広告、特にテレビCMでは、有名タレントの出演するものがとても多くなっています。中には世界的に有名なハリウッド俳優や、複数の大物タレントが一つのテレビCMに出ているものなど、「出演料だけでいくらぐらいかかっているのだろう?」と聞きたくなるようなものも見かけます。
なぜこれほどまでにタレントを起用した広告が多いのか?そのメリットと起用における注意点などをまとめてみました。
タレントをテレビCMなどの広告に起用する効果
多くの広告主が広告にタレントを起用したい理由は、シンプルに言えば「広告の注目度アップのため」ということになるでしょう。確かに有名タレントが出演する広告は生活者に与えるインパクトは大きく、それが商品の売り上げ拡大に貢献した例も枚挙にいとまがありません。有名人を広告に起用する例は海外でもあり、特にアジア諸国で目立ちますが、日本ほど盛んに起用している国はないかもしれません。
日本で広告にタレントを多用するようになったのは、1950年代、テレビ放送が開始された後からです。テレビは動画と音声によって出演者の演技をよりリアルに再現できます。有名なタレントの出演でテレビCMの印象も飛躍的に強くなるため、各社競い合うようにタレントを起用するようになりました。時をほぼ同じくして、これまで描画が多かったポスターや雑誌広告に写真が多く使われるようになり、印刷媒体でもタレントの写真を多くみかけるようになっていきました。
それから約70年を経過してもタレント広告が依然として多いのは、まさに各広告主がタレントの効果を実感している証拠と言えるでしょう。事実、多くの流通チェーンではどの商品を棚に並べるかを決める基準として、その商品の広告でどんなタレントを起用しているかが重要な指標となっている、と聞きます。タレント広告は各業種で見られますが、中でも価格の比較的安い食品・飲料・酒類・家庭用品などの消費財で多くなっているのは、こうした流通への対策といった側面もあるようです。
タレント広告の効果は、こうした商品の直接的な販売促進への寄与だけではありません。そのタレントがもつ属性、個性などを、そのまま広告主のイメージアップにつなげられる点も見逃せません。一番わかりやすいのは「一流感」でしょうか。誰もが知っている大物タレントを起用すれば、その企業自体のイメージも「大物」に見えてきます。また、誠実な印象の演技が売りのタレントなら、起用した会社の印象も誠実なものになることでしょう。
ビデオリサーチ社が発行している「テレビタレントイメージ」など、有名タレントの人気度や各種の分析記事をまとめた刊行物もあり、それらをもとに企業のイメージを広告によって表現していくのは、日本においては歴史的にも有効な手段と言えそうです。
Tips タレント広告が特に効果的な商品がある。
タレント広告とクリエイティブ表現
しかしこれだけタレント広告が多い日本においては、ただ漫然と有名タレントを起用すればものが売れる、好イメージが獲得できる、という時代はもはや過ぎてしまったように思えます。そこで、各広告主は、タレントをマーケティング的視点で選定し、獲得したい印象やイメージに対して効率的なコミュニケーションを構築するようになってきました。さらに広告のクリエイティブ表現も時代とともに新しい工夫がなされています。テレビ放送や写真ポスターの黎明期であれば、タレントが商品を片手にカメラ目線でニコッと笑ってパチリ、といういわゆる「ニコパチ写真」で販促効果は獲得できましたが、最近はそれだけで消費者の視線を奪うのが難しくなってきています。
例えば、さほど有名ではないが演技力の高い役者を使い、ドラマ風の演出で消費者の共感を呼ぶストーリーを構築したり、多くの映画やドラマでの役どころとは正反対の演技をさせたりすることで、CM表現自体をユニークなものにしている例は以前より見かけます。スポーツ選手にビデオゲームをやらせてみたり、お笑い芸人にシリアスなセリフを語らせたり、というのもユニークネスとインパクト獲得を狙ったものと言えましょう。もともとアニメのキャラクターを実物のタレントが演じたり、動物の声の主をタレントの肉声にしたり、という工夫もテレビCMならでは。時として、テレビCMの方が番組よりも印象に残ることすらあります。
Tips ただ漫然とタレントを起用するだけでは思う効果は得られない。
タレント広告の注意点
これほど盛んに行われ効果も実証されているタレント広告ですが、実施にあたって注意したい点もいくつかあります。
一つ目に、タレントの持つインパクトの強さは、メリットである半面デメリットにもなり得る、ということです。人の性格の良いところというのは、強く出過ぎればそのまま欠点にもなる、と言われますが、例えば「歯に衣着せず本音を語る性格」は強く出れば「口の悪い、配慮の足りない性格」となる、というわけです。また、ある特定の年代・性別から圧倒的に支持されている一方で、それ以外の世代からはむしろマイナスイメージの方が強いタレントもいます。それらがそのまま企業のイメージにもつながるとすれば、そこは慎重に選定していく必要がありますね。
二つ目として、いくらCMは企業のために作るもの、といっても、なんでも広告主側の意向通りの演技をしてくれるわけではない、ということも忘れてはなりません。演技を売りにしている役者でさえ、納得のいかないセリフは頑として語らない、という例もありますし、ミュージシャンに替え歌を歌ってもらうとか、スポーツ選手に自分の専門以外のことをしてもらうなどの企画は嫌がられる場合も多々見られます。広告主社内でタレントとの契約がオーソライズされる前に、広告表現についてその意図と意義をタレント側にしっかりと理解してもらうプロセスをないがしろにはできません。
三つ目は、タレント起用にはある程度リスクが伴う、ということ。そのタレントのテレビCM以外での行動が思わぬトラブルに発展するケースがあります。最悪なのはタレントが罪を犯す場合ですが、それ以外にも、そのタレントがパーソナリティを務める番組での不用意な発言が大バッシングを呼ぶケース、スキャンダルを起こすケースが考えられます。スポーツ選手なら、本人に非がないのに怪我等でその競技を続けられなくなることもあり得ます。最近では、ネットの世界で「インフルエンサー」と呼ばれる一種のタレントを生業としている人がいますが、その中には触法ギリギリの動画を動画サイトにあげたりしている人もいます。明らかにタレントに非がある場合については、契約書にペナルティを明記した条項を加えるケースが多いようですが、それで万が一起用した企業のイメージがダウンした場合、それを回復させるのは容易ではありません。
四つ目は有名タレント起用に限らないポイントですが、高額の契約料を払ってタレントを起用したとしても、それで契約期間内はその肖像を自由に使っていい、というわけではない、ということです。露出できるメディアとエリアを限定しているタレントもいますし、多忙なためにテレビCM撮影の回数を制限している場合もあります。スポーツ選手の場合、本人のほか所属しているチームとの間にも合意や契約が必要な場合もあり、ユニフォーム着用の場合などのルールも存在します。契約書作成の際に、一つひとつ事前に確認しておく必要があります。
Tips 効果の高いタレント広告ゆえのリスクもあることを事前に把握。
まとめ
リスクやトラブルも後を絶たないタレント広告ですが、それもメリットが大きいことの裏返しではあります。タレント起用はそのほか、企業のインナー効果もあります。会社のイベントに特別出演してもらうことで社員の意識高揚を図る例もありました。有名なスポーツ選手の例ですが、売れない頃から継続して起用してくれた恩に報いて、有名になってからもそのスポンサーだけは契約を継続し続ける、という蜜月関係もあります。
注意すべき点もしっかり踏まえた上で、マーケティング戦略とクリエイティブ表現も含め総合的にタレント起用を進めれば、企業により大きなメリットをもたらすことでしょう。