医療、医薬品のマーケティングと広告を解説。成長市場におけるポイントとは?

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医療、医薬品のマーケティングと広告を解説。成長市場におけるポイントとは?

高齢化社会が進むにつれ、医療費の増大が懸念されていますが、同時にそれは医療業界や医薬品市場の拡大も意味します。この傾向はしばらく続いていくと考えられます。拡大する市場においてマーケティング投資を行うことは理にかなっていますが、こと医療や医薬品は他の商材と異なった特殊な制約が課される市場でもあります。医薬品など隣接する市場での商品の販売は、健康という重要な価値を守るためという制度趣旨で、様々な法律や各種の規制によって他の消費材とは異なったマーケティングが必要になります。
本稿は、このような制約のある環境下での医療業界、医薬品等のマーケティングについて解説します。


医薬品の市場別の特性に基づいたマーケティング

OTC

一般的な消費材に最も近い市場がOTC市場です。OTCとは、Over The Counterの略、つまり「カウンター越しに買える」薬ということで、薬局等で処方箋を必要とせずに購入できる医薬品の市場です。

また、OTCも「要指導医薬品」と「一般医薬品」に分かれます。「要指導医薬品」は販売者が薬剤師である必要があり、薬剤師の説明や文書による説明が必要となります。この「要指導医薬品」とは、「スイッチOTC」と呼ばれるカテゴリーで、医療用医薬品からOTC医薬品に転用したもののことです。医療用の使用実績や海外での転用状況等を踏まえ、審議会・検討会でOTC医薬品として適切とみなされた品目です。政府は、国民の健康寿命延伸と医療費抑制に向けてセルフメディケーションを促進すべく、薬機法(旧薬事法)の改正やスイッチOTCの推進により、OTC医薬品の販売チャネルや品目の多様化に取り組んでいます。

さらに「一般医薬品」も、その中が第1類~第3類に分かれていて、第1類は販売者が薬剤師であり、薬剤師の説明や文書による説明が必要となります。 このように、様々な分類ごとに販売方法に制約があるOTC薬品は、おのずとそのマーケティングの方法についても制約が生じます。

例えば、日本一般用医薬品連合会が「OTC医薬品等の適正広告ガイドライン」というものを出しています。これは、医薬品等の広告が虚偽、誇大にわたらないようにするとともにその適正をはかることが目的とされています。また、その内容も多岐にわたり、効果効能の表現の範囲や、成分や分量についての表現、用法容量についての表現、効能効果等又は安全性を保証する表現の禁止、等々、様々なポイントについてのガイドラインが示されています。

一般的な消費財であれば、自社商品の特性や他社製品との差別化ポイント、自社製品の優位性を強調する表現などは、虚偽等にならなければ高い自由度が認められますが、医薬品の場合、虚偽や誇張表現がもたらす損害が、それを消費した消費者の生命や健康に及ぶ危険性があり、そのため、これらの表現に対してより慎重な表現が求められることとなります。このような医薬品のマーケティングや広告表現については、専門に扱う広告会社が存在するように、高度な専門性が求められる場合があり、必要に応じてアドバイスを求めるようにするなど、リスク回避を意識したマーケティング施策の立案や広告表現の開発が必要となります。

医薬品のオンライン販売

OTC医薬品のオンライン販売市場も成長を続けており、特にコロナ禍の状況にあった2020年は小売店の営業時間短縮や対面販売の縮小の影響を受け、小売店舗に代わる流通経路としてオンラインでの販売はさらに増加しています。国内OTC医薬品市場は前年比112.2%増の562億円となっています(矢野経済研究所)。

医薬品のオンライン販売は、当初は厚生労働省の省令によって禁止されていましたが、2013年1月に最高裁が省令は違法とする判断をし、その後、多くの医薬品のオンライン販売が可能になりました。

オンライン販売の場合、必然的にオンライン広告によるマーケティング施策が中心となり、その際に、オンライン広告特有の制約が生じる場合があります。例えば、上記の「適正広告ガイドライン」では電子メール広告についての規定が存在し、医薬品販売業者のメールアドレス等の連絡先を表示することや、メールの件名欄に広告である旨を表示すること、消費者が、今後電子メールによる広告の受け取りを希望しない場合、その旨の意思を表示するための方法を示すことなどがあります。

