2020年11月、電通はUI/UX領域のリーディングカンパニーであるグッドパッチと協業し、UXを起点としたサービスデザインと、事業成長に向けたマーケティング戦略を一気通貫で提供する「X Design Partner」をスタートしました。
連載第1回ではグッドパッチ社長・土屋尚史氏に、ビジネスにおけるUXの本質的な役割や、事業を成功に導くためのポイントをお聞きしました。
今回は、X Design Partner立ち上げの背景にも関わる、企業がUXを軸にビジネスをグロースさせる上で乗り越えなければならない課題と、その解決策に迫ります。
このプロジェクトを担うグッドパッチ執行役員の松岡毅氏、UX Design Leadの野田克樹氏に、電通クリエイティブ・ストラテジストの筧将英がインタビューしました。
【グッドパッチとは?】
デザインの力でビジネスを前進させるグローバルデザインカンパニー。新規事業の立ち上げ、既存事業のリニューアル、企業のデザイン戦略立案、デザイン組織構築支援などを行い、大企業からスタートアップまで企業が持つビジネス課題をデザインで解決する。プロトタイピングツール「Prott」、デザイナー特化型キャリア支援サービス「ReDesigner」、フルリモートデザイン組織「Goodpatch Anywhere」などを展開。2020年6月、デザイン会社として初の東証マザーズ上場。
【電通とグッドパッチ】
2020年11月に共同プロジェクト「X Design Partner」を開始。デジタル領域の新事業・プロダクト開発において、顧客の体験価値を起点としたサービスデザインと、事業成長に向けたマーケティング戦略を、両社の強みを掛け合わせて一気通貫で提供する。(詳しくは広報リリースを参照)
「プロダクト・サービス開発」と「広告/グロース」の分断が大きな企業課題
筧:X Design Partnerは、デジタル領域の新事業・プロダクト開発において、グッドパッチが得意とする顧客の体験価値を起点としたサービスデザインと、電通の強みである事業成長に向けたマーケティング戦略を掛け合わせて一気通貫で提供するプロジェクトです。
この取り組みが誕生した背景にある、グッドパッチが感じていたビジネス課題について、改めてお話いただけますでしょうか?
松岡:今、多くの企業で「プロダクト・サービス開発」と「広告/グロース」が別々に検討されており、さまざまな“分断”が起きています。
具体的には、「ターゲット/ペルソナの分断」「コアバリューとメッセージの分断」「投資計画の分断」です。その結果、サービス開発で設計したペルソナが広告活動のフェーズで変わってしまったり、発信するメッセージにズレが生じたり、そもそも開発予算と広告予算が分かれているので最適な投資計画が設計できないといった点に課題を感じていました。
筧:まさしく、私も同じ課題意識を持っていました。特に近年、UXへの関心があらゆる分野で高まりを見せているからこそ、企業が本質的にUXを実現するには開発からグロースまでを一気通貫で担うことが重要だと思ったんです。
そこでUI/UX領域のリーディングカンパニーであるグッドパッチにお声がけしたのですが、最初の印象はどうでした?
