2月25日、「2020年 日本の広告費」が発表されました。マスコミ4媒体、インターネット、プロモーションメディアの各広告市場の変化について、電通メディアイノベーション研究部の北原利行が解説します。
「2020年 日本の広告費」の概要──全体的に減少する中、インターネットは増加
2020年(1~12月)における日本の総広告費は、6兆1594億円でした。
2011年の東日本大震災以来、8年連続で成長を続けてきましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、9年ぶりのマイナス成長となりました。前年比88.8%と、その下げ幅はリーマンショックの影響があった2009年(前年比88.5%)に次ぐ数字です。
日本の広告費は大きく
- ・「マスコミ4媒体広告費」
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- ・「インターネット広告費」
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- ・「プロモーションメディア広告費」
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に分類しています。
総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ4媒体が36.6%、インターネットが36.2%、プロモーションメディアが27.2%です。
広告費はマスコミ4媒体が前年比86.4%、プロモーションメディアが前年比75.4%と減少した一方、インターネットは前年比105.9%で増加となっています。
●マスコミ4媒体広告費──6年連続の減少
新聞、雑誌、テレビ、ラジオのマスコミ4媒体広告費は、前年比86.4%の2兆2536億円でした。
内訳は、新聞が前年比81.1%、雑誌が73.0%、ラジオが84.6%、地上波と衛星メディア関連を合わせたテレビメディアが89.0%と、すべて前年割れ。6年連続の減少となりました。
●インターネット広告費──マスコミ4媒体全体とほぼ並ぶ
インターネット広告費(媒体費+「物販系ECプラットフォーム広告費」+広告制作費)は、前年比105.9%の2兆2290億円と、1996年の推定開始以来、一貫した成長を続けています。2020年はついにマスコミ4媒体の2兆2536億円にほぼ匹敵する、2.2兆円規模の市場となりました。
●プロモーションメディア広告費──外出・移動の自粛が大きく影響
前年比75.4%の1兆6768億円です。各種イベントや従来型の広告販促キャンペーンの延期・中止に加え、外出・移動の自粛も影響しました。特に「イベント・展示・映像ほか」「折込」などが大幅に減少しています。
9年ぶりのマイナス成長の中でも増加を見せた業種とは?
2020年は、各種イベントや広告販促キャンペーンの中止・延期、レジャーの自粛などのため、広告出稿が通年で大幅に減少しました。
しかし、マスコミ4媒体費の四半期ごとの伸び率の推移を見ると、1回目の緊急事態宣言が発出された4-6月期で大きな落ち込みをみせたものの、その後は全体に回復基調を見せています。
また、外出自粛による生活様式の変化から、増加の見られる業種もありました。
●マスコミ4媒体広告費<新聞広告費>
業種別で見ると、「交通・レジャー」広告が前年比51.1%と大幅に減少。特に旅行会社や芸能・芸術・文化施設、各新聞社のイベント告知が、大きく減少しました。
一方で、ウェビナー、リモートワーク関連、オンラインショップ(EC関連)などの出稿増加により、「情報・通信」が前年比107.9%で伸長しています。
●マスコミ4媒体広告費<雑誌広告費>
広告宣伝費の落ち込みやデジタルシフトの加速もあり、厳しい状況が続きました。業種別では、構成比の大きい「ファッション・アクセサリー」「化粧品・トイレタリー」が大幅減となっています。一方、巣ごもり需要の影響で「家電・AV機器」が増加しました。
●マスコミ4媒体広告費<ラジオ広告費>
ラジオでも、各種イベント告知、「交通・レジャー」「流通・小売業」などの出稿が減少し、通年で大幅に減少しました。一方、巣ごもり需要により「家電・AV機器」などの出稿に増加が見られたのは雑誌広告と同様です。
●マスコミ4媒体広告費<テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛星メディア関連)>
予定されていた各種大型スポーツイベントの開催延期や中止、広告宣伝費の縮小により、減少しています。しかし10-12月期には経済活動の再開傾向が見られ、特に「情報・通信」「自動車・関連品」の広告費が復調しました。
●プロモーションメディア広告費<屋外広告、交通広告、折込>
緊急事態宣言後、店舗の営業時間の短縮や催事・イベントの中止、各種交通機関の利用者減少により、全体の広告収入は大きく減少しました。
ただ、新しい生活様式に合わせて、デジタル時代への最適化が加速する傾向も見られました。屋外広告では、渋谷に飲料メーカー専用のビジョンが新設された他、位置情報データを活用しインプレッション数でセールスする媒体社が本格稼働し、屋外ビジョン広告の下支えに貢献しました。昨年の注目ポイントに挙げたタクシービジョンの売り上げも、一時的には減少しましたが、インプレッション課金の導入によりキャンセルではなく減額出稿となり、下支えに寄与しました。
●プロモーションメディア広告費<DM(ダイレクト・メール)>
4月の緊急事態宣言でDM実施予定案件の延期、中止が相次ぎ、一時非常に厳しい状況に陥ったものの、デジタル施策との併用が進み、7月以降は回復傾向が見られました。
