本業(=A面)と全く異なる「B面」を持った電通社員によるクリエイティブチーム「電通Bチーム」(以下、Bチーム)。2020年夏、結成6年目にして、偶然にも2冊の「Bチーム本」が同時期に発売されました。
そしてこれらの発売を記念し、時代の変化を映し続ける渋谷という街のランドマーク・SHIBUYA TSUTAYAに、BチームメンバーのそれぞれのB面に関するおすすめ本を集めた特設コーナー「B面の本棚」が設置されました(2020年10月に終了)。
この企画を考えたBチームの“古着”担当リサーチャー飛田ともちか氏と“発明”担当リサーチャー高橋鴻介氏が、企画を快諾してくれたSHIBUYA TSUTAYAの名物店長・清水悠佑氏と、「あたらしいことはB面から生まれる」をテーマに(リモート会議で)熱く語り合いました。
「B面の本棚」は“面白い”で即実現、メディアからの反響も!
2020年10月までSHIBUYA TSUTAYAで開催されたBチームによる選書企画「B面の本棚」の様子
飛田:最初に僕たちが「B面の本棚」の企画を相談したときは、どんな印象を持たれましたか?
清水:シンプルに「面白いな」と(笑)。Bチームの皆さんも、発想力や企画力を含めて人として楽しい方たちだと思いましたね。
飛田:僕は、最初のご相談で、「じゃ、やりましょう」と即答されたのがすごく印象的で、「こんな簡単に実現しちゃうの⁉」と驚きました。そのレスポンスの速さ、決断力に、Bチームと近いノリを感じました。
高橋:SHIBUYA TSUTAYAはファッションショーや、これからの渋谷と働き方を考えるプロジェクト「ニューシブヤパラダイス」など、突拍子もないことを企画してサラッと実施できるのが、書店として個性的だと感じます。お店として新しいことをどんどんやっていきたい気持ちが強いのでしょうか?
清水:はい。やはり今は個性の時代。個人も、企業も、自己表現を思いきりしていかないと気づいてもらえないし、支持してもらえないと思うんです。イチ店舗としても「個性を磨いていかないと」という思いがあって、小さな取り組みを積み重ねています。
高橋:「B面の本棚」に対する反響はどうでしたか。
清水:売り上げ的にはコーナー全体で100冊以上売れていて、まず「ニューコンセプト大全」はSHIBUYA TSUTAYAのビジネス本ランキングで2週連続1位。さらに売り場自体を「王様のブランチ」に取り上げてもらえるなど、メディア的にもウケが良い企画でした。
飛田:Bチームメンバーが選んだ本では、どれが人気でしたか?
清水:一番売れたのが、中谷俊介さん(Bチーム“未来予測”担当リサーチャー)が選んだ「銀河の片隅で科学夜話」です。2位が、小林昌平さん(“哲学”担当リサーチャー)が選んだ「その悩み、哲学者がすでに答えを出しています」。全体的に、哲学や建築の本が人気でしたね。SHIBUYA TSUTAYAは自己啓発系の本が強いのですが、そこと哲学に通ずるものがあるのかな。
Bチームメンバーが、それぞれの「B面」のおすすめ本を1冊ずつ推薦。「B」形のポップに、各メンバーからの「その本の紹介文」が書かれている。
高橋:この企画で面白かったのは、売り場に置かれた各書籍の紹介文が、Bチームメンバーの“B面の解像度”で書かれていたこと。例えば建築担当リサーチャーの奥野圭亮が、「階段空間の解体新書」という本の紹介をするときに、建築に詳しくない人にも分かるように見どころを書いていたのが印象的でした。
清水さんのB面は、渋谷で生かせる“ザッピング力”だった
SHIBUYA TSUTAYA では2020年11月、未DVD化映像作品を含む約6000タイトルを取りそろえたビデオテープコーナー「渋谷フィルムコレクション」を展開。また、VHSブームをひも解いたドキュメンタリー映画「VHSテープを巻き戻せ!」無料上映会などのイベントも開催した。
高橋:清水さんご自身には、何かB面ってありますか?
