広告クリエイティブは、企業の想いや販売の狙いといった企業側のメッセージを踏まえて“消費者に伝わるように表現する”作業です。「企業の名前や活動内容を知ってほしい」「商品の特長や価格メリットを伝えたい」といった企業側のメッセージを一方的に広告メディアに乗せても、消費者には「自分には関わりのないこと」とか「興味のない情報」としてスルーされてしまうリスクがあります。「企業側のメッセージを、消費者に伝わる広告表現にする」ための作業の流れについて、「消費者のホンネ」に照らし合わせて見ていきましょう。
企業側の伝えたいことを整理する
広告は「企業や商品の認知を上げたい」「商品の売り上げをアップさせたい」といった課題を解決する手段です。まず、課題のもとになっている問題や情報を整理して、広告ターゲットの範囲を決め、消費者に伝えるべきことのプライオリティをつけましょう。マーケティング課題に対する社内の共通認識をつくるとともに、広告会社に発注する際のオリエンテーションのベースともなる要素です。
市場環境の分析
自社がマーケティング活動を行っている市場の環境をあらためて俯瞰しましょう。「市場全体のパイは大きくなっているのか?」「どういった製品が伸びでいるのか?」「市場を占有している競合社はどこなのか?」「競合他社が、手をつけていない分野や商品特長はあるのか?」など、自社の広告での攻め口(広告テーマ)を決めるための情報を明確にします。
自社の強みの明確化
広告テーマや広告メッセージの根幹となるのが、自社の“強み”です。ビジネスモデル、商品特長・品質、デザイン、バリエーションの豊富さ、サービス体制、価格、経営ビジョンや経営者の人となり、社風・社員教育など。消費者から見えるもの、見えないものの両面から再確認しましょう。その上で、“あれもこれも”にならないよう、消費者の視点でプライオリティ(優先順位)をつけていきます。
広告ターゲットの設定
広告クリエイティブの成否を決定する大きな要素が、“広告ターゲットの設定”です。どんな人に伝えるのかが不明確だと、抽象的な表現になりやすいことに注意しましょう。また、広告ターゲットが広過ぎると、メディア予算がかかる割に「消費者の注目や興味が薄くなり、成果があまり得られなかった」となりかねないことに注意して下さい。
ターゲット像の具体化
広告ターゲットを絞る方法として、デモグラフィック(年齢、性別、家族構成など)、サイコグラフィック(ライフスタイル、価値観、趣味嗜好など)、ジオグラフィック(地域、居住地、現在位置など)があります。さらに、広告ターゲットの個性を明確にする方法に、ペルソナ(典型的なユーザー像のモデル化)があります。
消費者の行動を洞察する
設定した広告ターゲット(消費者)は、「どういった生活をしているのか」「どういった消費行動をとっているのか」「どういったメディア(広告媒体)に触れているのか」「どんなことに興味をもっているのか」など、効果的な表現をつくるための情報を整理しましょう。消費者の心の内まで知ることが非常に大切です。
ターゲット・インサイト
消費者の心をとらえて行動させる“鍵となるメッセージ”を探しあて抽出するのが、ターゲット・インサイトです。シンプルで差別性が高いほど、強い広告クリエイティブのベースになります。
ターゲット・インサイトを行う方法としては、社会的な共感性(ソーシャル・インサイト)、業界内での差別性(カテゴリー・インサイト)、広告表現の伝達性(メディア・コンテンツ・インサイト)など、課題のレイヤーに合わせてターゲットの心理を洞察します。これらは、複数の視点と集約し明文化する経験知が必要なので、広告会社などプロとのワークセッション等、協働で行うことも多い作業です。
カスタマー・ジャーニー
広告ターゲットの消費者は、どのようなメディアに触れているか(コンタクト・ポイント)を整理・分析しましょう。それらを連携させて、ターゲットを効率的に購買行動へと導くのがカスタマー・ジャーニーです。そのためには、メディアによって表現できること、すなわち有効に伝わることが異なる点を考慮する必要があります。広告表現のコンセプトやトーン&マナーの一貫性を保ちながら、使用メディア毎の表現をシンプルで強いものにする高度な連携が求められます。
消費者に効率よく伝わる広告表現をつくる
“効果的な表現”をつくるには、ノウハウと経験が要求されます。「企業が想像していなかったような表現を創造し、消費者を動かせる人」広告表現の優れた企画制作者が“クリエーター”と呼ばれる由縁は、こんなイメージからでしょうか。どういった人に広告クリエイティブを依頼するかは、広告の成否に関わる大切な要素です。
クリエイティブ・チームの起用と選定
クリエイティブ・チームは、主に下記のような職能をもったメンバーで組織されます。
【クリエイティブ・ディレクター(CD)】
チームのリーダーであり、広告表現とそのための作業全体を統括する責任者です。メンバー起用などチームの組織、プレゼン方法等のクリエイティブ・ワークへの注文、表現の変更・修正などは、クリエイティブ・ディレクターに集約して行います。