●プロモーションメディア広告費<フリーペーパー(フリーペーパー、フリーマガジン、電話帳の総称)>
通年を通して減少傾向にあり、休廃刊も見られたものの、各戸に直接配布するポスティングタイプは配布部数が比較的堅調でした。非常事態下において、「地域密着メディア」としての根強い力が見受けられました。
●プロモーションメディア広告費<POP>
積極的な店頭集客キャンペーンができないため、大きく減少しました。一方で、実演販売や接客の代わりに小型モニターPOPの設置や、店頭でのデジタルサイネージを活用したリモート接客が活用されるようになりました。
●プロモーションメディア広告費<イベント・展示・映像ほか>
「東京2020オリンピック・パラリンピック」をはじめ、プライベートショーやマラソン大会などで開催方法の変更や中止・延期がありました。しかし、少しずつオンライン開催が定着していき、10-12月期には増加傾向となっています。
映像関連は動画配信、リモート制作、最新テクロジーの活用など、新たな需要が生じました。リアルイベントの代わりにオンラインイベントが急増し、今まで距離や時間がネックとなり参加できなかった人たちにとって利便性が向上しました。一方で、皆で集まって盛り上がることに価値を置く種類のイベントは、今後ワクチンの接種が進む中で元に戻っていくことも考えられます。
シネアドは大幅な減少を見せたものの、日本の興行収入記録を更新した邦画アニメが登場し、数多くの広告主を得ました。
インターネット広告は早めの回復基調で、コロナ禍でもプラス成長
インターネット広告も、新型コロナウイルス感染症による消費の低迷と広告出稿減少の影響を受けましたが、他メディアよりも早く回復基調となり、通年では前年比105.9%と、唯一プラスになっています。
インターネット広告媒体費1兆7567億円(前年比105.6%)のうち、運用型広告費は1兆4558億円(前年比109.7%)。
昨年も注目ポイントに挙げたマスコミ4媒体由来のデジタル広告も、運用型広告の活用を中心に、さらに進みました。マスコミ4媒体由来のデジタル広告費は803億円(前年比112.3%)と、前年に引き続き二桁成長です。
●新聞デジタル──不安な世情の中、新聞電子版の信頼性が見直される
新聞デジタルは、堅調な成長トレンドが続いています。4-6月期は予約型広告出稿が減少したものの、サイトPV数が増加した結果、運用型広告による売り上げも増加しました。新聞本紙を基盤とするコンテンツ(記事)の信頼性によるものと考えられます。
●雑誌デジタル──巣ごもり需要で電子雑誌が大幅に伸長
4-6月期から、出版各社主要ウェブメディアのPV数が大きく増加。特に電子雑誌は、コミック誌を中心に大幅な伸長を見せました。ウェビナー企画やオンラインイベント、広告主サイトのコンテンツ制作、SNS活用、動画制作、配信企画などが広告モデルとして引き続き成長しています。
●ラジオデジタル──ラジオの運用型広告に注目
外出自粛や、リモートワークの普及により「radiko」の聴取率が伸びたことでラジオデジタルの運用型広告への注目が集まりました。また、従来型のイベントが減った一方で、ラジオとオンラインイベント、ラジオとSNSを掛け合わせた施策が増え、それに伴う出稿が増える結果となっています。
●テレビメディアデジタル──「TVer」のユーザー数が大幅に増加
テレビメディアデジタルのうち、「テレビメディア関連動画広告」は170億円(前年比113.3%)と、前年に続いて伸長。なかでも「TVer(ティーバー)」は地上波テレビ放送由来のコンテンツ力を背景にユーザー数を大きく伸ばしており、テレビ受像機での利用も伸びてきたことがテレビメディア関連動画広告に寄与しました。
2020年は、危機的な状況の中でDX(Digital Transformation|デジタルトランスフォーメーション)が劇的に加速し、“今後10年かけてこうなっていくだろう”と思われていた世界観が一気に実現されました。
そんな中で見えてきたのが、メディアの価値の再構築・再定義です。例えば、減少はしたものの下がり方が緩やかだったDMは、デジタルだけでは伝えきれない情報を届ける役割を担っています。
そもそもテレビ広告などの従来のマスメディア広告はインターネット広告とは性格が違う側面があります。例えば、長期的記憶に基づくようなブランド構築のための広告は、リーチの広さやメディアの信頼性からテレビや新聞などの強みがまだまだあります。
また、インターネット広告は個人や小規模事業者も多く出稿しており、その使い方もプロモーションメディア系の手法に近いものも多くあります。ですので、同等に比較するというのではなくて、それぞれの強みをいかに組み合わせ使いこなしていくかという考え方が必要となります。
この辺りについては、昨年の「日本の広告費」特別対談が参考になるかと思います。
「2019年 日本の広告費」特別対談 今、マスメディア広告の成長に必要なものは?
DXとは必ずしも「全てがデジタルになる」という意味ではなく、デジタルの力で紙媒体も含めたメディア全体の構造をつくり直し、それぞれの強みを相乗的に生かすもの、という捉え方ができるでしょう。
コロナ禍という有事に、「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」が伸長したのは、新聞やテレビといったメディアへの“信頼性”の表れだろうと思います。メディアのさまざまな価値や役割があらためて再認識された1年だったといえます。
「2020年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。