「21 Coffees」では、マーケティング・コミュニケーションビジネスに長年携わってきたToshさんが、マーケティングやブランディングに携わるプロフェッショナルや経営者たちとのつかの間のコーヒータイムを綴りながら、皆さんの少しでもお役に立てるようなヒントMarketingDripを「抽出」します。
Wさん(男性、50代)
-ゲーム会社 チーフ・マーケティング・オフィサー
“時というものは、それぞれの人間によって、それぞれの速さで走るものだ。”
シェイクスピアの言葉です。それから3世紀以上たってアインシュタインが提唱した相対性理論の主旨は、ここに凝縮されていることに気がつきました。コロナ禍における社会の状況は途方もない変化を強いられています。この2年近くにわたる時間の経過と感じ方もまた人によって、時には大きく、異なるのではないでしょうか。
1年近くぶりにPC画面を通してWさんの笑顔にお目にかかりました。Wさんが身を置くゲーム業界はハード、ソフト、オンライン含むと昨年の国内市場は2兆円に達したと言われており、特にオンライン市場が大きく寄与したという認識をされています。10年前にWさんが転職した先は日本のソフトメーカーですが、時代の変遷を見ながらオフィス向けソフトから携帯コンテンツ事業へ軸足を移し、いまはモバイルオンラインゲームを中心に国内外に向けて提供しており、多くのファンを獲得されています。
会社の好調さについて巣ごもり消費の恩恵としながらも、Wさんが強調するのは戦略性の重要さでした。Wさんは転身前でも消費財メーカーでマーケティングに携わっており、その道のスペシャリストとして、戦略を構築するマインドが根付いています。メーカーのミッションとして「求められるモノをつくる>相手に届ける>より良いモノに改善する>また相手に届ける」というサイクルを常に念頭に仕事に従事されてきました。私はWさんとは6年前に共通の知り合いを通じて紹介されました。そのときは残念ながらビジネス上の付き合いには至りませんでしたが、私がゲーム好きというのもあり、プライベートで席をご一緒するようになりました。
疑問に思うことを悪いこととしない
自分は特に気が短いですから、とWさんは自社のゲームキャラクターをあしらったマグからコーヒーを飲みながら話されました。物事の動きが停滞しているときは必ず何か原因があるわけです。それをどうにかしなければいけないとうずうずし始め、すぐに解明とその後の対策に着手するとのこと。Wさんにとって「いずれ何とかなるだろう」あるいは「このままでも大丈夫だろう」といった考え方は、余裕ではなく怠惰でしかありません。以前勤務されていた2つの会社では、上司とそのような話で何度もぶつかることを経験してきたWさんですが、今の会社に紹介されたとき、スタートアップで、社長は自分よりも年下でありながら、同じ価値観を共有できる相手だと直感で感じ転職を決めました。社長の信頼を得るまで時間はかからず、そこから先Wさんの貢献度は何よりも会社の変遷と業績が物語っています。
リスクマネジメントに対する意識の高さを指摘すると、Wさんは少し考えてから、そうでもあり、また小心者であること故のサバイバル術かもしれませんね、と言います。今ここを凌ぐ施策を講じればこれからは大丈夫だから、と自分では思わないよう定期的に頭のなかに緊張感が駆け巡るようにしています。
最悪にも最高にも準備を怠らない
その場しのぎという場面が多く見られるような世の中になってきましたよね、とWさんは笑いながら続けました。悪いことをやっておいて、人々の頭の中から忘れ去られるの待っているような輩が最近目につきます。そんなときはきっと時間がたつのは遅いでしょうね。自分なら、何か手を打っておかないとその先に怖い結末が必ず待ち受けていていると想像してしまうので、大した根拠もないなかでじっとしていることができない。だからシナリオを、それも一つでなくいくつものパターン用意して何ができるか、をみつけるために奔走してしまう。転職を繰り返したときも、たまに家よりも仕事に没頭してしまう有様も、奥様には散々迷惑をかけてしまい、怒られることがしょっちゅう。唯一頭が上がらない相手だそうです。ちなみに結婚したときは「自分らしくない」勢いでしてしまったが、後悔は一切ありませんと断言されていました。
Wさんは毎年9月になると、社長と一緒にまとめた翌年+2年の会社のビジネスプランを役員会で発表されるそうです。今回、ちょうどそれを終えてすぐのタイミングでの私とのコーヒーブレイクでした。本音を言えば、1カ月先だって見えないとWさんは言います。来年の今ごろどうなっているかなんて、考えていても誰もわからない。じゃあどうするかというと、その時にこうなっているべき姿を創造するのみです、と。そこに到達するための施策を、資金繰りから人事、商品開発、販売戦略、もちろんマーケティング等すべてにおいて計画し、それに基づいて実行する。すると結果的に到達点をミスしたとしてもそこに行く途中、四半期ごと、月次、週おきに理想の道筋との差異を認識、そして修正しながら足場を固めていける安心感を得ることができます。ちなみに数字目標は最低でも3つのシナリオがあり、最悪でも達成しなければいけないプラン、何か天から恵みが降ってきた場合の最高プラン、そして2つの間にリスクをある程度見込んだ現実的プラン、を用意します。危機感とモチベーションを武装しないで未来予想などできないそうで、特にモチベーションは直接自分の特別ボーナスにつながるから大事ですね、とWさんは笑いながらそっと付け加えました。
Marketing Drip - 未来は設計から始める
人は未来を予測できる能力をもっているという記事を、日本脳科学関連学会連合のサイトで拝見したことがあります。飛んでくるボールをキャッチできるのはボールの速度、軌跡などを瞬時に予知して待ち構えることをしているそうです。しっかり目を開いてボールをキャッチし、秒単位ではありながら自分の予知能力が正しかったことが確認できます。さらにその能力を高めるように、投げてもらう距離を徐々に馴れてくるにつれて遠くにしたり、投げるスピードを上げるなどして、ボールに対する様々な対応力を蓄積していくことも可能になります。こうして対応力を上げることで、平時から非常時に変わる事態が起きたときに慌てることも減ります。将来の起こり得る様々な状況を予め想定する力を備えることにつながるのです。