか本腰を入れてチェックしない」のようなことがよく言われています。質問文や選択肢などの文言修正は画面作成後でもすぐに修正できますが、質問を増やしたり順番を変えたりするといった変更は、できたとしても時間とコストがかかります。そうしたことでスケジュールに遅れが生じるのは避けたいものです。なお、調査画面作成後でもすぐに変更できる要素、できない要素については、調査実施機関によっても違いがあるので事前のご確認をお勧めしますが、いずれにしても「調査票は調査画面作成前に確定するもの」という認識を持つことで、調査実施がよりスムーズになるはずです。

Tips 調査票は調査画面作成前に確定する

まずは自分で回答

調査票案が上がってきたら、先ずはご自身で回答してみることをお勧めします。その際は、あまりテンションを上げずに、気軽に回答する方が、より対象者の立場に近い感覚でチェックできるでしょう。途中、違和感のある箇所があればメモを取りながら、ひと通り最後まで回答してみてください。質問のわかりやすさ、回答のしやすさ、質問の量などについて、問題点があれば調査実施機関に早めに伝えることが重要です。

Tips 調査票は、まず自分で気楽に回答してみる

個別の質問チェック

質問形式を確認すること

それぞれの質問について検討する際には、質問形式を念頭に置くことが大切です。主にSA(単一回答)、MA(複数回答)、FA(自由回答)の3つがあります。

SAはMECEに注意
提示された選択肢を一つだけ選ぶ質問形式がSA(single answer)です。質問文に「最も○○なものをお答えください」「回答は一つだけ」「(SA)」などと言う記述があればSAです。SAで最低限必要なことは、選択肢がMECEになっていることです。MECEはミーシーと読んで、Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの略です。「互いに重複せず、全体として漏れがない」「もれなく、ダブりなく」などと訳されます。選択肢に漏れがあると、自分に当てはまる選択肢がない対象者が生じ、ダブりがあると当てはまる選択肢が複数ある対象者が生じる恐れがあります。例をあげてみます。

Q. あなたの出生地はどこですか。(SA)
1. 北海道
2. 東北
3. 関東
4. 甲信越
5. 北陸
6. 東海
7. 近畿
8. 中国・四国
9. 九州・沖縄

上記ですと、4.甲信越と5.北陸の両方に新潟県が、 6.東海と7.近畿の両方に三重県がダブることになります。5.北陸に新潟県を含まない、7.近畿に三重県を含まないとし、下記のように修正すれば解消できそうです。

Q. あなたの出生地はどこですか。(SA)
1. 北海道
2. 東北
3. 関東
4. 甲信越
5. 北陸(新潟県は4.甲信越とご回答ください)
6. 東海
7. 近畿(三重県は6.東海とご回答ください)
8. 中国・四国
9. 九州・沖縄

これでダブりはなくなります。ただし、対象者条件が「日本生まれ」でない限り、47都道府県以外で出生した対象者も十分考えられます。

Q. あなたの出生地はどこですか。(SA)
1. 北海道
2. 東北
3. 関東
4. 甲信越
5. 北陸(新潟県は4.甲信越とご回答ください)
6. 東海
7. 近畿(三重県は6.東海とご回答ください)
8. 中国・四国
9. 九州・沖縄
10. 海外

のようにする必要があります。

Tips SAの選択肢は、ダブりと漏れがない(MECEである)ことが大前提


MAは漏れ防止
提示された選択肢を好きなだけ選ぶ質問形式がMA(multiple answer)です。質問文に「当てはまるものをすべてお答えください」「回答はいくつでも」「(MA)」などと言う記述があればMAです。MAでは、当てはまる選択肢が複数生じることは問題ありませんが、当てはまる選択肢がないのは避けなければなりません。

Q. あなたがこれまでに投票券(いわゆる馬券・車券・舟券)を購入したことがある公営競技はどれですか。購入経験のあるものをすべてお答えください(MA)
…競馬/競輪/競艇/オートレース

公営競技というのは4種類しかありませんから、これで問題なさそうですが、4種類のいずれも購入したことのない対象者は選択すべき項目がないことになります。それでは購入経験がないのか未入力なのか区別がつきませんので、「公営競技の投票券を購入したことはない」という選択肢を追加する必要があります。MAについては、質問に応じて、「この中にはない」「ひとつも当てはまらない」「○○したことはない」などの選択肢を追加して、漏れを防ぐことが基本です。ちなみにこれらの選択肢は他の選択肢と重複して選ばれることが理論上ありえない、排他の選択肢といわれます。

Tips MAは、排他の選択肢で漏れを防ぐ

選択肢の妥当性を検討する

ダブりや漏れがなくても、選択肢の内容に無理があると正しい結果は得られません。個別に判断していくしかありませんが、不適切な選択肢の例を挙げてみます。

恣意的な選択肢
Q. あなたは今回の催しにどの程度満足しましたか?(SA)
非常に満足/十分満足/やや満足

この質問は、初めから満足したものと決めつけていますが、当然不満だった人もいるでしょう。そうした人の多くは、不本意ながら「やや満足」を選択し、ストレスを感じつつ次問に進むことになります。そして、「やや満足」のスコアは、本当に「やや満足」だった人と、本当は不満だった人が混在したものになってしまいます。ここまであからさまなものは少ないですが、質問や選択肢にバイアスがかかっていると、正確な把握は難しくなります。

