先日、電通は「エシカル消費 意識調査2020」(以降、本調査)の結果を発表しました(リリースはこちら)。本調査の結果を踏まえ、これから企業や社会が「エシカル消費」に取り組んでいく意義や方法について連載形式で説明していきます。初回は、エシカル消費とは何かを伝えつつ、本調査を行った背景と結果について紹介します。
なぜ、いま「エシカル消費」を調査したのか
本調査では、エシカル消費を、「消費者それぞれが社会的課題の解決を考えたり、社会的課題に取り組む事業者を支援するなどして、消費活動を行うこと」と定義しています。ちなみに「エシカル(ethical)」とは、「倫理的な」という意味を持つ形容詞です。私たちの生活に欠かせない消費という行動は、最も身近なエシカルにつながる行為の一つと言えます。
例えば、フェアトレードのオーガニックのチョコレートを買うこと。
なぜフェアトレードやオーガニックが良いのでしょう?それは、チョコレートの背景に存在する生産者の労働環境や生産地などを考慮した上での選択だからです。
みなさんが手にするそのチョコレートには、カカオ豆を育て、それをチョコレートに加工し、届けるまでのストーリーがあります。その過程で、カカオ豆を育てる土壌や周辺環境の未来が守られているか、製造者と販売者の間で価格上平等な取り引きがされているか……。こういった想像は、私たちが単なる消費者ではなく、知らないうちに環境破壊や労働搾取に加担していないか、という視点から生まれます。
商品やサービスの背景にあるそのようなストーリーを知る、その上で自ら消費するものを選ぶ、それがエシカル消費です。
近年、世界の緊急課題と言われている①貧困②人権③気候変動の解決、またSDGsという共通目標の達成に大きく影響することから、エシカル消費への注目が高まっています。
一方で、CSVや本業でのSDGs 推進を担う企業からは以下のような声を多く耳にしました。
某化粧品クライアント:再生可能容器への切り替えに伴う値上げによりユーザーが離れてしまうのではないか
某衣料品クライアント:エコ商品が求められているということが分かるデータはないか
このように、実際の取り組みに際してハードルを感じている企業が多く存在していました。そこで、消費者のインサイトを考察し、企業にとってのプロダクトおよびコミュニケーション開発の示唆となるファクトを提供できないか、と考え本調査を実施しました。ゆえに、エシカル消費の認知度や共感度だけでなく、エシカルな取り組みに対する消費者の実感値と期待値を中心に、産業ごとの視点と考察にフォーカスをしています。
コロナ禍により、エシカル消費の意識が高まっている
ここからは、本調査の結果をエシカル協会の代表理事である末吉里花さんからのコメントと合わせて見ていきます。
末吉さんは、「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターでの経験をきっかけに、2010年からフェアトレード・コンシェルジュ講座(現エシカル・コンシェルジュ講座)の活動を始め、2015年に一般社団法人エシカル協会を立ち上げました。設立当初から継続的に、持続可能な世界の実現に向けたエシカルの普及活動を牽引されています。そんな日本におけるエシカルのパイオニア的存在である末吉さんより、本調査の結果をもとに、今日のエシカル消費の実態と展望についてコメントをいただきました。
今や4人に1人が「エシカル消費」の名称を知っている
調査結果では、エシカル消費について「意味を知っている」「名前は知っている/聞いたことがある」と答えた人は、全体で24%でした。この数字を多いと捉えるか少ないと捉えるか、意見が分かれるかもしれません。
末吉さんは、「社会が持続可能な方向に前進しているとポジティブに捉えたい調査結果です。私自身がエシカル協会を始めたのは2015年ですが、エシカル消費に対する認知の高まりや行動変容は、そのころとは比較になりません」と述べました。国連でSDGsが策定され、エシカル協会が設立された2015年。この結果からは、エシカルの日本における着実な広がりと今後のさらなる広がりが見えてきます。
コロナ禍で約3割の人がエシカル消費を以前よりも意識するように
調査では、新型コロナウイルス対策の自粛期間を経ての、エシカル消費への意識についても尋ねました。
末吉さんは、「 私たちのあり方に大きな課題と挑戦を突きつけているコロナ禍で、エシカル消費への意識が高まった方々が30.9%もいることには、前向きな変容の機会になっているのだと勇気づけられます」とコメント。
調査を行った2020年末からも、消費者を取り巻く社会の状況は日々変化しており、エシカル消費への意識も今後ますます高まっていくことが予想されます。
自粛期間を経て、エシカル消費を実際に行動に移した人たちのアクションの中にエシカルの重要な本質が見つけられます。
末吉さんは、「『無駄な消費をしない』と答えた層が6.2%いたことにも注目したい。私たちは、エシカル消費というと『消費する』ことが前提になっていると考えがちですが、日本人になじみの深い『足るを知る』という言葉の通り、消費そのものが豊さや幸せにつながるとは限らないし、無駄な消費は環境負荷を高めることにもなります」と調査結果を分析。コロナ生活から1年以上が経って、このように「衣食住」の重要性に立ち返り、それを支える消費行動を見直す人はより増えていきそうです。
消費者はエシカルな商品に納得できる「価格」と「商品メリット」を求めている
エシカル消費を行うための条件についての質問では、エシカルな商品やサービスの購入に際して、「価格」「メリット」「関心事との関連性」についてしっかり説明があり、なおかつ納得ができるかを消費者は最も重視していることが分かりました。つまり商品・コミュニケーション開発の段階で、これらの消費者がクリアにしてほしいポイントを伝えることが大切になります。
末吉さんは、「どんな企業にとっても変容は簡単ではありませんが、この消費者の意識データは、企業が変わる後押しになるでしょう」と述べました。
今後の社会をエシカル視点で見てみよう
本調査の結果を振り返り、末吉さんはより先の社会を見据えています。「今後、Z世代以降の子どもたちがエシカル消費やSDGsの教育を受けていく中で、社会の意識はさらに加速することが予想されます。エシカル消費に特化した意識調査を継続的に行っていくことで、時代の大きな変容を目の当たりにすることができるでしょう」(末吉さん)
消費者からのエシカルな商品とサービスの需要は現状明確に存在しています。そして、そのニーズは今後さらに拡大、そして多様化、普遍化していくでしょう。変わり始めている消費者の意識に応えるだけでなく、企業の活動は、SDGsの達成、持続可能な社会の実現に大きく貢献します。
では、具体的に、どのように考え、選択、行動していくべきか。次回は「企業のビジネスチャンスはどこにあるのか?消費者が”買ってみたい”エシカル消費とは」と題し、より具体的に企業視点で調査の考察をしていきます。
【エシカル消費 意識調査2020の概要】
- ・対象エリア:日本全国
- ・対象者条件:10~70代の男女
- ・サンプル数:性年代別に各125人ずつ、計1,000人を人口構成比でウエイトバック集計
- ・調査手法:インターネット調査
- ・調査期間:2020年11月18日~11月25日
- ・調査機関:株式会社 電通マクロミルインサイト
- ※構成比(%)は小数点第2位以下を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。
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