総務省が 毎年作成・公表している
「情報通信に関する現状報告」(情報通信白書)の最新版、令和4年版が7月5日に公表されました。昭和48年の第1回公表以来、今回で50回目の公表となります。今回はこの白書に掲載された最新の「情報通信メディアの利用時間」の調査結果について取り上げてみたいと思います。
情報通信白書について
白書の概要
はじめに白書の概要について触れておきたいと思います。本編の構成については、これまで500ページ程度だったものを、今後250ページ程度にするなど、“より活用される白書を目指した大幅な簡素化”が実施されました。
今回公表された令和4年版の白書では、第1部の特集「情報通信白書刊行から50年 ~ICTとデジタル経済の変遷~」で情報通信白書刊行後50年におけるICTサービス・技術の進化やICTを取り巻く国際情勢の変化を42ページにわたって振り返り、第2部(43-203ページ)ではICT分野で直面する現状と課題、今後の日本社会でICTが果たす役割を分析しています。
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を主題に掲げながらも、白書の内容にはデジタル化に関する記載が各所に見受けられ、ICTとデジタル化は不可分のような印象を受けます。
50年目を迎えた令和4年版は、コロナ禍の影響が現れたことでも注目される白書となりました。掲載されている調査結果の最新版には2020年実施のものと2021年実施のものが混在しています。これらはいずれもコロナ禍の影響を受けた時期(2020年と2021年)の調査であることから、この時期のデータは将来的にも注目されるものになるものと思われます。あわせて、これが一時的な傾向なのか、長期トレンドとなるのか、今後の動向が注目されるところです。
最新版「メディア利用状況」の調査結果を読む
今回は白書の中から「メディアの利用状況」について取り上げ、白書の「データ集」に掲載された関連データとともに読み込んでいきたいと思います。
メディア利用については、白書の「第8節の1 国民生活におけるデジタル活用の動向 ウェブメディア利用時間」の項目(94ページ以降)で「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査研究/総務省情報通信政策研究所」の調査結果が取り上げられています。
なお、白書に掲載されている最新の調査結果である令和4年度公表「令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」は、例年8月に公表されるものですが、当白書にはその内容が先行掲載されています。
主なメディアの平均利用時間と行為者率 | 白書掲載番号(3-8-1-3)
(出典)総務省情報通信政策研究所
「令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」< 用語補足 >* インターネット利用時間:調査日1日当たりの、ある情報行動の全調査対象者の時間合計を調査対象者数で除した数値。その行動を1日全く行っていない人も含めて計算した平均時間。* 行為者率:平日については、調査日2日間の1日ごとにある情報行動を行った人の比率を求め、2日間の平均をとった数値。休日については、調査日の比率。* テレビ(リアルタイム)視聴:テレビ受像機のみならず、あらゆる機器によるリアルタイムのテレビ視聴。* インターネット利用:機器を問わず、メール、ウェブサイト、ソーシャルメディア、動画サイト、オンラインゲームなど、インターネットに接続することで成り立つサービスの利用を指す。【白書より転記】 主なメディアの平均利用時間と行為者率
「テレビ(リアルタイム)視聴」、「テレビ(録画)視聴」、「インターネット利用」、「新聞閲読」 及び「ラジオ聴取」の平均利用時間と行為者率を示したものが図表3-8-1-3である。 全年代では、平日、休日ともに、「テレビ(リアルタイム)視聴」の平均利用時間及び「イン ターネット利用」の平均利用時間が長い傾向は変わらないが、平日については、「インターネット 利用」が、「テレビ(リアルタイム)視聴」を2年連続で上回る結果となっている。行為者率については、「テレビ(リアルタイム)視聴」の行為者率は、平日、休日ともに「インターネット利用」 の行為者率を下回っている。 年代別に見ると、「インターネット利用」の平均利用時間が、平日は10代、休日は10代及び50 代を除き増加又はほぼ横ばいとなっている。また、「テレビ(リアルタイム)視聴」は、年代が上がるとともに平均利用時間が長くなっており、60代の平均利用時間が最も長くなっている。行為者率については、休日は10代、20代、30代及び40代では「インターネット利用」の行為者率が、 50代及び60代では「テレビ(リアルタイム)視聴」の行為者率が最も高くなっているが、平日は 50代の「インターネット利用」の行為者率が「テレビ(リアルタイム)視聴」の行為者率を初め て上回った。「新聞閲読」についても、年代が上がるとともに行為者率が高くなっている。
メディア利用状況 調査結果からのFindings
Findings1(全世代の傾向)
全世代での利用時間については、「ネット利用」と「テレビ(リアルタイム)視聴」が双璧。
平日は「ネット利用」が「テレビ(リアルタイム)視聴」を上回る。
休日は逆に「テレビ(リアルタイム)視聴」が「ネット利用」を上回る。