恣意的でない選択肢の例
Q. あなたは今回の催しに満足しましたか?(SA)
非常に満足/満足/やや満足/やや不満/不満/非常に不満

Tips 選択肢はあくまでもニュートラルに


複数の観点を含んだ選択肢
Q. あなたの活動のしかたに最も近いものをお知らせください。(SA)
1. 屋外での活動を主にやっている(やりたい)
2. どちらかと言えば屋外での活動を主にやっている(やりたい)
3. どちらかと言えば屋内での活動を主にやっている(やりたい)
4. 屋内での活動を主にやっている(やりたい)

この質問に対しては、現状(やっている)と意向(やりたい)が一致している人しか気持ちよく回答できません。「今は屋内が主だが、ゆくゆくは屋外を主にしたい」のように考えている人は、現状を重視して4.、意向を重視して1.のどちらかに回答するしかないでしょうが、いずれにしても釈然としない人が出てくるはずです。調査する側からしても、1.と回答した人には「主に屋外で活動したくて、主に屋外で活動している」「“主に屋外で活動したい”というわけではないけれど、主に屋外で活動している」「主に屋外で活動したいけれど、“主に屋外で活動している”わけではない」という3パターンが混在していることになり、データとしては使い物にならないでしょう。このような複数の観点を一つの選択肢に盛り込むのは、質問数を節約しているようで実際は無駄な質問になってしまう可能性が高いのです。本来は、現状と希望についてそれぞれ1問必要ですが、現状優先で、下記のような質問にするのであればこの選択肢でも成立します。

Q. あなたの現在の活動のしかたに最も近いものをお知らせください。現在活動をされていない方は、もし活動するとしたら、どのように活動したいかについてお知らせください。(SA)

Tips 選択肢は極力ひとつの要素で


注意した方がよい選択肢
ちなみに、対象者属性に関する質問で、結婚状況を訊ねたい場合に注意すべき点があります。

Q. あなたは未婚ですか?既婚ですか?(SA)…未婚/既婚

のような質問をした場合、選択肢はMECEで、その点は問題ないですが、具体的な内容は「未婚=一度も結婚していない人」「既婚=未婚以外の人すべて」になります。現在独身でも結婚歴があれば「既婚」です。もし「現在結婚しているか否か」を訊ねたい場合には、未婚/既婚という選択肢は不適切です。この場合は配偶者の有無を問う

Q. 現在あなたには配偶者がいますか?(SA)…はい/いいえ

のような質問が適当です。

対象者属性についての質問としては、もうひとつ性別に関するものも注意を要します。

Q. あなたの性別をお知らせください(SA)…男性/女性

この選択肢が最近ではMECEではなくなってきています。自分が男性・女性のどちらにも当てはまらないと考える人もいるからです。さらに「性別を選択する」行為自体に苦痛を感じる人もいます。こうした文脈を受けて、

Q. あなたの性別をお知らせください(SA)…男性/女性/その他/回答しない

という選択肢を採用するケースをよく目にするようになりました。結婚状況や性別などは、対象者の基本情報として予め登録してあるものですが、改めて聞く必要が生じた場合などは、お気を付けください。

Tips 結婚歴や性別についての質問をする際はご留意を

質問の順番

意外に大切なのが質問の順番です。例えば、どこそこへ行ったことがあるかや、何々の資格を持っているかといった、経験や属性などに関わる質問は、どのような条件下でも回答が変わる可能性は低いと考えられます。一方で、誰かの印象や評価などはちょっとしたことで回答が変わってしまう恐れがあると考えた方がよいと思います。例えば、タレントの出演しているテレビCMなどを提示した後で、当該タレントについての印象を問うと、提示したCMでの役柄などに回答が引っ張られてしまうことが考えられます。そうした質問は、提示よりも先に済ませてしまう方がよいです。

Tips 対象者にヒントを与えてしまうような質問は、影響を受けそうな質問より後ろに


まとめ

インターネット調査が普及しても調査票の基本は大きくは変わっていません。それでも、かつてに比べると調査票案チェックから実査開始までの時間が格段に短くなっていますから、短時間に効率よく確認する必要は増しています。

調査票づくりは変わらなくとも大きく変わったところはいろいろあります。最後に一つご注意申し上げたいのは、インターネット調査における情報セキュリティです。訪問による聞き取り調査では、調査員が調査票も提示素材もその場限りで回収してしまいます。そのため、調査内容が漏れるリスクは低かったのですが、インターネット調査では調査に関する情報が対象者の手元に残るのを防ぐのはほぼ不可能といえます。調査が差別表現や著作権侵害、企業秘密などの内容を含んでいた場合、拡散の危険性は、─比較的少ないとはいえ─抱えています。その意味では広告などの発信などと同様に考えて、慎重な扱いが必要になってきています。

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