新型コロナの拡大は、日常生活に大きな変化をもたらしています。おうちで過ごせる楽しさ、そして気軽に出歩けない窮屈さを同時に感じながら、自然と暮らし方の工夫をあみ出しているのではないでしょうか。特に、食生活はいつの間にか以前と違ったスタイルが出来上がりつつあります。簡便志向、健康志向などの様々な意識と行動にコロナはどのような影響をもたらしたのか。今回はコロナを機に新たな様相を呈する食のトレンドをみていきます。
コロナがもたらした、おうち食の変貌
外出控えやリモートワークなど、密を避ける様々な行動習慣がくらしのあたりまえになってきました。仕事も遊びもソトだった日常のルーティーンがおうち中心になってしまう、そんなパラダイムシフトをいま我々は経験しています。食生活においては、まさにそれを実感するところです。農林水産省の調査結果でも「自宅で食事を食べる回数」の増加は、若い層を中心に一定のボリュームで示されています。「人に自宅で料理を作る回数」「家族と食事を食べる回数」も同様の傾向です。(2021年度
「食育に関する意識調査」)
新型コロナウイルス感染症の拡大による食生活の変化「自宅で食事を食べる回数」
食の内容も様々に変化が起こっています。総務省の「家計調査」でみると、まず「外食」の低下と「デリバリーサービス」の拡大が数字の上でも顕著に表れています。そして、コロナ禍になった2020年に消費が大きく増えた品目としては、パスタや中華麺などの「麺類」、バターやチーズといった「乳製品」、そして「卵」「冷凍食品」「酒類」が挙がります。それ以外の多くの日常品目「米」「野菜」「魚介」、コーヒー紅茶などの「飲料」は、微妙な増減はあるもののいずれも横這いです。 家で調理する機会が増えたとはいえ、生鮮品よりも冷凍食品で簡便に済ませる傾向です。むしろ調理しなくてはいけないシーンが増えた分、簡便志向が高まっているようです。また、おうちでのティータイムよりも、家呑みシーンが増えたことも見て取れます。このトレンドは、
2021年家計調査データでもスコアの顕著な落ち込みはなく安定的に続いています。職住隣接の合理性がコロナを機に認識され、おうち生活の充実がニューノーマルとなっていることが、そのまま食生活に反映されているのです。
Tips おうち料理が増えた分、簡便志向も進む。外に出られない分、家呑みは最大限満喫。
人気から定着へ、食の様々なニューノーマル
「手間をかけずにおいしく、気軽にお酒も楽しめる」といった新たな食スタイルのなか、定番化しつつあるのはどのようなメニューでしょうか。現在安定的な支持を得られている人気食を見ていきましょう。
おかずにも酒の肴にもなる簡便総菜「シュウマイ、ギョーザ、唐揚げ」
冷凍食品や惣菜でも人気の食材。手軽で食べ応えがある主役級のメニューです。料理の手間なく、一品あると食事にもなり、おつまみでも満足感があり、冷めてもおいしいという、沢山の利点があります。これからの日常の最強メニューとなりつつあり、大手外食チェーンも、テイクアウトメニューとして引き続き注力する動きです。
「冷凍食品」はおうち食のど真ん中に。ランチ、夕食、呑み、オールラウンドで貢献。
シューマイ、ギョーザ、唐揚げはもちろん、チャーハン、ピザ、麺類などの粉ものも王道メニューが充実、さらには野菜を簡単にとれるという、まさに万能選手です。「枝豆」「ブロッコリー」「カリフラワー」「ほうれん草」などの冷凍野菜は、カットする手間もなく、野菜くずもなし、保存が効き、調理も彩り鮮やか、型崩れしない…など、冷凍ならではの良さが発揮されています。「野菜が摂れる」コンセプトの「ちゃんぽん」「お好み焼き」「カレー」などのメニューも売り場にラインナップされています。
「コロナ太り」を気にして「糖質制限系」のヘルシーレシピが人気
