「21 Coffees」では、マーケティング・コミュニケーションビジネスに長年携わってきたToshさんが、マーケティングやブランディングに携わるプロフェッショナルや経営者たちとのつかの間のコーヒータイムを綴りながら、皆さんの少しでもお役に立てるようなヒントMarketingDripを「抽出」します。
Pさん(女性、50代)
-ペットフード会社 執行役員
“20年たってあなたが失望するのは、やったことよりもやらなかったことに対して。”
Pさんは地元の神奈川県で幼少のころからインターナショナルスクールに通っていましたが、それは外資系企業の役員をされていた御父上の意向だったと聞いています。同様の経験をされた人たちの中には環境に馴染めなかったり、それで英語が嫌いになったりすることがあるなかですが、Pさんはしっかりと異文化との触れ合いから国際感覚を養い、英語はもちろんスペイン語までも習得されました。きっと大変な思いをしながらも、それを機会と捉えるように頭を切り替えたのではないかと察します。このマーク・トウェインの言葉を当時ご存じだったことはないでしょうが、そこに暗示される探求心と行動力を幼くしてすでに兼ね備えていらしたのかもしれません。
Pさんが最初に勤務していた、外資系トイレタリー企業のマーケティング部所属のときにお会いしたのがきっかけです。当時ヘアケアブランドのアシスタントからマネジャーに昇格されたばかりのタイミングでした。私のチームがグローバルエージェンシーとして担当させていただいた広告は言うまでもなく、消費者調査や商品のパッケージ開発含め総合的な戦略の構築の責務を負いながら、P&L(損益)と外国人上司のマネジメントに追われる多忙な日々が始まったばかりでした。ご担当カテゴリーは経済社会状況によってさほど影響されることがないようですが、大手企業含め競合性は高く、優位性や独自性を追求した商品が求められる激しい戦いが繰り広げられ、さらには自社の別ブランドとも競合するというシビアな状況でした。ストレスの原因になり得る要因が多々あるなか、Pさんはむしろやりがいを見出し、いかにして消費者に自分のブランドに手を伸ばさせるかのプロセスを楽しんでいるかのようでした。若さの割に落ち着かれた佇まいと大胆な発言力。それでいて不快に思わせないところがありました。
自分でつくる道
ご自宅のリラックスモードのPさんと久しぶりに対面し、顔つきがソフトになったのではと指摘しました。そうね、それが仕事モードになるとアドレナリンがドバっと出るみたいと、Pさんは画面越しに手を広げてみせました。タメ口混じりは相変わらず健在で、出会いから結構すぐに打ち解けたのが幸い(災い?)したようです。一回り上でもこちらは全然気にしていませんが。仕事はやる気スイッチじゃないけど、やるからには納得して全力で取り組まないと勿体ないとPさんは言います。だってそうじゃない、人が決めたことに頷いて作業をやるだけなら、自分でなくて誰がやってもいいわけでしょう。自分で確認しながら進めて、結果自分で責任もとる。これが仕事というものじゃないかと、勝手に思い込んでいるんです。生意気でしょう?そんなことはないと、私はやんわりと否定。どうせそういう性分だってわかっているし、未だに全然変わってないわ、とPさんは屈託のない笑顔で返します。
確かに、新製品の評価に関するグループインタビューを実施した際は、終了後に参加者と一緒にテーブルを囲んで総括をしていると、調査部門の担当者を差し置いてディスカッションをリードしているのはPさんでした。パッケージのアイデアをプレゼンするデザイン部門の方が、Pさんから矢継ぎ早に質問され困り果てている場面も度々。我々も同様に、戦略やプランなどの打合せ時間を通常の顧客の倍くらいとるようにしていました。それでも自身の疑問が解消され納得すると、Pさんは直ちに丁寧に感謝の意を表し、その後の作業のタイムラインに支障が出ないようにフォローも欠かしませんでした。
手の届く目標を続ける
数年前Pさんは50才を迎える直前に現在お勤めのペットフード会社に転職、今は組織の主要プロジェクトを切り盛りする重要な役職につかれています。大変お世話になった御礼に送別会を兼ねて一席設けた際に、全く異なる業界への移行にも拘わらずPさんは目を輝かせながら熱い抱負を語っていました。明快な目標に向かって猛進されている姿は、羨ましい限りでした。当時を思い出してそれをお伝えすると、Pさんはかぶりを振ります。私の生き方はOne day at a time、その日その日を乗り切るので必死よ。その積み重ねが結果となって自分に返ってくるわけでしょう。だからやれることを精一杯やっておくのが当たり前。あの時は新しいチャンスを得たけど、知らない世界に対して不安がないわけなかったわ。だから余計に自分を奮い立たせることも必要だったの。
ハーブティーをすするPさんに、今の職場での状況をお聞きしました。すると少し渋い顔をしながら、もう少しでひとつ上に行くわ、としっかりした口調で答えが返ってきました。会社の経営に直接参画する立場になれば、また貢献できることのレベルが上がるの。考えていることがいくつもあって、でも実行するにはまだ社内で力が足りない。準備はしているの。専門知識の勉強。外部パートナーと組む段取り。それから社内の根回し。それができるようになったのは凄いでしょう、と嬉しそうな表情を見せました。
コロナ禍ではペットと過ごす時間が増えたり、新規ペット飼育数の増加傾で、関連市場に弾みがついているようです。ペットオーナー向け新規のサービスやペット用付加価値商品の投入など、各社画策して業界を盛り上げており、やはりPさんの行くところ、競争が待っています。本人もそれを意識してか、ますます士気が上がっているようです。
Marketing Drip - 若々しくいるのに年齢は関係ない
創業100年以上の企業の数において、日本は世界で断トツに一位というデータがあるそうです。老舗というと古く堅苦しいイメージが先行する反面、長い期間存続できる大変な企業努力があった証でもあります。根幹となるのは、自社の元来の強みとブレない価値~いわゆる暖簾。そうして必須なのが、社会情勢の変化を読み・対応(業務改善)できる柔軟性を持ち合わせること。人材開発、DXなど含むインフラ技術、顧客との関係性、さらに的確に支援してくれるパートナー選びまで、長期的観点から構築する。だから時代が変わっても乗り遅れないように。その先には成功企業の輝きが見えてくるでしょう。