2020年と2021年を比較すると「ネット利用」が上昇し、「テレビ(リアルタイム)視聴」は減少。
Findings2(各世代の傾向)
世代別に見ると50代、60代では「テレビ(リアルタイム)視聴」が「ネット利用」を上回る。
20代以下では「ネット利用」が「テレビ(リアルタイム)視聴」を上回る。
こうした世代間の差について、高年齢層では「デジタルディバイド」(白書P97)、若年層では「フィルターバブルやエコーチェンバー」(白書P149)といった「社会問題」も発生しており、白書には解決のための取組を推進していることが記載されています。
調査結果の深読み:データ集より
情報通信白書の本編外にデータ集が掲載されており、本編に無かったデータを参照することが出来ます。
総務省|令和4年版 情報通信白書|データ集(第3章第8節) (soumu.go.jp)「データ集 表9 主なメディアの時間帯別行為者率」は、令和3年度(2021年度)、コロナ禍での調査です。これによれば 「テレビ(リアルタイム)視聴」と「ネット利用」を比較すると、朝と晩は「テレビ(リアルタイム)視聴」がトップではあるものの、その他の時間はすべて「ネット利用」が上位を占めています。
それでは、この「ネット利用」とはいったいどんなものであるか、その中身が気になるところです。
データ集・表10は「主な機器によるインターネット利用時間と行為者率」を、データ集・表11は「主なコミュニケーション手段の利用時間と行為者率」を、データ集・表19は「年齢階層別インターネット利用の目的・用途」を示したものです。これらを紐解いてみましょう。
「ネット利用」の機器:TOP2はPCとモバイル
表10「利用機器」を見てみるとTOP2はPCとモバイルでした。2020年および2021年で平日→休日の比較では PCは全世代で利用が減少(休日は利用が減る)。モバイルは逆の傾向が出ていて平日→休日では全世代で利用の増加(休日の方が使う傾向)が見られます。
ここに表れた[PCは平日に使うツールであり、モバイルは平日も休日も使う]という傾向からは[PCは平日にデスクワークツールとして使い、モバイルはプライベートモード+仕事でも使う]という機器の使い分けが想像されます。
また、利用時間を見ると、20代以下のモバイル利用時間の長さと利用率の高さが特徴的であり、同時にメディア利用の習慣性については世代間の差が顕著に出ています。
コミュニケーション手段:TOP2は「ソーシャルメディア」と「メール」
次に、前項で取り上げた「モバイル利用」について、その中身は何なのかを考察していきたいと思います。
表11「主なコミュニケーション手段の利用時間と行為者率」で2020年&2021年の結果に注目してみます。TOP2は「ソーシャルメディア」と「メール」でした。平日→休日の比較で見ると、全世代で [平日はメールを使っている。休日はメールは減る。]という利用状況が見えてきます。「ソーシャルメディア」については浸透が進み、10代から30代で、平日でもメールよりも利用時間が多くなってきています。これはソーシャルメディアがワークツールとして機能するようになったためでしょうか、或いはコロナ禍で業務とプライベートの境界線が緩くなったためでしょうか。
表19「年齢階層別インターネット利用の目的・用途(複数回答)(2021年)」で、全体をみてみると、上位がひと固まりになっています。第一群は〔1位:SNS(無料通話機能を含む)、 2位:電子メールの送受信、 3位:情報検索〕。少々差が開いて第二群があり〔4位:商品・サービスの購入・取引、 5位:動画投稿・共有サイトの利用、 6位:ホームページ・ブログの閲覧、書き込み〕という内容になっています。ここでも「ソーシャルメディア」と「メール」の利用度は高く表れており、「情報検索」はそのための付帯的かつ必要性の高い用途であろうと推察されます。
主なメディアの時間帯別行為者率
主な機器によるインターネット利用時間と行為者率
主なコミュニケーション手段の利用時間と行為者率
年齢階層別インターネット利用の目的・用途(複数回答)(2021年)
考察) コロナ禍がもたらした影響 “境界線の緩和”
白書にもテレワークの記載(p165-166)がありますが、コロナ禍は、結果的に、在宅勤務やリモート授業などを普及させることになりました。一方でこのことは、私たちの生活様式におけるオン&オフの境界線を緩める方向に大きな影響を与えることになったのでした。
この“境界線の緩和”は、会社と自宅のような空間的なもののみならず、始業時間、就業時間、休憩時間のような時間的なものにも、また服装や髪型、鞄や靴のようなファッションの選択においても同様に起こりました。(ファッションにおいては2005年の“クール・ビズ”以来の大きな変化だったかもしれませんね。) 境界線が持っていた厳密さはコロナ禍においては一旦失われ、意識面においても世の中はカジュアル(“オフ”)指向を許容する方向へと緩んできています。
「メディア利用」に関して見てみると、PCからスマホへ、メールからSNSへという流れが若い世代ほど大きく存在し、それが徐々に上の世代に影響を与え拡張していっています。これはこの“境界線の緩和”がコロナ禍で相当な速度で進んでいることを、言い換えれば“オフ”が“オン”を、“カジュアル”が“フォーマル”を吞み込むかたちでの「馴化(じゅんか)」がこの2年ほどで大きく進んでいることを示しているのではないでしょうか。