おうち滞在で運動不足になる一方、家呑みが増え、さらにハンバーガーなどファストフードの利用も加速しています (家計調査)。好きなものは極力我慢したくないなか、できる範囲で糖質制限のダイエットをする動きがあります。レシピ検索サービスでは、「ごはん置き換え」として「カリフラワー」や「オートミール」を使ったメニューや、低糖質の鶏胸肉を使った「サラダチキン」や「鶏ハム」の検索が上昇しています。
免疫対策から「発酵」人気。「キムチ」「ビネガードリンク」が食卓のスタンダードに。
コロナに負けないからだづくりを目指して、免疫力をアップさせるサプリや機能性飲料が注目される流れで、「発酵」がキーワードとなり、食や飲料で腸内環境を整えながら対策しようとする動きに。中でも「キムチ」は、乳酸菌効果という機能面だけでなく、そのまま酒のつまみでおいしく、またチャーハンや炒め物など色々な料理に使いやすいなどの利点もあり、コロナ後ますますスタンダード化しています。そして、黒酢などの中高年に支持されてきた「ビネガードリンク」も堅調です。新たに「フルーツ酢」が、若年女子中心に、見栄えも華やか、さらにはダイエットも期待できる、良いとこだらけのおしゃれなリラックスタイムドリンクとして浸透しています。
外食シーンの新トレンド:ヘルシーでコスパ最高の「回転寿司」
10年前から市場規模が1.5倍以上に拡大している成長産業の回転寿司(大手中心の事業者売上高ベース)。このコロナ禍でも外食チェーンでは珍しく成長を遂げています。ファミリーや少人数の仲間で、昼も夜も気軽にクイックに美食とお酒を楽しめるスタイルが、かつての居酒屋呑みにとってかわる、ニューノーマルな外食のかたちとなりつつあります。かねてより「魚離れ」が進むなかで、食べ応えのある旨いネタをリーズナブルに堪能でき、しかもヘルシーになれるという根本的な利点も、このコロナ禍でさらに顕在化し、多くの人々に支持されています。
Tips 冷凍や総菜の「中食」が大黒柱に。それを補完するヘルシーアイテムは「我慢しない/簡単/合理的」が鉄則。
まとめ
新型コロナを機に、自分のペースで暮らしをマネジメントし、仕事、家庭、プライベートを上手に両立させて、より自分らしい余裕のある生き方を目指す傾向が一般化しつつあります。コロナが収束していくと、徐々にソト時間も増えていくでしょうが、この新たなマインドは、従来からの働き方改革志向を後押しするものとして維持されていくでしょう。食生活も、調理の手間はクイックに、食べる時間は家呑み交えてスローにと、自分の裁量で楽しむことが定着していきそうです。
一方で、毎日の規則性がゆるみ、メリハリが弱まっているのも事実です。よく眠れることが話題になって売り切れが続出という飲料のニュースもその表れでしょう。そうしたなか、自身の健康のためにも、我々は徐々に自主的に楽しく生活のリズムを作っていくことが重要になります。オンオフの気持ちの切り替えを楽しく試みていく。食生活においても、マンネリ化せず、さらに気持ちをアップさせてくれるような付加価値を追求していく流れとなるでしょう。
その兆しとして、青山や代官山にあるフランス冷凍食品チェーンの業績急上昇があり、プレシャス系冷凍食品の広がりが注目されています。これからの新たな動きとして、ご当地モノやエスニック食などちょっとスペシャルなメニューを取り入れ、「今日はグレードアップおうち呑み」など、日々のところどころに「プチハレシーン」をつくっていくことが予想されます。とっておきのおうち呑みのためにちょっと頑張ってみようという、自主的な努力スタイルも生まれてきそうです。おうち食は、外に出られないから「しかたない」ではなく、これからは「張り合い」の方向へと進化していくことでしょう。
Tips 調理はクイック、食事はスローが定番へ。「ときどきプチハレおうち食」が日々のハリを作る、ニューノーマル・バージョンアップへ。