こんにちは、コピーライターの橋口幸生です。
「100案思考」という本を発売しました。コピーライターの思考法を、全てのビジネスパーソンに向けて解説したものです。
「100案思考 『書けない』『思いつかない』『通らない』がなくなる」
橋口幸生著、マガジンハウス刊、256ページ、1650円(税込)ISBN:9784838731497
アイデアは質より量。ダメなアイデア、ありがちなアイデア大歓迎。とにかく100案出せば、良いアイデアのひとつやふたつは、その中に必ず入っているものです。
才能やセンスはもちろん、特別な道具や準備も要りません(詳しいことは、この連載の過去回をご覧ください。この記事の最後にも各回へのリンクを貼っています)。
“アイデア出し”の重要性は、ビジネスパーソンであれば誰もが理解していると思います。しかし、“アイデア選び”の重要性については、意外と見落とされがちです。好き嫌いやアイデアの長所・短所、多数決などで、なんとなく選んでいることが多いのではないでしょうか。
こうした方法では、決して良いアイデアを選ぶことはできません。
この記事では、
"ずらりと並んだアイデアの中から、良いものを確実に選ぶ方法"
を紹介します。
「好き嫌い」「長所・短所」「多数決」で選んではいけない理由
先述しましたが、多くの場合、アイデアは選ぶ人の「好き嫌い」や、アイデアの「長所・短所」、あるいはその場にいる人間の「多数決」で、なんとなく選ばれています。これらは全て、絶対にやってはいけない悪手です。
×好き嫌いで選ぶ
あなたが好きなものが、世の中一般でも好かれているとは限りません。
×長所・短所で選ぶ
アイデアの長所・短所をエクセルで整理する人は多いと思います。しかし、最高のアイデアにも短所があり、最低のアイデアにも長所があるのです。特に大人数の会議で長所・短所の話をするのは最悪です。アラ探し大会になり、長所・短所も何もない、なんの特徴もないアイデアが選ばれることになります。
×多数決で選ぶ
多数決も同じです。全てのアイデアの出発点は、個人の意志です。意志が強ければ強いほど、多数決では選ばれにくくなります。多数決で選ばれるのは、「良いアイデア」ではなく、「反対されないアイデア」なのです(ヒット広告を連発している、とある広告主は、多数決で全員がOKした案はボツにするのだそうです)。
それでは、何で選べばいいのか?僕の場合は、次の2つの基準です。
良いコピーを選ぶ、2つの「基準」
実は僕も、若手のころはコピーを好き嫌いで見ていました。自分の好みではないコピーが評価されるのを見て、
「これのどこがいいんだろう?自分の方がずっと良いコピーを書けるのに!」
と、ふてくされていたのです(典型的なダメな若手ですね……)。
そんな悶々とした日々を過ごしていたとき、先輩コピーライターがこんな「基準」を教えてくれました。
「いいコピーには、必ず“共感”か、“発見”がある」
本当でしょうか?過去の名作コピーを例に、見てみましょう。
- ・「想像力と数百円」(新潮文庫)→発見
- ・「恋は、遠い日の花火ではない。OLD is NEW」(サントリーニューオールド)→共感
- ・「四十才は二度目のハタチ。」(伊勢丹)→発見
- ・「Just do it.」(NIKE)→共感
人によって好き嫌いはあると思いますが、どのコピーにも「共感」か「発見」があることが、分かると思います。広告コピーに興味がある方は、「コピー年鑑」などを見てみてください。ほとんどのコピーが、このどちらかに当てはまるはずです。
ここで重要なのは、アイデアを「明確な基準を持って選ぶ」ということです。「共感」「発見」は、あくまでも「良い広告コピーを選ぶ基準」の一例です。
チップ・ハースとダン・ハースの共著「アイデアのちから」では、記憶に残りやすいアイデアの特徴として、次の6項目を挙げています。
- 「単純明快である」
- 「意外性がある」
- 「具体性がある」
- 「信頼性がある」
- 「感情に訴える」
- 「物語性がある」
あなたもぜひ、自分なりの「基準」を見つけてください。
そのためには、良いアイデアにたくさん触れて、目を養わなくてはいけません。
「良いと評価されたアイデア」を研究し、目を養おう
美術品を鑑定する人気のテレビ番組があります。素人目にはガラクタにしか見えない玩具に何百万円もの値がついたり、逆に、名品に見える掛け軸が二束三文の土産品だったり。そのギャップにいつも驚かされます。
番組に登場する鑑定士が言うには、価値を見抜けるようになるには、とにかく「本物を見まくる」しかないようです。そうすれば、おのずと「その美術品のどこを見れば本物か偽物か分かるようになる」と。
アイデアも同じです。100案の中から、最高の1案を選び抜く目を養うために、「良いアイデア」を、浴びるように見まくる習慣をつけてください。
大切なのは、「あなたが好きなアイデア」ではなく、「良いと評価されたアイデア」を見ることです。ヒット商品、広告賞受賞作、著名クリエイターが評価していたものなどを。自分の目を養うことが目的なので、「自分より優れた人の目が認めたもの」を見ることが大切です。
そして、そのアイデアがなぜ「良い」と評価されているのかを、考えるようにしてください。メモを取るなど、言語化するのもいいでしょう。
この作業を繰り返すことで、良いと評価されるアイデアの共通点が見えてきます。これがすなわち、「基準」です。これによって、好き嫌いではなく、あなたなりの「基準」でアイデアを見ることができるようになります。
この記事は、全4回の連載のうちの最終回です。バックナンバーは下記です。
アイデアとは、クリエイターだけのものではありません。
あなたがメーカーで働いていたら、新商品や新機能のアイデアを考える必要があります。接客業であれば、どうすればお客さまに満足していただけるか、アイデアが要ります。子育て中であれば、子どもに野菜を残さず食べさせるためのアイデアを練る必要があるかもしれません。
そう、全ての仕事に必要なのは、アイデアを出すことなのです。
この連載が、あなたの仕事や人生がアイデアによって豊かになるきっかけになればいいと思っています。興味が湧いたら、ぜひ拙著「100案思考」も手に取ってみてください。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
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