野田:電通といえば広告クリエイティブの印象が強かったのですが、詳しく話を聞いてみると、ユーザーリサーチやインサイトの掘り起こしにも注力していて、われわれと近しいマインドがあると感じました。
松岡:最初にお会いしたとき、筧さんがペルソナ設計の課題について「企業のプロダクト開発チームとコミュニケーション戦略チームが別々にペルソナを立ててしまい、ミスマッチが起きている」と話されていて、深く共感したことを覚えています。
筧:多くの日本企業が抱えている組織構造上の課題ですよね。
松岡:私もゲーム会社で開発に携わっていた頃、発売直前に販促をマーケティングの部署に丸投げしたこともあったので、気持ちはよく分かるんですけどね。事業全体でユーザー体験を最大化していくためには、この慣習を変えなければならないと思っていたので、このプロジェクトは突破口になり得ると最初から好意的に捉えていました。
ユーザー目線とフルコミット精神が、プロダクトのLTVを高める
筧:プロダクト開発と広告/グロースの分断を、電通×グッドパッチがどのように解決していくのかを言語化していきたいのですが、その前に両社の共通点や相違点を整理したいと思っています。
松岡:共通点は、「生活者(ユーザー)目線」を軸にしていることではないでしょうか。われわれはクライアントワークでも、その先にいるユーザーに良いものを提供するために何ができるかを考えています。電通もクライアントのコミュニケーション戦略やクリエイティブをつくる上で、どうすれば生活者の心を動かせるのかを考えていると思います。その意味で、得意とする領域が異なるだけで、本質的に目指していることやスタンスは同じですよね。
グッドパッチが提供するアセットの一つ:ユーザーリサーチ
筧:同感です。アウトプットが広告なのか、プロダクトなのかという違い。それに伴う手法や取り扱うデータが異なるだけで、ユーザーをしっかり見るという観点はどちらも大事にしているポイントですね。
野田:相違点でいえば、私たちはゼロイチのプロダクト開発が得意ですが、プロダクトをリリースした後の領域、認知やグロースに携わるケースがそこまで多くありません。そこは電通の専門領域なので、補完し合えるものがあると思っています。
筧:グッドパッチの強みは、担当者が一つの案件にフルコミットする体制を実現しているところです。広告会社はもちろん、他のデザイン会社も複数の案件を担当することが当たり前だからこそ、強烈な競争優位性になっています。グッドパッチがクライアントとの信頼関係やワンチーム感を醸成できているのは、そこが大きな理由なのではないでしょうか。
野田:複数の案件を横断的に担うことで得られる経験値やナレッジもあると思うので、一概にどちらが正解とはいえません。ただ、特に世の中にないものを生み出すゼロイチ開発においては、クライアントに100%コミットして考え抜いた先に出てくるアイデアが、ユーザーの心に刺さるものだったりします。
今、私はチームをマネジメントする立場にあるため、一つの案件にフルコミットすることはできません。なので、自分がどんなに素晴らしいアイデアを思い付いたとしても、最終的な判断は現場でフルコミットしているメンバーに委ねています。
筧:その姿勢が、御社が手がけるプロダクトのLTVの高さに表れているのでしょうね。優れたキャンペーンサイトやランディングページを制作できるデザイン会社は数あれど、人々のライフスタイルに根差したLTVの高いデジタルプロダクトをつくれるデザイン会社という視点で考えると、やはりグッドパッチが群を抜いていると個人的に感じます。
開発からキャズム越えまでを一気通貫で伴走する
筧:それでは最後に、電通×グッドパッチだからこそクライアントに提供できることを、改めて伺います。
野田:グッドパッチの特徴は、定量分析ではなく、定性分析に特化していること。たった一人のユーザーに圧倒的な感動を届けるデザインを志向しています。そこに電通が持つ業界トップクラスのマーケティングデータとその分析ノウハウが加わることで、今までにない革新的なプロダクトを生み出すことができると考えています。
筧:確かに、僕たちもマーケティング手法として、一人のターゲットを見つけ出すこともありますが、市場を俯瞰で捉えること、広告=広く告げることをやってきた会社なので、そこはお互いの強みを持ち寄ったサービスにできると思います。
電通が提供するアセットの一つ:マーケットリサーチ
松岡:クライアントの視点で考えると、例えば新規事業の5カ年計画を立てるとき、一般的には初年度は赤字で考えて、徐々に売り上げを伸ばして黒字化させるのですが、多くの場合どこかのタイミングでキャズム越え、つまり大きく跳ねる計画を描くと思うんです。
しかし、初期の計画段階から携わり、開発からキャズム越えまでを一緒に伴走してくれるパートナーはそこまで多くないのが現状です。その結果、年次ごとに制作会社や広告会社を変えるなどして、事業がうまくグロースしないケースも往々にしてあります。
X Design Partnerは、ゼロイチ開発に強いグッドパッチ、キャズム越えに強い電通の2社が力を合わせることで、クライアントの事業成長に向けて最高のタイミングでアクセルを踏めるのではないかと思っています。
筧:ありがとうございます。御社の土屋代表からは、「業界を変えるような大きな爪痕を残してほしい」と、気合が入るメッセージを頂きました。そのくらいインパクトのある成果をクライアントに提供しようと一同意気込んでいますので、興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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