電通メディアイノベーションラボは、「情報メディア白書2021」(ダイヤモンド社刊)を3月に刊行しました。
2020年は、私たちの日常生活や社会活動が新型コロナウイルスの影響を大きく受けた1年でした。情報メディア産業や人々のメディア接触行動も変化を余儀なくされました。この状況を受け、「情報メディア白書2021」では下記の特集を組んでいます。
■特集I:コロナ禍の情報メディア産業
・Part 1:コロナ禍における生活とメディア接触の変化
・Part 2:全記録 月表2020/2~12 コロナ禍と情報メディア各産業の動き
本連載ではPart 1のエッセンスを、データや図表と共に紹介します。第1回は、コロナ禍において人々の生活行動やメディア接触行動がどのように変化したかを見ていきたいと思います。
コロナ禍で在宅時間が大幅に増加
ここでは、MCR/ex調査(※1)の2020年上期・東京50km圏データを用いて、コロナ禍における生活行動とメディア接触行動の様子をひも解きます。
なお、調査が行われたのは2020年6月1~7日です。5月25日に緊急事態宣言が解除されたものの、新規感染者の急増により6月2日に東京アラートが発動されるなど、首都圏では外出抑制が呼びかけられていた時期に当たります。
※1=MCR/ex調査
ビデオリサーチ社が特定の1週間に行う日記式調査。生活者の行動を基本的な生活行動、メディア接触などの視点から、曜日別に時間軸に沿って最小15分単位で捕捉する。
図表1は、個人全体(12~69歳)について、1日(週平均)のうち起床在宅、睡眠、外出に充てられた時間を示しています。2019年と比べると、2020年では外出時間は2時間39分減り、代わりに起床在宅時間が2時間22分増えています。睡眠時間もやや増えていますが、これは特に若年層で特徴的に見られる傾向です。
【図表1】1日あたりの起床在宅・睡眠・外出時間(週平均/12~69歳)
出典:ビデオリサーチ社MCR/ex東京50km圏(2020年6月、2019年6月)を基に作成
テレビもネットも、ほとんどのメディアが利用を伸ばす
自宅で過ごす時間が増える中で、人々はどのようにメディアに接していたのでしょうか。図表2は、個人全体の1日当たりのメディア接触時間(週平均)を示しています。複数メディアへの同時接触の可能性はありますが、2020年の各メディアへの接触時間合計は2019年より1時間以上増え、延べ6時間10分です。
【図表2】1日あたりの自宅内メディア接触時間(週平均/12~69歳)
出典:ビデオリサーチ社MCR/ex東京50km圏(2020年6月、2019年6月)を基に作成
内訳を見ると、ほとんどのメディアへの接触時間が2019年より増えています。その中で特に目立つのは、赤枠で囲んだモバイル経由のネットやPC・タブレット経由のネットの利用時間ではないでしょうか。
コロナ禍以前も、インターネットの利用時間は「自宅内でのモバイル経由」が最も長かったのですが(※2)、その傾向は在宅時間が増えた2020年も同様で、モバイル経由のネット利用時間は飛躍的に増えています。
※2
インターネットの主戦場は、「自宅内」かつ「スマホ」参照
テレビはリアルタイムの視聴時間が増える一方、録画再生は微減傾向です。その要因のひとつは、やはり在宅時間の増加でしょう。
また、テレビ受像機でのネット動画視聴(テレビ動画)が8.6分と、前年の3.1分から2倍以上に伸びている点も注目に値します。ネット動画視聴の受け皿として、テレビ受像機の利用は確実に裾野を広げていると捉えられそうです。
自宅でのモバイルネット利用率の高さに注目!
それでは、一日の流れの中でメディアはどのように利用されているのでしょうか。図表3は朝5時から始まる24時間(週平均)における個人全体の起床在宅、睡眠、移動、外出の行動率と各メディアへの接触率(60分単位)の推移を表しています。
図の上部から下がる折れ線グラフは外出先でのメディア接触率ですが、2020年は正午ごろのモバイル経由ネット利用がやや目立つ程度です。2019年に比べ、日中にかけて黄色で示す起床在宅率の大きな谷がなくなり、多くの人が自宅にとどまっていた様子がうかがえます。
【図表3】生活行動率とメディア接触率(週平均/12~69歳)
出典:ビデオリサーチ社MCR/ex東京50km圏(2020年6月、2019年6月)を基に作成
一日を通して起床在宅率が高水準で推移する中、テレビは2020年も自宅におけるほぼ全ての時間帯で他メディア以上に利用されています。しかし2019年との比較において2020年に最も特徴的なのは、モバイル経由のネット接触率が日中を通して高い水準で推移し、夜にピークを迎えている点です。
際立つ高校生とモバイルネットの親和性
最後に高校生の一日(週平均)の様子を図表4で紹介します。調査が行われた2020年6月、リモート授業や休校措置により、高校生の日中の起床在宅率は6割を超えました。コロナ禍で生活様式が特に大きく変わった世代です。それに伴い、これまで見られなかったメディア接触行動が自宅内で起きています。
【図表4】生活行動率とメディア接触率(週平均/高校生)
出典:ビデオリサーチ社MCR/ex東京50km圏(2020年6月、2019年6月)を基に作成
例えば正午にこれまでなかったテレビ視聴の山が新たに出現しており、昼食時にテレビを見ることが生活行動の一環になっている様子が見てとれます。
一方、モバイル経由のネット接触率が一日を通して高く、極めて特徴的です。もともとモバイルネットとの親和性が高い高校生ですが、2020年はすべての時間帯において、テレビと同等もしくは上回る水準でモバイルネットに接触しています。
なお、ネット接触にはウェブ閲覧の他、ネット動画、SNS、メールが含まれます。コロナ禍において在宅時間が増える中、最も身近なモバイル端末を用いてネットに接している様子がうかがえます。
このことから、メディア接触に充てられる時間が増えれば、情報やエンターテインメントに対するニーズを満たすため、モバイルなど各自に最適なスタイルでのメディア利用が従来トレンドを超える勢いで促進されることが分かります。
コロナ禍による生活様式の変化は、図らずも情報メディアに対するニーズを浮き彫りにしました。次回は、コロナ禍という特殊な状況を踏まえつつ、今後のメディアとオーディエンスの関係性について考えます。
【調査概要】
調査名:MCR/ex(エム シー アール エクス)
実施時期:毎年6、12月
調査手法:電子調査票による調査
調査エリア:東京50km圏、関西地区、名古屋地区、北部九州地区、札幌地区、仙台地区、広島地区
調査対象者:男女12~69歳の個人(エリア・ランダム・サンプリング)
調査会社:ビデオリサーチ
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