アニメ・ゲームといった日本発のキャラクターコンテンツが、世界各国で人気を集めています。昨今では動画配信サービスが定着したこともあり、従来と比べてより多くの国で日本のコンテンツに接しやすくなってきました。
日本発のキャラクターコンテンツを活用し、新たなビジネスチャンスのヒントを得るため、電通と電通マクロミルインサイトは共同で、2020年末から2021年始めにかけて「グローバルコンテンツ調査」を実施。その結果を分析すると、国ごとに人気のあるキャラクターコンテンツの傾向が異なることや、その理由も見えてきました。
本連載では調査結果をご紹介しつつ、世界各国での駐在経験のある社員の声を交え、各国の文化の違いや日本のコンテンツ・キャラクターが人気を集める背景について掘り下げていきます。
第1回は、調査結果から見えた全体の傾向と、筆者である私が合計5年間駐在した中国・韓国の傾向について解説します。
中国では「名探偵コナン」、韓国・東南アジアでは「ドラえもん」「NARUTO」、英米では「ポケットモンスター」が人気
今回の調査では、「コンテンツ(漫画やアニメ、作品)」の人気度、「キャラクター(キャラクターグッズなど、さまざまな展開をしているもの)」の人気度を、認知度やイメージといった項目に分けてアンケートを実施し、分析しています。
【図表1】 各国の「漫画・アニメ」認知度ランキング
この調査結果からは、テレビでの放映に加え、さまざまな動画配信サービスの発展や、コンテンツの展開などが増えてきたことにより、世界で日本のコンテンツの存在感が高まってきている様子が見えてきます。
今回は、日本の人気コンテンツに加え、海外の人気コンテンツも一部選択肢として用意し調査を行いましたが、認知度の1位は調査対象の8カ国でいずれも日本のコンテンツが獲得しました。特徴的に認知度が高いコンテンツを国別で見ると、中国では「名探偵コナン」、韓国・東南アジアでは「ドラえもん」「NARUTO」、英米では「ポケットモンスター」(全体スコアでは、「アナと雪の女王」が同率首位)です。
「名探偵コナン」はテレビ放映やネットでの配信だけでなく、世界中で劇場版が公開され、広く認知されています。「ドラえもん」は昭和の時代からずっと漫画やアニメが世界中の言語に翻訳されており、幅広い認知を獲得しています。忍者の世界を舞台にしながらも、現代的な世界観も含まれた「NARUTO」も、世界中の言語に翻訳され、ファンに愛されています。「ポケットモンスター」は、ゲームから始まり、アニメ化、ハリウッドでの実写映画化と、コンテンツとしての裾野をさらに広げています。
中国、韓国、ベトナムで人気のキャラクターは「クレヨンしんちゃん」
【図表2】各国の「キャラクター」認知度ランキング
中国、韓国、ベトナムにおいて認知度が高いのが「クレヨンしんちゃん」です。海外コンテンツの「ミッキーマウス」や、「スパイダーマン」などを抑えて1位を獲得するほどのコンテンツパワーです。他に中国では「ウルトラマン」が、その他の国では「スパイダーマン(タイ、マレーシア、インドネシアで1位)」や、日本コンテンツでは「ハローキティ(韓国3位、インドネシア3位)」や「マリオ(アメリカ1位、ベトナム2位、イギリス・タイで3位)」の人気が高くなっています。
日本のコンテンツは「オリジナリティー」の高さで支持を集める
【図表3】主要コンテンツ・キャラクターの中国・韓国での年代別認知度
【図表4】中国・韓国での「名探偵コナン」イメージチャート
【図表5】中国・韓国での「進撃の巨人」イメージチャート
【図表6】中国・韓国での「鬼滅の刃」イメージチャート
【図表7】中国・韓国での「クレヨンしんちゃん」イメージチャート
【図表8】中国・韓国での「ウルトラマン」イメージチャート
ここからは、中国・韓国で特徴的に人気が高いコンテンツと、その人気の理由を深掘りしていきましょう。
今回は、私自身が駐在した中国での特徴や傾向を中心としたレポートとなってしまい恐縮ですが、同じ東アジアに属する中国と韓国は認知度の高いコンテンツの傾向は似通ったものがあります。
「名探偵コナン」「クレヨンしんちゃん」など、両国で共通して認知の高いコンテンツに加え、韓国では特徴的に認知度が高く、中国でも徐々に人気が広がりつつある「進撃の巨人」についても、それぞれの国でのイメージを確認していきます。
「名探偵コナン」は、中国・韓国どちらの国でも幅広い年代に認知され、「知的なコンテンツ」「新しいコンテンツ」「オリジナリティーのあるコンテンツ」として支持されています。
前述の通り、歴史あるこの作品はさまざまな形で各国の生活者に届けられてきましたが、それに加え、昨今のアジアでの「謎解き」ブームも、「名探偵コナン」の人気を後押ししているのではないでしょうか。日本で人気の「リアル脱出ゲーム」のような体験型イベントスペースが中国でも人気を博しており、2019年時点で、中国全土に1100カ所の謎解きゲーム施設ができているそうです。(出典:日本経済新聞 2020年12月1日付)
「進撃の巨人」は、韓国での認知が非常に高く、作品の「オリジナリティー」が高く評価されています。作品連載初期・アニメ放送開始当初から韓国での人気が沸騰していたと言われていますが、作品自体の重厚な世界観や魅力に加え、世界中に先駆けた、韓国での漫画・アニメ展開の早さというのが根強い人気につながっていると推察されます。
