広告会社に頼めば、掲載スペースもそこに出す広告表現(クリエイティブ)も、全部広告会社が提案してくれるけど、提案をどう判断したらいいのか…そんなお悩みを持つ広告主の方も多いようです。特に、判断基準が難しいのがクリエイティブ、つまり広告表現です。しかし広告は、表現まで含めてある目的を達成させるための手段。その目的が判断する人の間で共有されていれば大きく間違った選択をすることはありません。
クリエイティブ案の提案はどんな方法で行うのかを紹介しながら、「判断のポイント」を見つけていきましょう。
広告クリエイティブ案の提案方法
グラフィック広告(=新聞・雑誌・ポスター・看板等)
平面の静止画で表現される広告をグラフィック広告と呼びます。これらの広告の提案は「カンプ」と呼ばれるボードで提案されるのが一般的です。新聞全ページまでの小さい広告ならだいたいは原寸大の用紙を使い、広告の仕上がりがなるべく想像しやすいようにイメージ画を描きます。これから制作する写真やイラスト以外はほぼ完成に近いカンプを作ることができるので、提案を受ける側にとっては的確な判断がしやすいでしょう。
動画広告(=テレビ・ネット動画・サイネージ動画等)
動画の広告は、多くの場合「コンテ」で提案されます。音声部分にはナレーションや効果音の説明書きがあり、映像部分には全体の絵のイメージがわかるようなイラストや写真が貼られます。より広告主の人がわかりやすいように、ビデオで編集して完成のCMさながらに見せる「ビデオコンテ」を作る場合もあります。最初に広告会社から提案されるコンテは「企画コンテ」と呼ばれ、詳細な絵作りよりも全体のイメージがわかるように作ってあります。
オーディオ広告(=ラジオ、店内音声放送、ネット等)
音声のみの広告なので、紙に書かれた原稿でプレゼンします。プレゼンターが実際に原稿を読むことが多いようです。
広告表現案をどう見ればよいか
「減点法」はほどほどに
ここからは、提案されたアイディアの良し悪しをどう見極めるかを考えてみます。
表現の判断でできれば避けたい方法が減点法です。「オリエンで示したこの要素が入っていないから」「プレゼン時間が1分オーバーした」といった基本的な減点ポイントもあれば、「雰囲気がなんとなく暗い」といった感覚的なポイントもあったりします。こんな基準で表現アイディアが減点されるのは少し残念です。広告表現の提案に正解はありません。正解がない、ということは満点がない、ということです。マイナスポイントが少ない案より、プラスポイントが圧倒的な広告表現の方が成功する可能性が高いのです。可能性を秘めたアイディアが減点のせいで日の目を見ないのは広告主にとってもマイナス、と言えるでしょう。致命的なマイナスポイントでなければ、制作過程での修正も十分可能です。
Tips 減点法より加点法で!
商品の状況を意識する
それぞれの市場は概ね「黎明期→競争期→成熟期」と変化していくことが多いですが、広告したい商品の市場がどの期にあるかによって表現の重心も違います。生まれたばかりの商品で市場も若い場合、広告では商品そのものの魅力を語るだけでものは売れます。価格の安い商品では、名前とパッケージをより覚えやすくする仕組みが必要でしょう。競争期は市場そのものも拡大していることが多く、他商品との差別化ポイントがしっかり伝えられている強い表現が有効です。そして成熟期には、その商品のブランドを強くゆるぎないものにする表現が選択肢に入ってきます。
商品の種類によってもマッチするトーンが変わります。まじめなイメージがいいのか、とか、若々しいか大人っぽいか、などなど。ただ、「金融はかたい」とか「和菓子はオーセンティック」という先入観に囚われすぎると、競合と比べて際立たない表現になってしまいます。
生活者の目線になってみる
会社の会議室でかしこまった雰囲気の中でプレゼンを聞いているとどうしても忘れがちなのは、「実は自分も生活者である」ということです。このセリフ、このコピー、自分が一生活者として見たとき、どう思うだろうか。いくらオリエン内容を全て網羅した表現でも、大事なのは生活者の目を奪うような表現かどうかです。CMなら、ストーリーの共感性や親近感を共有できるような表現は、生活者の脳裏に残せます。あなたの脳裏にも残るはずです。
Tips 生活者目線でその表現を見てみる
インパクトとユニークネス
多くのクリエイターが希求するアイディアです。何度か見るうちに何となく覚えてしまうのが一般的な広告メッセージの伝わり方だとしたら、それを1回で覚えてもらったらこんなにいい話はありません。また、他にない、という表現は、短期的な商品の販促にはもちろん、長期的なブランド醸成にも寄与します。
もちろん、インパクトがあってユニークな表現で、広告は印象づいたが、商品はさっぱり売れなかった、というケースも今までにあります。こういう場合よくあるケースが「つぼのズレ」です。面白い「つぼ」と商品特性がずれていたり、「つぼ」を押すことに終始して商品が十分露出できなかったりする場合です。
媒体ごとの特性
一般に新聞・雑誌は、インフォメーションをしっかり伝えるのを得意とし、逆にテレビやラジオは視聴者がエンタテインメントを期待するメディアだと言われます。新聞でふざけすぎると却って反感を招き、逆に深夜のテレビで真面目なCMを流しても見向きもされないかもしれません。同じ商品を複数のメディアで広告したい時は、全体を統一するコンセプトワードやキャッチフレーズは必要ですが、トーンまで各メディアを揃えてしまうと各メディアの得意技を発揮できないかも知れません。また、テレビCMは他のCMと隣り合わせでオンエアすることが多く、直前のCMが騒がしいとこちらが相対的に地味に見えることも。さらに、雑誌の専門誌の場合、例えば「釣り」の愛好家がターゲットの商品を専門誌「釣り人向けマガジン」に広告を出すなら、「釣りって楽しいね」というようなメッセージはすでに釣り好きの人たちには陳腐化しているかも知れません。
まとめ
プロの広告制作スタッフでも、コンテだけを見てその完成予想図を頭に浮かべられる人はなかなかいないし、いても他のスタッフと思い浮かべているものが別のものという可能性もあります。上述のような基準があったとしても実際に判断するのは難しいものです。
ある広告主はテレビCMのプレゼンを受ける時、終始プレゼンをしているクリエイターだけを見ていて、終わった後「で、あなたはどれがおすすめですか」と聞いて、そのクリエイターのおすすめの案に決めたそうですが、ここまで信用してもらえればクリエイター冥利に尽きますね。
それはさておき、クリエイティブの企画の選定は、悪い要素をはじく「減点法」よりも、いいところを積極的に見出す「加点法」で行うことで、より強い広告と出会える可能性が高まります。