一昔前は動画広告と言えばテレビCMが定番でした。テレビCMのよさは商品やサービスを映像で見せられること、商品訴求をストーリーで展開できること、タレントやCM音楽、世界観など様々なフックによって視聴者の記憶に残りやすいことなどが挙げられます。
しかし今はパソコンやスマートフォンなど、様々な機器で多様な動画広告を目にすることと思います。現代の動画広告にはどのようなものがあり、どう活用すべきかを、その歴史もあわせて見ていきたいと思います。
動画広告の歴史
テレビの登場と高度成長
カラーテレビが普及した1970年代は、食品や玩具などを中心に現在まで続くロングセラー商品が多く誕生したり、フランチャイズの外食チェーンやコンビニエンスストアが登場したりするなど、現在の消費行動の原型ができあがった時期だと言えます。
そのような時代に全国規模で商品やサービスを効率的に売るためには、テレビCMを出稿することが最も効率的かつ手軽な方法でした。そのため、企業の広告宣伝活動においてはテレビコマーシャルが中心的な役割を担うようになりました。
80年代に入ると、放送衛星(BS)や通信衛星(CS)が打ち上げられ、放送を開始しました。また本来テレビ難視聴エリア対策であったケーブルテレビ(CATV)が都市部でも開業するなど、CMを流せる放送局の多チャンネル化が進みました。
デジタル広告隆盛時代へ
2000年代には、インターネット回線のブロードバンド化と、それによるインターネット定額制によって大容量コンテンツの送受信が身近になりました。2005年にはYouTubeがサービスを開始、また2008年にはiPhoneをはじめ各社からスマートフォンが国内発売されるなど、動画視聴の環境は飛躍的に進化しました。現在ではデジタルサイネージなどもあわせて、まさに動画広告の全盛期だといえるでしょう。以下その種類を見ていきます。
テレビ、衛星放送の動画広告
タイムとスポット
テレビCMには大きく2種類があります。衛星放送、CATVも大きくは同様です。
タイムCM
番組を指定して提供スポンサーとなることで、その番組内でCMを放映します。商品やサービスと親和性のある番組を提供することはブランディングにも貢献する上、番組前後に提供クレジットが表示される(表示の有無・方法は提供秒数による)など、消費者のみならず社内外のステークホルダーに対しても強くアピールできるのがメリットです。提供秒数は30秒単位、期間は決められた6ヶ月(2クール)単位で、提供エリアはネットタイム(その番組を流す全国の系列局)、または1局単位でのローカルタイムがあります。また番組によっては、番組出演者に商品紹介などを依頼する生コマーシャル(生コマ)という手法も相談可能です。
スポットCM
CMを放送する番組を特定せず、一定期間にどの程度の広告接触を期待するかという事業計画に基づいて出稿します。短期間に大規模な広告投下をすることが可能なので、例えば大量陳列などの流通施策とタイミングを合わせてキャンペーンの山を作ることができるのがメリットです。 スポット広告のコストについてはテレビ局との個別契約になりますが、基本的な考え方はGRP(延べ視聴率)×パーコスト(1GRP単価)です。パーコストは時期や時間帯など様々な条件によって変わります。出稿は15秒単位で、1放送局単位で出稿できます。
テレビパブリシティ、インフォマーシャルなど
商品やサービスをアナウンサーや出演者が番組風に紹介するものに、PR要素の強いテレビパブリシティ、テレビショッピングに代表されるインフォマーシャルがあります。 インフォマーシャルは通常60秒以上の枠で実施されますが、地上波と比べて安価なBSやCSなどの普及で様々な通販広告枠や通販番組があり、テレビショッピングの専門局もあります。また地上波テレビ局の関連商社が商品を買い取って自社商品として通販番組で販売するなど、その商流も多岐にわたっています。テレビショッピングについては、広告会社に相談することをお薦めします。
Tips テレビ広告セールスには「タイム」「スポット」以外にも様々
スマートデバイスにおけるデジタル広告
次にパソコンやスマートデバイス向けの動画広告の種類を見てみましょう。 動画を配信できる主なプラットフォームには、Twitter(2020年調査時点の月間アクティブユーザー数概算4,500万人)、YouTube(同6,500万人)、Facebook(同2,600万人)、Instagram(同3,300万人)、LINE(同8,600万人)、TikTok(同950万人)などがあります。そしてプラットフォームごとに様々な動画広告メニューが用意されていますが、大きくいくつかのフォーマットに分かれるので、今回はそれに基づき、主な使い方や注意点などを見ていきます。
インストリーム広告