【コピーライター(CW)】
広告表現のための“言葉”にまつわる部分を、最終的な広告コピーはもちろん、インサイトの抽出、広告テーマや表現コンセプトなど、表現プランニングの前段階から担います。
【アート・ディレクター(AD)】
広告表現のための“ビジュアル”にまつわる部分を、担います。近年、すべてのアウトプットの見え方を“デザイン”することで、課題解決につなげる役割も担うようにもなりました。
【CMプランナー(CMPL)】
テレビCMの企画制作に特化したプロフェッショナルです。近年、その動画制作のスキルを活かして、Webの動画コンテンツ、イベント映像など、新しいメディアも担っています。
【クリエイティブ・プロデューサー】
使用するメディアの様々な広告コンテンツの制作予算とスケジュールを調整・管理します。表現上のリスク管理も、サポートします。
「広告クリエイティブを誰に依頼するか」は、まずCDを選ぶこと。ポートフォリオと呼ばれる制作実績資料をとりよせ、業種の経験、トーン&マナー、制作ポリシーなどをベースに選定することもあります。
広告クリエイティブ・プランの決定方法
広告会社に広告の企画制作を依頼してから、広告クリエイティブ・プランを決定するまでは上のような手順で行うのが一般的です。プランを決定する際に注意すべきことは、主に以下のような点です。
① 消費者の視点で。注目・興味が得られそうか。
② 印象に残りそうか。情報が多すぎないか。類似した広告はないか。
③ 各メディアの表現が、うまく連携できそうか。
④ 広告内容に、オリエンとのズレ・矛盾やビジネスへの誤解がないか。
⑤ 表現上のリスク(人権侵害、他社誹謗、著作権・肖像権・商標の侵害など)はないか。
表現プランをジャッジすることは勇気のいることです。不安や責任分散のために多くの人の意見を入れようとして「船頭多くして、船山に登る」とならないよう注意しましょう。
広告表現物の制作について
広告クリエイティブ・プランが決定したら、実際にオンエア・掲載する具体的な表現物の制作をします。上のフローが、プランに基づいて実際の表現物を制作する一般的な手順です。制作する際には、一般に制作会社(プロダクション)が協力会社として参加します。広告会社が、設計・施工管理を行う建築会社としたら、制作会社は施工を専門に行う現場監督と大工さんたちを束ねる工務店といった関係に似ています。注意すべきことは、主に以下のような点です。
① 企画プランと演出(実行)プランの間に、矛盾や過度な飛躍はないか。
② トーン&マナーやクオリティが、商品やブランドにふさわしいか。
③ コストとスケジュールは適切か。
ブランド視点で、継続性を考える
広告は、マーケティング課題を解決するための手段です。課題の解決には、計画性、継続性、たゆまぬ改善が必要です。特に、強いブランドは単発の広告表現ではつくれるものではなく、“継続は力なり”ということを念頭におくことも成功の要因です。
効果の検証
広告クリエイティブの指標は、ブランドの認知度、広告想起、好感度、ホームページ等のネットの検索数、ツイッター等への書き込み内容、コールセンターへの問い合わせ、売り上げなどがあります。どの点を自社の指標として重視・評価しながら課題解決に向かうかを、事前に社内やクリエイティブ・チームと共有しておきましょう。
次の広告のために
クリック数、コンバージョン・レートといった指標が測定しやすいデジタル広告に比べて、マス広告は、認知度、広告想起、好感度といった指標が測定しにくいのが特徴です。「どこが良くて、どこが悪かったのか」「何を継続し、何を変えるべきか」など、クリエイティブ・チームと話し合って改善点を具体化しましょう。
また、初めてTV-CMを行った場合に多いのですが、期待した程には売り上げに結びつかなかったというケースが見られます。原因がTV-CMの内容による場合ももちろんありますが、TV-CMは認知したが、ブランドの内容を理解するにはフリークエンシー(接触頻度)が足りなかったとか、オンエアと店頭キャンペーンのタイミングのズレが原因の場合もあります。広告クリエイティブ以外の原因も併せて分析をして、次の広告に活かすことが大切です。
まとめ
広告クリエイティブは、スキルと経験が求められるプロフェッショナルな作業ですが、それ以前に企業のマーケティング活動を支える一部であり、課題解決の手段です。ですから、広告主とクリエイターのチームワークが結果的に強いクリエイティブを生み出す可能性が高くなります。クリエイティブ・チームは課題を消費者側からひも解いていくプロフェッショナルでもあるからです。「何が伝わるか」をパートナーのクリエイティブ・チームと考え、協働作業として進めてみましょう。企画から制作まで、「消費者に伝わるか」の視点を忘れないことが成功へのカギとなります。
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