清水:僕の場合、仕事ばかりでこれといったB面はないです。ただ何にでも興味はあるので、例えば今は劇団四季にドはまりしています。それもきっかけは仕事。少し前だったらエロとかフェチとかにすごく興味をかきたてられて、「デパートメントH」という、鶯谷で開催されている日本最大級のフェチのイベントに行ってきました。
飛田:その興味のスイッチというのは、どんなときに入るものなのですか?
清水:それはやっぱり人と話をしていてです。それしかないですね。
飛田:じゃあ、その時もエロとフェチの権化みたいな人が目の前に現れた?(笑)
清水:そう、そう。仕事の話をしている中で、メインの話と離れた雑談の中から「そんな世界があるんですね」と教えてもらって、すぐ行きました。
飛田:清水さんはある種、人のB面をたどっていくような、流動的なB面を持っているのかもしれないですね。漫画の「HUNTER×HUNTER」で人の能力をコピーできる能力者が出てきましたけど、それに近い印象を受けました。出会った相手のB面を取り込んで、少しずつモノにしていく能力者みたいな(笑)。
清水:(笑)
高橋: 確かに。B面って「何かに決めなきゃ」みたいなところがあるけど、清水さんの話を聞いていると一つじゃなくてもいいのかなって思えます。そんな流動的なB面を持つ清水さんの、“今”のおすすめ本があればお聞きしたいです。
清水:今みんなにおすすめしているのは「独学大全 絶対に『学ぶこと』をあきらめたくない人のための55の技法」という、知識のザッピングみたいな内容の本です。
高橋:「ザッピング」って、清水さんらしいですよね。いろんな人と話して、その人たちのB面をザッピングしながら、どんどん企画を考えているという。SHIBUYA TSUTAYAって、いつもいろんな企画をやっていますよね。例えば、「渋谷フィルムコレクション」と称して、映画やドラマのVHSビデオテープを店舗内で展開してみたり、渋谷のシアターとコラボした企画「渋谷シネマナビ」では、近隣で上映する作品の「観賞前後に見てほしい作品」を集めたコーナーを設けたり。それはその時その時の、清水さんやスタッフさんの興味関心事を企画にしているんですか?
清水:VHSの企画は、どちらかといえば、TSUTAYAの“メインストリート”である「映画をより楽しんでいただく」ということが、どうしたらできるかなと考えたときに行き着いた手段ですね。やっぱり映画好きのスタッフが多いので、みんなを巻き込んでいきました。
高橋:清水さんで興味深いのは、「面白いな」と感じたら「はい、それやってみよう」ってスピード感を持って実現しちゃうところですね。やろうとなったらすぐ実践という意識が常にあるのでしょうか?
清水:そう意識しています。とにかく実践して、良い結果か悪い結果か、どちらかを出さないと成長していかないので。渋谷って「面白いものないかな」って探しているお客さんがたくさんいて、この渋谷という舞台で挑戦したいと思っている人もたくさんいる。お店を使って、面白いものを探す人と、面白いと思うことに挑戦したい人とのマッチングをうまくできたらという思いがあります。
例えば“お琴くん”っていう「お琴一本で武道館ライブしたい!」って言っているやつが、よく店の前で琴を弾いているんですけど、なぜおまえはここでそんなパフォーマンスをしているの?という(笑)。「なんで?」って興味関心が尽きない街で、出会う人の数も多い。もちろん商売なので、もうけないといけないのですが、その中でもできる限り、面白そうなことに挑戦していきたいです。
魅力的な企画は“熱量ファースト”で生まれる
飛田:清水さんが外から企画を持ち込まれたとき、「やってみよう」と判断される基準はどこにあるのでしょうか?