YouTubeなどで、視聴する動画が流れる前や途中、動画終了後に同じ画面サイズで流れる広告が「インストリーム広告」です。視聴する動画をテレビ番組に例えれば、テレビコマーシャルのようなものということができます。インストリーム広告はさらに、視聴者がスキップできる動画広告(スキッパブル広告)と、スキップできない動画広告(ノンスキッパブル広告)に分かれます。
スキッパブル広告とは、広告の再生開始から5秒経つと視聴者がスキップ(飛ばす)ことができるものです。「飛ばされる」と聞くと何か広告費のムダのような非効率的なイメージを持つかも知れませんが、課金されるのは30秒以上(または最後まで)視聴されたか、動画をクリックするなどの反応があった場合なので、むしろ効率的ともいえます。動画広告はかなり長いものでも収容可能です。
ノンスキッパブル広告は、動画広告の長さが6秒以内、15秒以内といった形で制限される代わりに、必ず動画の最後まで視聴させることができるものです。秒数もTVスポット広告に似ているのでTVの出稿とあわせて一気に認知を獲得、といった使い方ができます。その反面ターゲット以外の視聴者にはストレスをかけることもあるので、入念なターゲット設計が求められます。
アウトストリーム広告
一方、ウェブサイトのバナー部分やSNS、一部アプリなどのタイムライン、コンテンツとコンテンツの間などに出稿する動画広告がアウトストリーム広告です。 主なものとしては、サイトのバナー部分に動画広告を流す形のインバナー広告や、スマートフォンなどで画面をスクロールすると動画広告が表示されるインリード広告などがあります。これらは動画共有サイトに馴染みの薄い層にも訴求できるため、デジタル広告配信の間口を広げる効果などが期待できます。
YouTuberタイアップ広告、ライブコマース
テレビ広告のインフォマーシャルに近いものとして、YouTuberタイアップ広告やライブコマースがあります。YouTuberやインスタグラマーは一定数のフォロワーを抱えているため、当該商品の購入やコンバージョンについてもかなりの効果が期待できます。
YouTuberタイアップは、商品やサービスのよさをYouTuberならではの企画力で映像に表現してもらうもので、売り手側が気付かない視点やエンターテイメント性の高い訴求が期待できます。
ライブコマースは、タレントやインフルエンサーがSNS上で視聴者とやり取りしながら商品やサービスを紹介するものです。商品を使用するところをライブで見せたり、視聴者からの質問に応じるなど双方向のコミュニケーションができるというメリットがあります。また動画から直接ECサイトに飛んで購入できるため、短時間で大きな売上を挙げることもあります。
ライブコマースではインフルエンサーが事前に告知をすることで、より多くの視聴を促すことが可能です。またYouTubeでもプレミア公開という日時を決めた配信ができるので、同様の告知効果とライブ感のある表現が可能になります。
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デジタルサイネージの現在と今後
日本における動画広告媒体としての屋外広告は、新宿アルタや渋谷Qフロントなどの大型ビジョンに遡ります。その後2000年代に入るとJRや私鉄の車内モニター、また通行量の多い街頭での据置型のデジタルサイネージが登場しました。これらは来街者や乗客向けの情報も発信するため注目率も高く、またサイネージはLANやWi-Fi等による動画配信の手軽さもあって、一気にその数を増やしました。
2011年の東北大震災やそれに続く節電の励行、また近年ではコロナ禍による外出の自粛といった逆風もありましたが、徐々に日常が戻るにつれて再度ブームアップすることが期待されています。
デジタルサイネージは様々なテクノロジーの進化を取り込みながら発展を続けています。一例を挙げると、スマホアプリからカメラを起動すると街がそのまま動画のスクリーン(AR空間)になるものや、サイネージに設置したカメラで通行者を識別し、その属性によって放映する広告を変えるというもの、さらに高精度カメラと組み合わせることで、スタジアムのような広いスペースでも観客の視線を細かく読み取り、効果的なタイミングで大型ビジョンに動画広告を放映する、などといったことが可能になるといわれています。
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まとめ
現在においてビジネスを成長させるために動画広告を活用する事は非常に有益です。しかしテレビかデジタルか、といった選択ではなく、事業や商品サービスにとって何が重要か(ブランド認知、ECサイトへの誘引、見込客リスト作成,etc.)を判断し、そのために最適な動画広告のスタイルと、それを効果的かつ効率的に放送・配信できる出稿プランを同時に広告会社に相談するというのが最も手軽で成功確率の高い手法だといえるでしょう。