マス広告は、非常に多くの人に伝わる反面、伝えられる内容は限られています。特にテレビCMは、例えば「目立って、商品の特長や内容がうまく伝わって売れて、わが社の名前を覚えてもらえるテレビCMを作りたい」と欲張ると、実際には「何を伝えたいのかよく分からない」といった印象の薄い広告になりがちです。なぜ、そのようなことが起こるのか?また、そうならずにマス広告を成功に導く方法を見ていきましょう。
1.マス広告の役割と特性
消費者の購買行動モデルに「AISAS」があります。● Attention(認知)→ Interest(興味)→ Search(検索)→ Action(購買)→ Share(情報共有) の頭文字を取ったものです。マス広告の役割は主に最初のAとI、つまり「認知を高めること」と「興味を喚起すること」。
また、マス広告を続けている企業や商品は、一般的に「有名で一流」「信用できる」といったブランド・イメージが高まります。その理由やマス広告の持つ力について、テレビCMを例に見てみましょう。
1-1. 到達力(リーチ)
テレビCMは、一度の多くの人の目に触れ、広く認知を獲得できます。どれくらい消費者(世帯)に届いたのかを測るのがリーチ(到達率)で、テレビは「リーチのメディア」として、その力を誇ってきました。
1-2. 認知/話題の共有
ブランド名や商品名を広く認知してもらうのに適したテレビCMは、話題を提供し、口コミを誘発することができます。強制接触というカタチで同時に多くの人の注目を得ることができるため、「あのCM面白いよね」といった会話が聞かれることも稀ではありません。
1-3. ブランドの醸成力
テレビCMを継続的に活用することで、強いブランドをつくることができます。テレビで長期に何度もブランド名(企業、商品、サービスなど)に触れていると、“お馴染み”になり、さらに“みんなも知っている”というイメージに。親近感、信頼感、愛着といったポジティブな感情を消費者の心に根付かせることができるのです。
1-4. 制限(秒数など)
テレビCMには、弱点もあります。長さが15秒または30秒と限られているため、詳しい内容や細かな説明を伝えることができないこと。また、 “くつろいで観ている” といった視聴態度が前提です。あまり専門的な内容や難しい説明を織り込むと「何のCM?」といった興味を持たれない広告になってしまうことに注意しましょう。
◎マス広告のチカラと苦手を意識した表現計画を!
2.売れるための条件
商品が多くの人に売れるようになるためには、マス広告(特にテレビCM)は有効な手段です。けれど、その使い方次第で、効果は大きく違ってきます。ブランドの状況、商品特長とクリエイティブ、販売との連携などが大切な要素です。商品が売れるための主な条件を見ていきましょう。
2-1. ブランド認知
いい商品でも、知らないメーカーの商品には手が出にくいものです。商品が売れるようになるためには、その商品を製造し販売している企業への認知と信頼感(企業ブランド)が必要。その上で、商品への認知・信頼・愛着(商品ブランド)が積み重なることが理想的です。ブランド醸成力のあるTV-CMは、有効な手立てです。
2-2. 商品の差別化優位
売りたい商品が、まだ世の中にない画期的な発明品であることは稀です。多くの場合、類似商品が存在しているため、消費者の目には“どんぐりの背くらべ”と映りがち。自社の商品のどこが優れているのか(差別化優位のポイント)を、明確に訴求することが大切です。TV-CMで訴求する際は、差別化優位のポイントを短い秒数の言葉・映像・音で伝えられるのか、クリエイティブが重要になります。
2-3. 販売との連携
商品が売れるために非常に大切なのは、“店頭配下”つまり近くのお店に置いてあることです。「どんな商品か見てみたい」と思っても、お店にないと買えません。または、競合他社の類似商品を買ってしまうでしょう。TV-CMで売れるようにするためには、オンエアの際にお店の配下率を上げておく必要があります。逆に、流通に対してTV-CMのオンエア計画が、店頭配下や店頭プロモーションの条件として商談に使われることも珍しくありません。
◎言いたいことを絞り込み、外部環境と連携することで、「売れる」広告ができる
3.画期的な新商品も、売れるとは限らない理由