清水:大まかに三つあります。一つ目は、企画を持ち込んでくれた人たち自身に熱量があるか。その人たちが本当にやりたいと思っているか、楽しんでいるのかというのが大事。二つ目は、お客さんが喜んでくれるかという視点。どの層のお客さんが喜んでくれそうかを想像します。三つめは、収益的に「マイナスになるリスク」がどのくらいあるかを考えた上で最終的な判断をしています。
高橋:収益の話が最後に来るというのがすごくいいと思ったのですが(笑)。
飛田:僕も、最初に熱量の話から始まったことにグッときました。
高橋:今、自然と(話す順序が)そうなっていましたよね。今の三つの基準は、「B面を持つ人たちを組織の中で生かすためのマインドセット」としても捉えられるなって感じました。
飛田:SHIBUYA TSUTAYAの取り組みがどれもエッジーで面白いのは、企画者の熱量を一番大事にされているからなんですね。熱量ファースト、というか。
高橋:熱量ファースト!たしかに!
清水:ちなみに僕は、「お金もうけ」と「面白さ」は、全く別のスキルだと思っています。「お客さんにとって面白い」ことがコンテンツの魅力の根源。まずそれがあって、もうけ方については頭の良い人がいろいろ考えれば、たくさん出てくる。その二つはある程度分けて考えていいのかなと。
高橋:へー、面白い!そこにマーケットがあるから面白い企画を考えるという順番ではなく、「これが面白いから、何とかもうけ方を考えようぜ」でも成立しているんですね。
B面の活動を厚くする「A面の引き出し」
飛田:清水さんから見た、電通Bチームの印象を聞いてもいいですか?
清水:前提としてA面でのスキル、経験、リソースのレベルが高くて、その上でB面も本気でやっているところが稀有な存在だと思います。
以前、Bチームに「どうしたらSHIBUYA TSUTAYAをもっと面白くできるか?」というアイデアを出す会を設けてもらいましたよね。「SHIBUYA TSUTAYAの価値はこういうところです」と客観的に教えてくれた上で、もっと多くの人に店の魅力を伝える手法を提案していただきました。
そういう、広告会社ならではのA面の引き出しもいっぱい持っていると同時に、「“お客さんにとって面白いこと”なら、こんな視点もあります」というB面的な引き出しもたくさんある。何を投げかけても的を射た答えが返ってくる印象でした。
飛田:SHIBUYA TSUTAYAの中で、スタッフの“B面”から生まれた企画もあるんですか?そもそもTSUTAYAですから、A面の仕事である「映画」自体が、B面でもあるという人が多いのかなという気もしますが……。
清水:確かに、B面がA面になっているスタッフが多いですね。それで、どちらかといえば商売がへたくそ(笑)。「この映画が好きだから伝えたい!」と売り場をつくったりするのですが、それがそのままA面の仕事になってしまうので、逆に「いかにもうけるか?」を一生懸命やる人が、SHIBUYA TSUTAYA ではB面的な存在になっているところがあります。
飛田:たくさんの企画を発信されていますが、企画会議はどんなふうに進めているんですか?
清水:基本的に多いのは、「テーマ」だけスタッフに投げ込んで、後は僕とセッションしながら決めていくやり方です。
例えば「ジャニーズの公式グッズはもちろん自分たちじゃつくれないけど、正攻法じゃなくて、ジャニーズファンに買ってもらえるグッズのつくり方、ない?」みたいな。
飛田:それはまずテーマが秀逸ですね!(笑)
清水:ジャニーズが大好きなスタッフもたくさんいるし、今までも店として一生懸命おすすめしていて、SHIBUYA TSUTAYAの企画から発生した現象が、メディアにも多く取り上げられていました。そこで、もっとジャニーズ好きなお客さんに喜んでもらいつつ、商売にもしていきたくて、テーマとして投げかけてみました。
飛田:テーマに対するアイデアがスタッフから出てきたときに、どれをピックアップして実現するかがまた難しいと思うのですが、清水さんの中で「こういうアイデアなら残す」という基準はありますか?
