あらゆる業界でオンラインシフトが急速に進み、生活者の価値観や購買プロセスにも大きな変化が起こっている今、オンラインとオフラインがシームレスにつながった新しい購買体験が求められています。
国内電通グループは2021年2月より、OMO(オンラインとオフラインの融合)時代の新たな「ショッピング体験」をデザインするプロジェクト「dentsu SX(エスエックス)」(※1)をスタート。SXという名称には「Shopping Transformation」と「Shopping Experience」の両義が込められており、世界有数のデザインファームであるfrog design inc.との強力なパートナーシップのもと、テクノロジーとクリエイティビティを武器に、これからの時代に合わせた新たなショッピング体験を戦略・実装・運用までワンストップで支援します。
本連載では、「コスメ」「金融」「ファッション」「日用消費財」「家電品」の5つの業界で起きている変化を捉え、今後の展望を考察します。
連載第1回は、dentsu SX立ち上げの背景にあった時代の潮流や課題感、プロジェクトが目指す未来について、電通の森直樹氏、電通ライブの神志名剛氏、電通デジタルの安田裕美子氏の3名にインタビューを行いました。
※1 dentsu SX
国内電通グループ7社による、OMO時代に沿ったオンオフ統合の購買体験を顧客目線でデザインし、リテール領域において企業の事業成長に貢献するプロジェクト。電通グループのこれまでの事業蓄積と、戦略パートナーとして参画するfrog design inc.の知見を統合。電通独自の顧客行動データや、AIやクラウドなどの最新テクノロジーを活用し、顧客インサイトを掴むクリエイティビティと掛け合わせることで、顧客視点に立ったブランド独自のショッピング体験を創出する。(詳しくはリリースを参照)
デジタルシフトの今こそ問い直される、リアルの体験価値
──はじめにプロジェクト立ち上げの経緯や、背景にあった課題意識を教えていただけますか?
森:テクノロジーの進展と共に生活者の購買体験が目まぐるしく変わる中、DXやD2Cといった新たな試みにチャレンジする企業が増えていました。その潮流に対して、電通グループにはデジタルやデータ、スペース開発、要素技術など、最先端のソリューションでアプローチできる会社がたくさんありますが、それらを統合させることで、より価値のあるショッピング体験をクライアントに提供できるのではないかと考えました。
神志名:個人的に強いインスピレーションを受けた事例があります。それは、2018年にNIKEがニューヨークにオープンした「House Of Innovation 000」。NIKE公式アプリと連動した店舗設計で、ユーザーはアプリで試着の依頼や決済などができるだけでなく、個人データに基づくパーソナライズされたハイエンドなサービスを受けることもできます。
顧客とブランドの信頼関係のもと、顧客はより良いサービスを受けるために個人データを提供し、ブランドは一人一人に合わせた高度なサービスを提供する。
OMOとは単純に店舗とECを行き来するだけにとどまらず、顧客とブランドの関係性を高め、新しい体験を生み出すポテンシャルがあるのだと確信しました。
安田:デジタルシフトが加速する一方で、改めてリアルの体験価値を問い直す企業が増えていますよね。そこで鍵となるのが、“今、ここでしか得られない体験”や、リアルだからこそ生まれる“感動”だと思うのです。OMOの考え方は少しづつ浸透してきていますが、実践できているとは言い難い現状だと思います。今こそ、デジタル/テクノロジーと人を動かすクリエイティビティを掛け合わせた顧客体験が必要になるのではないでしょうか。
ブランドとの関わりを日常化する「ショッピング体験」とは?
──「ショッピング体験」というフレーズが印象的ですが、この言葉に込められた意味をもう少し詳しく教えていただけますか?
森:コロナの影響もあってDX化が加速度的にうたわれていますが、単純にデジタル化すれば良いというものではありません。オンオフの境目がないところで、ブランディングとロイヤリティを高めていくような、購買体験そのものを刷新する必要があります。つまり、購入するという行為だけでなく、その後の関係性を深めていくことも含めての「ショッピング体験」が求められているのです。
神志名:ショッピング体験という言葉には、語感として「ワクワクする」「楽しい」「ためになる」というポジティブな印象が込められています。生活者にとっては、オンラインかオフラインかはそこまで重要ではなく、どれだけ快適に、便利で、楽しく買い物できるかがポイントです。
だからこそ、購入して終わりではなく、リピートが生まれ、ロイヤルティが高まり、最終的には生活者自身のアイデンティティにブランドが重なるぐらいの強い結び付きまで到達すべきだと思っています。
森:「日常化」はショッピング体験における重要な要素ですよね。ブランドの入り口は「新しさ」や「面白さ」かもしれませんが、そこから生活者の日常にブランド体験が定着する状態までを設計したいと考えています。
神志名:言い換えれば、短期的な利益ではなく、中長期的な企業利益をデザインするということ。新しいショッピング体験を軸に、ブランドの事業そのものを変革し、ドライブさせることを本プロジェクトでは目指しています。
クライアントに合わせて柔軟に“最適解”を設計することが重要
──「OMOを志向する企業が多いが、まだ実践には至っていない」という話がありましたが、そういった現状の中でdentsu SXだからこそ提供できる価値とは何でしょうか?
安田:大きく3点、「ユーザー理解」「構想だけに終わらない実行力」「テクノロジーインテグレーション」が挙げられます。
電通はこれまで広告コミュニケーションを中心に「人を動かす」ことに取り組んできました。そこで培われた膨大なユーザーインサイトの知見や経験は、ショッピング体験を設計する上で非常に強力なアセットになると考えます。
また、ただ構想を描くだけでなく、実際に店舗や“場”を作ること、さらに作って終わりではなくきめ細かな施策を実行するところまで、一気通貫で提供できるところも強みだと思います。
それから、特定のテクノロジーやクラウドサービスなどに縛られることなく、提供したい体験に合わせてベストなテクノロジーを組み合わせて提案できる点もメリットではないでしょうか。
森:dentsu SXはユニークな機能を持つ企業と人材の集まりなので、クライアントの状況に応じて、提供するソリューションを柔軟に変えられる点が大きいと思っています。デジタル・テクノロジーの導入が必要な場合もあれば、コンサルティングが必要な場合、あるいはUXデザイン、クリエイティブ、スペースなど、課題解決に必要なアプローチはさまざまです。特定のフレームワークに限定せず、クライアントにとっての“最適解”を提案することができます。
神志名:これまで述べてきたように、もはや店舗とECの単純な統合だけでなく、ポップアップストアやバーチャルショップ、アプリなど新しいコンタクトポイントも含めてオールウェイズ・オンでつながる世界が始まっています。より多角的・総合的なソリューションへのニーズに対し、電通グループ各社のケイパビリティを掛け合わせ、ワンチームで対応していきたいと考えています。
──具体的にどのような課題や悩みに対応ができそうでしょうか?
森:生活者の新しい価値観やスタイルに合わせて、いろいろなことを再構築しなければならない領域なので、その意味では「買い物」や「購買」というテーマで新しいことにチャレンジしたい企業、何かしらの課題をお持ちの企業は、気軽にお声がけいただければと思います。
安田:例えばEC以外の新たなショッピングサービスを考えたい、今ある店舗の形を大きく見直したい、新しい購買体験を模索したい、といったゼロベースのご相談からお手伝いできればと考えています。
神志名:戦略から実装・運用までのフルサービスだけでなく、目の前の小さな課題解決から始めるスモールスタートもご提案できますので、ぜひ一度ご相談いただけるとうれしいです。
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