今までにない技術や性能をもった製品や斬新で魅力的な商品だから、「テレビCMを打ったら、すぐに売れるだろう」と思っても、そうはいかないケースがあります。問題は“すぐに”という期待です。売れるためには、環境づくりとある程度の時間がかかります。売れるための環境づくりとテレビCMの関係について考えてみましょう。
3-1. 普及への壁(キャズム)
新しい商品は、すぐに売れるわけではありません。情報感度の高い人には受け入れられても、その他の人には受け入れられない、ということが多くあります。そのことを説明したのが「キャズム理論」です。
新しい商品が開発・販売されたとき、情報感度の高い人(イノベーター&アーリーアダプター)は、いち早く飛びつきお試しで買ってくれます。しかしながら、彼らは少数派です。大多数の人は様子見をして、世の中の評価や口コミを見てから買います。その間には、大きな溝があり多数派に売れるようになるには時間がかかるのです。
こういったことが予想される場合、まず情報感度が高い人に向けて情報提供や商品モニター等のPRを行ってから、次に大多数の消費者に向けたクリエイティブでTV-CMをオンエアすることが有効です。その際、全方位の人の情報ニーズに応えられるようWeb上にホームページやブランドサイトを整備しておくことが必須です。
3-2. 競合他社の動向
販売の現場では、常に競合他社との競争を強いられています。画期的な商品を開発・販売しても、模倣困難性が高くない場合、テレビCMをオンエアしても、すぐに競合社が類似品を商品化してしまうことがあります。また、競合社は販促プロモーションとして、低価格によって注目を集めたり、大量のテレビCMを投下してマインド・シェアを奪ったりすることも。他社の動向によって、期待する販売効果が得られないケースが多々あります。
競合他社の対応が早い場合は、マス広告と販促プロモーションと併せて行うことが有効です。具体例としては、“期間限定お試し価格”、“(付属品等の)プレゼント・キャンペーン”“数量限定プレミアム・モデル”“お友達紹介キャンペーン”など。マス広告と販促プロモーションを統合的に行うことで、早期にキャズムを越え、売り上げを高めることができます。
◎販売の「溝」を意識して、二段構えの表現戦略を
4.マス広告の目標設定と役割
はじめにご紹介した「AISAS」のうち、マス広告の役割である「A:認知を高めること」と「I:興味を喚起すること」は、若干の時差があります。今回の広告は、どちらの役割が求められる市場環境なのか、明確にする必要があります。また、広告クリエイティブには「難しいことは分かりやすく。分かりやすいことは面白く。」という金言があります。面白くて「目立つ広告」と、分かりやすくて「売れる広告」は、完全にはトレードオフ(二律背反)の関係にはありませんが、目標設定を曖昧にして両方を欲張ると、“二兎を追って一兎も得ず”という広告になりかねません。どのように目標設定すればいいかを、見てみましょう。
4-1. 「目立つ広告」のケース
- 「A:認知を高めること」が求められるケース
- 商品ブランドよりも企業ブランドで選ばれるケース
- 商品・サービスに大きな差がないケース
例えば、携帯キャリア(主に、ドコモ、ソフトバンク、au)などのカテゴリーがこれに当たります。商品・サービスの細かな内容を伝えるよりも、いかに直近の認知≒マインド・シェアを高めるかがマス広告の役割になります。指標としては、“ブランド想起”、“好感度”が重視されます。
4-2. 「売れる広告」のケース
【主なケース】
- 「I:興味を喚起すること」が求められるケース
- ベネフィットと商品ブランドへの信頼感で選ばれるケース
- 品質・性能の小さな差が、売上げに大きく影響するケース
例えば、日用品(例:花王、ライオン、P&G)などのカテゴリーがこれに当たります。商品サービスの小さな差を、いかに生活実感をもって分りやすいベネフィットとして伝えるかがマス広告の役割になります。指標としては、“内容理解度”、“購入意向”が重視されます。
◎「目立つ広告」か「売れる広告」かは、商品カテゴリーや市場状況による
5.まとめ
「目立って、売れる」ことは広告の理想ですが、“二兎を追って一兎も得ず”になってはいけません。マス広告およびそのクリエイティブに求められる役割は、市場環境、ブランドの状況、商品・サービスの特長、販売との連携方法などによって、異なります。「目立つ広告」が有効か、それとも「売れる広告」かは、ケースバイケースです。自社ブランドと商品・サービスの置かれている環境を考慮して、マス広告の役割を明確にして計画することが大切です。