これからの企業に求められる「価値づくり」広報とは何かを紹介する本連載。 第2回では、今や投資家だけでなく一般生活者も注視しているソーシャルバリュー(社会価値)を創出する方法やその重要性を解説しました。
【図表1】社会価値の概念図
今回は、企業広報戦略研究所(略称C.S.I./電通PR内)の「魅力度ブランディング調査(※1)」から以下の2つの分析結果を紹介します。
- ・コーポレートブランドに寄与する企業のファクト
- ・生活者の抱く企業イメージと相関する企業のファクト
※1=魅力度ブランディング調査
生活者1万人を対象に、20業界200社の企業の魅力を分析
ステークホルダーが共感する課題(図表1「社会課題」)に対して、「自社ができる取り組みとは何か」「自社のどのようなファクトに生活者が魅力を感じ、企業の価値となるのか」そして「それらは生活者の抱く企業イメージの形成に寄与するのか」(図表1「企業のファクト」)を考えます。
企業イメージ形成に最も寄与するファクトは、人的魅力の一つ「ビジョンを掲げ、業界を牽引」
当研究所では企業ブランディングに寄与するファクトについて研究しています。提唱している「魅力度ブランディングモデル」は、コーポレートブランドを構成する魅力を「人的魅力」「財務的魅力」「商品的魅力」の3つに分類したものです。さらに各魅力で重視すべき項目として各12項目ずつ、計36項目のファクトを設定。これは、企業の価値を測定する着眼点を、“魅力”に置いた指標です。【図表2】。
【図表2】魅力度ブランディングモデル
【3魅力の定義】
人的魅力
リーダーシップや職場風土、ソーシャルイシュー対応力など、企業を構成する「個人」や事業活動を通じて周囲に感じさせる「法人」としての魅力
財務的魅力
成長戦略、安定性・(中・長期的な)収益性、リスク&ガバナンス対応など、優れた財務パフォーマンスと、それらを支える仕組みや取り組みに関する魅力
商品的魅力
コストパフォーマンス、安全性・アフターサービス力・クレーム対応、独創性・革新性など、商品・サービスを通じて伝わる魅力
2020年の「第5回魅力度ブランディング調査」では、「人的」「財務的」「商品的」の3つの魅力のうち最も多く「魅力」と捉えられたのは、「人的魅力」でした【図表3】。「人的魅力」は5年連続1位です。
【図表3】3つの魅力の構成比
さらに、具体的に3つの魅力の内訳を見ると、上位5項目のうち4項目が「人的魅力」に属しており、企業の魅力は人的魅力が大きく関与していることが分かります【図表4】。順位は、昨年と同様ですが、よりその割合は増しており、「人的魅力」が企業の魅力として認知される傾向がさらに高まっている様子がうかがえます。
【図表4】魅力項目ランキング 全36項目中上位5項目
コーポレートブランドを形成する6因子が、すべて「人的魅力」に相関
これまでのコミュニケーションは、話題づくりで企業のブランドを醸成してきました。しかし、生活者自身がSNS等を通じてなんでも発信できるようになるなどの情報流通構造の変化により、昨今はマスメディアを通じたイメージ戦略や、一過性の話題づくりだけでは生活者の心をつかむのが困難となり、自社が持つ「ファクト」をベースに企業の魅力を伝えていく活動が重要になってきています。
一方、企業のブランディングは、さまざまなコミュニケーション活動を通じて企業のブランドが生活者に届いて初めて成立するもの。企業がステークホルダーに思われたい「ありたき姿」や、それに近づくために企業が有している「ファクト」があるだけでは成立しません【図表5】。
つまり、企業の「ありたき姿」と、現在生活者が抱いている各企業に対するイメージとのギャップを把握し、さらにそのギャップを自社が持っている「ファクト」で埋められるのか、埋められないならどのようなアクションを起こすべきなのかを考えることが重要です。
【図表5】
そこで、魅力度ブランディング調査では各企業のブランドの印象についても聴取し、どのようなキーワードが、ブランドを構成する因子として構成されているかを検証しています。その結果、「挑戦」「信頼」「個性」「親和」「環境」「研究」の6つの因子に分けることができました。
6つの因子のどれが、先述の魅力度の項目にどのように相関しているかを分析したのが、【図表6】です。
【図表6】
6つの企業イメージ因子に対して、36項目のファクトがどの程度関係しているのかを「重回帰分析」という分析方法で数値化したもの。オレンジ色の箇所が特に関係性が深いことが分かりました。
その結果、成長力や革新性、柔軟さなどをイメージ項目に含む「挑戦」因子は、人的魅力の「チャレンジスピリットにあふれたリーダー・経営者」や財務的魅力の「中・長期的な経営計画」、商品的魅力の「高い技術力・ノウハウに基づく商品・サービスの提供」のファクトと相関があることが分かりました。
また、センスやコンセプト、信念などのイメージ項目を含む「個性」因子と強く相関するのは、「熱心なファンが多い商品・サービスを提供」といった商品的魅力だけでなく、「イノベーションにこだわる経営」や「こだわりをもった社員が品質向上にチャレンジ」といった人的魅力のファクトも多く寄与していることが特徴的です。
つまり、たとえば生活者に抱いてもらいたい自社の企業イメージを「チャレンジングでユニークな企業」としたい場合、リーダーシップを発揮して業界を牽引したり、自社の商品やサービスのファンづくりをしたりといったファクトを育て、生活者に伝えていくことが重要、と捉えることができます。
さらに、そのほかの因子を見ても、「信頼」に寄与するファクトは、「ビジョンを掲げ、業界を牽引」「まじめで、信頼できる社員」など人的魅力の項目が関連しており、商品的魅力だけでなく、すべての因子で人的魅力と結びついていることが見て取れます。
これらの結果から、特にコーポレートブランディング視点で魅力ある企業として選ばれるためには、企業活動として提供する商品・サービスの魅力を訴求することはもちろん、その企業で働く人やトップといった「法人」としての魅力もコーポレートブランドを左右する大事なファクトであることが分かりました。従って、このような自社のファクトを洗い出し、丁寧に訴求していくことで、ファクトの伴わないイメージ先行ではなく、実体に近いコーポレートブランドが醸成され、自社の「ありたき姿」に近づいていくと考えられます。
当研究所が2020年12月に発行した『新・戦略思考の広報マネジメント』第8章では一橋大学大学院経営管理研究科特任教授 伊藤邦雄先生にもインタビューをしていますが、伊藤先生も「価値創造経営」の中で人的資本の重要性(対話の重要性)について提言されています。
【図表1】社会価値の概念図(再掲)
今回は、社会価値を生み出す「企業のファクト」について解説しましたが、さらに、これからの企業が提供する製品・サービスの価値には、社会課題を解決する社会価値も内包しなければなりません。
次回は、この社会課題を解決する企業の「価値創造」、つまり「価値づくり」広報の戦略立案の手法を紹介します。
【調査概要】
■第5回 魅力度ブランディング調査
調査対象:全国の20~69歳の男女 計10,000人
調査方法・期間:インターネット調査・2020年6月24~30日
設問内容:魅力に感じる企業、企業のイメージ、魅力に感じるファクト、ファクトの情報経路、魅力を感じた結果の行動
※本調査では小数点第2位以下を四捨五入しています。
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