ただ、既にデジタルデバイスが世の中の殆どの家庭や消費者に普及している現在、オンライン広告においても、従来のマスメディア中心の広告と同様の注意を払い、慎重に実施する必要があると考えるべきでしょう。「適正広告ガイドライン」では、テレビ広告の規制として、子供を殺虫剤の広告に出演させてはならないといった規定がありますが、もはやオンラインの動画広告も従来のテレビ広告と同様に多数の消費者に視聴されていることから、今後はオンラインの広告でも同様の制約が生じると考えるべきかと思われます。

Tips 医薬品も通常の商品同様に、その特性や強みを消費者に伝えることが重要なものの、様々な制約がある。判断に悩むことが多くなるため、専門家にアドバイスをもらうことも有効。

医薬品以外の医療関連の広告

病院、クリニック等の広告

医薬品ではありませんが、病院やクリニックも広告活動を行うことがあります。医療行為も国民の生命・健康に大きな影響を及ぼすため、様々な規制が存在しますが、病院の広告活動についても、厚生労働省が「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」というものを出しています。

従来から医療機関の広告については医療法による規制があったものの、Webについては原則として規制がありませんでした。しかし、美容医療に関する相談件数が増加し、消費者委員会より法的規制が必要であるとの主張がなされ、平成29年に成立した医療法等の一部を改正する法律により医療機関のWeb等についても、他の広告媒体と同様に規制の対象とし、虚偽又は誇大等の表示を禁止し、是正命令や罰則等の対象とすることとなりました(上記ガイドラインより)。

医療広告は、そもそも広告可能な範囲が医療法第6条の5第3項に定められています。また、その内容についても上記ガイドラインに具体例などが多数示されています。情報が多岐にわたるため、本稿では詳細な内容は省略しますが、上記のガイドラインを参照しつつ、専門家のアドバイスを受けるなどして、触法リスクを回避することが重要です。

治験広告

やや特殊な広告の分野になりますが、医療関連の広告として重要な分野に「治験広告」と呼ばれるものがあります。これは、新薬の効果を検証する際などに、実際に新薬を試用してもらう一定数の被験者を募集する広告のことです。一般的に、新薬の効果検証は被験者側にとってはなんらかのリスクが発生するものです。まだ検証段階であるため、試用することで、なんらかの健康被害が生じる可能性があったり、治験への参加には被験者の健康情報など、通常ならば秘匿性の高い個人情報の提供が求められたりすることにもなります。これらのリスクを的確に示すと同時に、治験への参加者を一定数集めることも目的となるため、治験に関する単なる情報提供ではなく、治験に参加することの意義を理解してもらうことも必要になります。 このようなことから、治験広告についてもガイドラインが存在しますが、関係する組織も様々なであるため、日本製薬工業協会によるものや、治験に関する情報提供を主業務とする国内の企業にて構成された業界団体である日本 PRO 協会によるものなどがあります。 治験に参加しようとする動機には様々なものがありますが、代表的なものとしては、まだ承認されていないけれども、自分が抱えている病気の治療が期待できると思われる薬を実際に使ってみたいというものがあります。効果のほどは不明であっても、既存の薬に限界を感じている人が、新薬に期待を寄せるのは自然なことだと思われます。しかし、過度な期待を抱かせることは禁物です。そのため、治験に参加する際には十分な情報提供が求められ、効果を約束するようなことや、安全性を保証するような表現は認められません。

また、他の動機としては、一般的にリスクを伴う治験には、参加者への謝礼が高額になることが多く、その謝礼を期待して参加しようとする人もいます。しかし、健康はお金では買えないものであるため、いくら謝礼が高額であったとしても、それを目的に参加するのはあまり勧められたものではありません。そのため、上記のガイドラインでも事例が示されておりますが、「お得な治験バイトです」や「治験でがっつり稼ぎましょう」といったような表現は不適切であるとされます。

このように、治験広告は医療業界のマーケティングでは重要ですが、その目的を適切に理解して、規制で認められた枠から逸脱しないようにすることが必要です。

Tips 病院、クリニック等の広告には医薬品とは異なった規制があり、個別に検討することが必要。医薬品同様に専門家のコンサルティングを受けることが望ましい。特に治験広告は特殊な領域であるため、一般的なマーケティングとは異なる細かい注意が必要。

まとめ

医療業界は、市場の成長が見込まれるものの、本稿でみたような様々な制約が存在する市場です。そのため、なかなか取り組みにくいと思うことも多いかもしれませんが、専門的な知識を身につけ、適切なマーケティング施策を実施していくことで、そのような知識のない企業とは差別化することが可能になる場合もあります。必要に応じて専門家をパートナーとするなどして、成長市場における成功を目指すことが重要です。

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