広告はいつ生まれたのでしょう。およそ人間が不特定多数の顧客相手に商売をしたいと考えた時から、自ずと自分の商売を他人に宣伝したいという気持ちになるでしょうから、広告の歴史はかなり長い、と考える方が自然かもしれません。商売と広告は長年にわたり切っても切れない関係だったならば、広告の歴史に触れておくことは現代のマーケティングの原点を探ることにもなるでしょう。これから少しの間、広告の歴史を垣間見てはどうでしょう?
広告の歴史はいつから?
人類にとっての最古の広告とは?…江戸時代であろう、奈良時代からあった、いやいや世界では5000年前から存在していた…それを裏付ける資料も証拠も少なく諸説あります。そもそも何をもって広告とするのかにもよりますね。今の広告の形態から遡ってそのルーツを探ると、例えばポスターの原点として、日本には「錦絵」というのがあります。元来は美術品ですが、店名を明記した呉服店をバックに美人絵が盛んに描かれ、お店の宣伝も兼ねていたようです。江戸や大坂など大都市では商いの目印として看板が街を賑やかせます。簡素な文字看板から、絵看板、さらには商品を大きな模型にしたものなど、それぞれ工夫を凝らしたものが出現しました。こう聞いて、大阪の道頓堀の看板を思い浮かべた人も多いのでは?
見世物や興行も盛んに行われ、それを告知する広告が役割を果たすようになりました。また、歌舞伎のストーリーの中に商品名や商店名を入れ込んだ、今で言う「プレースメント広告」も登場。販売促進には「引札(ひきふだ)」というチラシが用いられるようになりました。今の広告の原初的形態をそこかしこに見られるのが、江戸時代、ということですね。
江戸期は木版印刷の技術が飛躍的に進歩した時代でもあり、それに伴って大勢の人に商品やイベントの内容を伝えることができるようになりました。広告は文字通り、宣伝文句を「広く伝える」ツールとなったわけで、近世商業発展の申し子、とも言えるでしょう。
広告クリエイターも現れました。自然学者として有名な平賀源内は、当時の歯磨き粉の引札で文才を発揮。「日本最初のコピーライター」とも言われています。すでにこの時代から、より人目を引くための表現の工夫が始まっていたわけです。クリエイターのはしり、ですね。
マスメディアの出現と広告の歴史
印刷技術の進歩は、世界に新たな「メディア」をもたらしました。新聞です。
アルファベットを使用し文字の種類が少ないヨーロッパでは、すでに活版印刷(活字を組み合わせて作った版で印刷する技術)による新聞が16世紀ごろから作られるようになったと言われています。日本では江戸初期にすでに「瓦版」が生まれたとされ、これが新聞の原型と言われています。1870年、日本初の日刊新聞として発刊された「横浜毎日新聞」には、早くも「廣告」の2文字が見られます。1870年代は現在でも読まれている「毎日新聞(当時は東京日日新聞)」「讀賣新聞」「朝日新聞」なども次々と創刊され、最も伝播力のあるマスメディアとして明治・大正・昭和の激動の時代とともに成長を遂げていきました。
それとともに新聞広告も発展していきます。明治中期以降になると「広告取次業」という、今の広告代理業の原型のような業務を生業とする会社が生まれました。1901年には「日本広告株式会社(今の電通の前身)」が誕生しましたが、そのビジネスの中心は新聞広告でした。
この時代のもう一つのマスメディア、雑誌も次々と発刊されていきます。すでに幕末には日本で初めての本格的な雑誌が創刊されたと言われています。発行部数では新聞に及びませんが、今でも続くその多種多様さ、手軽さが新聞にはない魅力として近代日本に定着します。雑誌自体が多種多様なのですから広告表現も様々。中には、今でも全く広告を載せない雑誌もあります。
大正時代には広告クリエイティブの表現が豊かになった時期でもありました。「アールヌーボー」や「大正モダニズム」の流れを受け、特にポスターのビジュアルは百花繚乱の様相でした。日本初のヌードポスターと言われる「赤玉ポートワイン」の広告は当時賛否両論でしたが、モノトーンの中にワインの赤色が際立つ、計算された優れたビジュアルデザインと言われています。
Tips 日本の広告、原点は江戸時代(錦絵・引札など)。明治からはマスメディアとして新聞が席巻。
広告の歴史はメディアセールスからAEへ
戦後の混乱から日本が立ち直りかけた1953年。NHKによるテレビの本放送が開始されました。これに続き日本テレビを皮切りに民放各局も次々に本放送を開始。1960年にはカラー放送も始まりました。ちょうど日本の高度成長期と重なり、テレビは「3C」「三種の神器」などに数えられ飛ぶように売れていきました。1964年の東京オリンピックは世界最初の「テレビオリンピック」とも言われ、また1968年のアポロ月面着陸など、日本どころか世界中の人がテレビに釘付けになりました。受像機の普及も相まって、テレビは新聞を凌駕する新たなマスメディアの主役となっていくのです。