清水:小さくてもいいので“勝ち筋”が見えそうなところですかね。やはり最終的にはビジネスにつなげたい。これが大きくなっていけばお金の匂いがするとか、そこは考えます。
高橋:面白さの先で「ちゃんとお金になるか」の視点は非常に大事ですよね。B面は熱量だけど、A面はビジネスとしてちゃんと着地させる力が必要だと思うので。
飛田:SHIBUYA TSUTAYAがうらやましいのは、全員B面がA面になっている職場であることですね。熱量をそのまま出せる。
高橋:映画でもジャニーズでもそうですが、いろんな熱量を持ったスタッフが集まる職場だからこそ、ザッピング担当の清水さんがいると最終的にビジネスまで落とし込めるのだと思うし、店長の興味の幅が広いことで、うまく組み合わせていろんな切り口の企画を出せるのかもしれませんね。
本来の「A面」が「B面」に変化!?新たな発想を生みだすBチームメイキング術
2020年8月、SHIBUYA TSUTAYAの非公開Facebookグループや、企画会議にも参加できるオンラインコミュニティー「SHIBUYA NEST」が発足した。
高橋:最後に、この連載のテーマである「今、日本にBチームが必要な理由」を語っていただいていいでしょうか。
清水:Bチーム的な考え方は絶対に必要ですよね。それは間違いない。われわれの企画でいうと、2020年8月に「SHIBUYA NEST」というオンラインコミュニティーを立ち上げたんです。 “シブツタを私物化しよう”というキャッチコピーの元、30人くらいのメンバーがコミュニティー内で活動してくれています。福岡の糸島に住んでいる野菜ソムリエ、名古屋のエステティシャン、行政関係、デザイナー、美容師……全国のいろんな職種の人がメンバーになってくれていて、そこから今までになかった発想が生まれています。
例えば、同時期にYouTubeで「シブツタchannel」というものも立ち上げていたのですが、中身のコンテンツを僕たちスタッフが考えようとしたとき、「TSUTAYAのブランドを大事にしないと」「かっこいいものじゃないと出せない」という変なハードルが勝手に自分たちの中にあって、何も動けなかったんです。だけど、「SHIBUYA NEST」のチャンネルをつくって、コミュニティーメンバーにコンテンツを考えてもらったら、面白いことがどんどん出てきて、僕ら自身も「おかしなハードルをなくして、やってみよう」と思えた。
SHIBUYA NESTはまさにSHIBUYA TSUTAYAにとっての「Bチーム的な存在」で、われわれがA面の正攻法で解決できなかったことを解決できたんです。
飛田:つまり、農家や美容師といったコミュニティーメンバーの「A面」のお仕事が、SHIBUYA NESTという場では「B面」として作用して、今までになかった発想が生まれてきたということですね。もともとのA面が、ある空間に集うことでB面になる構造が、新しいBチームのつくり方という気がしました。
高橋:SHIBUYA NESTの事例は、「私物化しよう」というワードが重要なのかなと思います。それぞれが熱量を傾けたくなるような“旗印”というか。その言葉のもとにBチームができて、実際に新しい企画やコンテンツが生まれてきているところが本当に面白い。
今日一番心に残っている言葉が「熱量」なんですけど、何かを私物化しようとするときに、熱量が高まる気がする。そういうふうにチームをつくっていくと、新しいものが生まれるんですね。めちゃくちゃ勉強になりました(笑)。
飛田:一人一人がB面を探さなくても、チームメイキングの時点で共通のA面をつくってあげれば、集まってきた人の本来のA面がB面に変わるっていうね。日本にいろんな発想が生まれるような面白いチームづくりができる一個の事例だなと思いました。いろいろと興味深いお話をありがとうございました!
清水:こちらこそありがとうございました!
転載元となった「電通報」の対象記事はこちら