前回のコラムでは、やがて生活者の関心事となるような兆しやインサイトを、ソーシャルメディア上で“捕獲”するソーシャルハンティングについて、その「7つの鬱憤」を紹介しました。
ソーシャルハンティングは、企業やブランドが取り組むべきイシューを発見するための新たな手法です。では、イシューを見つけたとき、解決のためのアイデアをどう生み出すのか?今回はアイデアのヒントとなる8つのアプローチを紹介します。
なお、イシューという言葉について。一般には、社会的環境や政治的背景などに紐付く大きな課題を指すことも多いのですが、本コラムでは、前回に続き「個々人の不具合を感じる生活者視点の課題」と定義します。
誰のどのような意識・行動を伴うイシューなのか、具体的に設定する
アイデアを考える前に、まずはイシューを「世の中に起こっている(または起こり得る)“事象”」と、「それに伴う生活者の“意識”や“行動”」の組み合わせとして、具体的に整理するのがポイントです。
例えば、「マスクの熱中症」に着目した場合、より具体化して「小学生が、真夏日の通学時もマスクを着けたまま長時間歩くことで、熱中症になる危険が高い問題」と設定してみましょう。そうすることで、「通学時の熱中症」という事象がどう変化し、誰の意識や行動が変わっていくとよいのか、考えやすくなります。
イシューをアイデアに変換する8つのアプローチ
では、本題の8つのアプローチ「CORE IDEA」を紹介します。過去にあったイシュー起点のコミュニケーションを大きく8つのアプローチとして分類し、それぞれの頭文字をつなげたものです。
C Clarify(可視化する)
O Open(開放する)
R Replace(置換する)
E Expand(拡張する)
I Invert(逆転する)
D Disagree(対立する)
E Entrust(代弁する)
A Align(協調する)
Clarify(可視化する)
“可視化”は目に見えないものを分かりやすくすること。数字やデータで表現したり、擬人化・疑似体験化したりといったアプローチです。
例えば、クラフトビール会社・ヤッホーブルーイングは、「飲み会で、会社の上司が飲み会で“先輩風”を吹かせ、会話を占有してしまう」というイシューに対し、先輩風を「扇風機付きの椅子」としてリアルに“可視化”させることで、ユニークに啓発するというアクションを行いました。
Open(開放する)
オープンという言葉の通り、前例やルールなどの制限を取り払って“開放”したり、これまでブランドや企業が秘密にしていたことを“公開”したり、ノウハウを“オープンソース化”するといったアプローチです。
例えば、コロナ禍の外出自粛で「飲食店に行って、人気メニューを食べたいけれど、今は外出できない」というイシューに対し、飲食店が家でも作れるように「秘密のレシピ」をソーシャルメディアで“公開”。お店のファンから好意的な反響が多く寄せられるといった事例がありました。
Replace(置換する)
従来の方法を一部だけ“入れ替え”たり、言葉を“組み替え”たりするアプローチです。アクションを考えていく過程で「伝わりづらい」懸念があった場合、Who(誰が)、What(何を)、When(いつ)、Where(どこで)、How(どのように)の1点をどこか“ズラして”みると、新たな視点が生まれることがあります。
例えば、「オンライン結婚式」や「オンライン帰省」なども、これまでのリアルをオンラインに“入れ替え”たアプローチのひとつといえます。
Expand(拡張する)
言葉としては“拡張”ですが、ここでは逆の“縮小”も含めて、Expandとします。スケールを変えるという視点で、大きさ・長さを半分にしたら、倍にしたら……と考えてみるとよいかもしれません。
例えば、日本花き振興協議会は、2020年の「母の日」を、「母の月」へと“拡張”し、「5月の1カ月間を通じて、感謝の気持ちを伝えよう」と呼びかけました。これは、コロナ禍における「生花店の店頭もお客さまで混み合い、遠方に住むお母様に贈るため宅配便での受注も多いため、配送業者も多忙を極める状況」(プレスリリース参照)というイシューに対する取り組みでした。
Invert(逆転する)
先述の「Replace(置換する)」と重なる部分もありますが、本来ネガティブなことをポジティブな意味に“真逆”にしたり、立場を“逆転”させたり、これまでの慣習に“逆行”したりするアプローチです。
例えば、海外の海洋環境保護団体が、北太平洋に浮遊する海洋ごみを「Trash Isles」(ごみ諸島)として、公式の国家として認めるよう国連に申請しました。ごみを「国」へ、概念を“真逆”に変えることで、海洋ごみ問題の深刻さに気づかせました。
Disagree(対立する)
シンプルにいうと“対立構造”をつくることです。それにより、生活者が立場を表明しやすくなったり、議論や賛否を巻き起こしたり、あえて“仲たがい”することで、自社やブランドの立場を際立たせるアプローチです。対立構造といっても、対立する相手は競合他社だけではありません。
例えば、食品メーカーが自社の商品同士でフレーバーや商品を競わせるアイデアも、このアプローチといえます。
Entrust(代弁する)
ブランドや企業が意思表明し、人に寄り添って気持ちを“代弁”していく、強い者に“立ち向かう”、困っている人を“支援”するといったアプローチです。
例えば、新聞広告で企業やブランドがスタンスを表明し、それに対して生活者が賛同したり、ソーシャルメディアで議論が巻き起こったり。ここで注意したいのは、“代弁”といっても「言いっぱなし」で終わらず、企業の行動が伴っていること。代弁するだけでは解決できないイシューに対しては、実体を伴ったアクションもセットで考えるとよいでしょう。
Align(協調する)
Allianceの動詞形がAlign。業種の異なる企業やライバル企業が、イシューを解決するために“協調”したり、“仲間”となったりするアプローチです。最近では、競合同士のコラボレーションや、業種を超えた取り組みも増えています。
例えば、コロナ禍で休業中の飲食店の従業員をデリバリー会社が臨時雇用する“協業”の取り組みや、環境負荷を減らすパッケージをライバル企業が“共同”開発するといった動きも出てきています。
ここ最近目立つアプローチは?
最近では、「Open(開放する)」「Entrust(代弁する)」「Align(協調する)」のアプローチが目立っている印象です。この3つの視点は、大きく捉えると、分断が加速する社会において、企業やブランドが生活者に寄り添い、パートナーとして一緒に解決を目指していく取り組みともいえます。
今回、8つのアプローチを紹介しましたが、この型にはめることがゴールではありません。アイデアを生み出すには多様なアプローチがあり、この「CORE IDEA」も、そのひとつの視点です。さまざまな角度からイシューを捉えることが、課題を突破するアイデアにつながるのではないでしょうか。
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