民放は放送開始当初から「テレビCM」を放送し、その広告収入を主な収益としていたので、テレビの経済的発展はテレビ広告の発展と深くリンクしていたと言えます。特に1960年代は、テレビCMを打てば商品は必ずと言っていいほど売り上げを伸ばす時代でした。動画という豊かな表現は、世の中に様々なブームをもたらすと同時に、大きな消費をも湧き起こすのです。
しかし、そんな高度成長期から安定成長期に入ると、各企業はより緻密なマーケティング戦略をもとに広報宣伝活動を行うようになっていきます。広告会社にしても、それまでのメディアセールス中心の業態から、市場調査や商品コンセプトの立案、クリエイティブ表現とメディアプランニングを統合的に組み合わせてクライアントに提示する「キャンペーン型」の提案に軸足を移していきました。広告会社の組織も、これまでの4マス(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)を中心としたメディアのセールスを軸とした組織から、クライアントサービス中心としたAE(=アカウント・エグゼクティブ)制の組織にシフトしていきました。商品も、広告も、「量」から「質」が問われる時代に代わっていったのです。
Tips 安定成長期は、広告にとって「量」から「質」への転換期。
現代、そしてこれからの広告
メディアの進歩はその後も留まるところを知りません。
1980年代には「ニューメディア」という言葉が生まれました。これまでの地上波テレビ放送に加え、BS、CSの衛星放送、有線で家庭の受像機とつなぐケーブルテレビなどが次々と生まれ、日本の隅々まで様々な動画コンテンツが行き渡るようになりました。スポーツ専門、映画専門など多種多様のコンテンツを視聴者が選択できる多チャンネル時代の到来です。今まで難視聴地域と呼ばれたエリアでも放送が楽しめるようになり、また映画館やスタジアムに行かなくても映画やスポーツ観戦ができるようになりました。
2000年にはBSデジタル放送、2003年には地上波デジタル放送が開始されました。4:3から16:9にサイズも変わったハイビジョン画質の映像が家庭で見られるようになったのです。1953年のテレビ放送開始からちょうど50年、テレビは技術的にも内容的にも目まぐるしく進歩してきたわけです。
ところが、ちょうどその頃、このテレビの「メディア王座」を揺るがす新たなメディアが出現してきました。インターネットです。世界中の国が光ファイバーで結ばれ、しかもそれを無料で使えるメディアの出現で、コミュニケーションの可能性は無限に増えました。特筆すべきは「双方向性」です。これまでのいわゆるマスコミは、送信者から受信者にワンウェイでしか情報を送れませんでした。それが、大きな放送局であろうと個人であろうと、等しく自らが発信者になれるようになったのです。当然、コンテンツを供給する発信者が飛躍的に増え、つまりは玉石混交、ありとあらゆるコンテンツがまん延する時代となったわけです。 インターネットの登場は当然、広告の世界にも大きな影響を及ぼしました。テレビ全盛期には視聴率50%越え、なんていう番組もありましたし、広告を打つ効果的な番組に選択の余地はありませんでした。しかしインターネットの世界では、ありとあらゆるコンテンツがあり、それを見るありとあらゆる視聴者がいます。広告を発信する側は、より細分化したコミュニケーションが可能になりましたが、半面、細かくコミュニケーションを作り分けるなど効率の良くない戦略を余儀なくされてきたとも言えます。ともあれ、インターネットは広告の分野でも飛躍的に数字を伸ばし、2019年には日本においてもテレビの広告費を上回りました(2020年・電通調べ)。
インターネットは今後も、技術的にも経済的にも成長を続けると考えられる中、一方で屋外のサイネージなど、メディアの新たな様相も伺えます。今後はどのメディアも、その利点や特徴を活かして機能していく時代。その中で広告も、コミュニケーションの目的に合わせさらに無限のアイディアが試される時代に入ったと言えるでしょう。
Tips 双方向ゆえに可能性を無限に拡げたインターネット広告
まとめ
広告は「広く告げる」と書きます。歴史をひも解いてみると、「広く告げる」ための手段、すなわちメディアの進歩発展とリンクして進化してきたことがわかります。印刷技術、電波メディア、そしてインターネット。コミュニケーション技術の発展は、そのまま広告の可能性も膨らませてきたのです。 そして広告は「商売」の手段として、常に経済の発展ともリンクしてきました。経済の発展が広告業界の発展をもたらし、また広告の進歩が商業の進歩をもたらしてきたと言えます。広告の進化にこれからも注目しうまく利用することが、ますます大切になるのではないでしょうか。
広告。これからも目が離せません。