世界中で劇場版が公開され、話題となっている「鬼滅の刃」については(※本調査実施時の2020年1月は海外での劇場版公開前)、まだ認知度は高くないものの、中国で「共感性」が非常に高く評価されています。日本のコンテンツの中で描かれる、「家族や仲間との絆」は文化的背景の近いアジア各国での共感を呼びやすく、家族や仲間との絆がテーマの一つである「鬼滅の刃」も、今後のアニメ版の展開や劇場版はこれからさらに話題となっていくと思われます。
次に、中国における「クレヨンしんちゃん」のイメージは、日本や韓国でのイメージと異なり「知的さ」や「新しさ」が評価されています。家族をとても大事にする文化がある中国では、家族の生活を描いたアニメ・漫画が人気を集めやすい傾向にあります。家族像を描きながらも、特有のギャグやユーモアにあふれる作品性が、「知的さ」「新しさ」といったイメージ・人気につながっているのかもしれません。
「ウルトラマン」については、オリジナリティーがあり、親しみのあるコンテンツとして支持されています。長年のシリーズ展開により、中国でもウルトラマンシリーズは親世代・子世代が一緒に楽しめる「親子コンテンツ」となっていると言えます。
こうして見ると、全般的に人気コンテンツに共通するキーワードは「オリジナリティー」ということが分かります。国際放送や動画配信サービスが普及し、世界中であらゆる国のコンテンツが視聴できる現代だからこそ、独自の世界観や面白さといったニッポンコンテンツ特有の「オリジナリティー」に、世界の視聴者が改めて注目していることがうかがえます。
北京市内でもニッポンコンテンツは散見される。ウルトラマンのヒーローショーが玩具店で開かれ、多くの人々の注目の的に。(写真は2017年5月撮影)
中国市場を牽引する「80后世代」は、ニッポンコンテンツを見て育った最初の世代
それでは中国でこれらのコンテンツが人気を集める背景を、少し違った視点で考察していきます。
中国におけるニッポンコンテンツ人気の背景を考える際、「世代観」と「時代背景」がとても重要な視点となります。
特に今回の調査対象に含まれる中国の30?40代は「80后世代」と呼ばれ、長らく中国市場の中で注目されてきました。彼らは中国で改革開放の時代といわれる1990年代以降に、幼少期・青年期を過ごしました。このころから中国で、日本や海外のさまざまなコンテンツが放送されるようになったため、海外の文化を積極的に取り入れた最初の世代といわれています。この「80后世代」が幼少期に見ていたのが、「ウルトラマン」「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」などのニッポンコンテンツでした。
また、その下の世代である「90后世代」「00后世代」になると、Youkuやbilibili動画などの動画配信サイトで、世界中のさまざまなコンテンツに、自分の趣味に合わせて接触するようになりました。
【図表9】中国生活者世代ごとの特徴
「好奇心旺盛」で、「いいものは積極的に採り入れたいという柔軟さを持つ」という中国人の性質
私は2020年まで中国に駐在していましたが、中国の生活者の「好奇心の強さ」と「好きなものは追求したい」という熱量には常に圧倒されてきました。この「好奇心の強さ」が、ニッポンコンテンツの中国での人気にもつながっているのではないでしょうか。
例えば、中国では「日本文化」をテーマにした月刊誌が存在し、街の書店で販売されているのを見かけます(写真)。
写真左:日本文化を紹介し続ける雑誌「知日」、同右:書店には村上春樹の小説が並ぶ。(写真は2018年4月撮影)
また、駐在中の2018年に、RADWIMPSの中国ツアーがありました。2016年に、音楽を担当した映画「君の名は。」が中国で公開されて日本映画として記録的な興行収入を上げ、もともと中国でもファンの多かったRADWIMPS人気にさらに火がついた中で、中国を縦断するツアーが開催されました。
私も観に行ってみたのですが、このライブの中で私が最も驚いたのは、「前前前世」や「もしも」といった名曲の場面で、中国人のファンで埋め尽くされた会場が一体となって「日本語」の合唱が起きたことです。これには、日本人として鳥肌が立ちました。RADWIMPSのメンバーも、中国語でファンに応えるなど、一体感のある熱狂のライブでした(写真)。
これ以外にも、太平洋戦争下の広島で暮らす人々の日常を描いた漫画「この世界の片隅に」も、中国語に翻訳され出版されるなど(ちなみにこちらは、友人であり北京電通OGでもあるMaomaoさんが翻訳しています)、中国でのニッポンコンテンツに対する関心はますます高まりつつあります。
皆様の持つ中国へのイメージや印象はさまざなものがあるかもしれませんが、中国の生活者の「いいものは積極的に取り入れる柔軟さ」という性質も、中国でのニッポンコンテンツの人気の後押しとなっているかもしれません。
「この世界の片隅で」の中国版。
北京最大級の競技場「キャデラックアリーナ」を観客で埋め尽くしたRADWIMPS。(写真は2018年7月撮影)
<調査概要>
タイトル:グローバルコンテンツ調査
調査手法:インターネット調査
調査時期:[日本]2020年12月17日~24日
[米国][中国]2021年1月4日~13日
[韓国][タイ]2021年1月5日~14日
[ベトナム][インドネシア]2021年1月6日~16日
[マレーシア][英国] 2021年1月8日~18日
対象者:各国10代~40代男女
コンテンツ日常接触者(対象コンテンツ:漫画、アニメ、各種ゲーム)
調査内容:日本を中心としたコンテンツ(漫画・アニメ)、ゲーム、キャラクターのパワーの把握。日本や日本企業に対する期待度、各国消費者の価値観など。
調査機関:電通マクロミルインサイト、電通
転載元となった「電通報」の対象記事はこちら