突然ですが、私は大学時代の4年間をバンドサークルで過ごしました。プロのアーティストも輩出しているサークルで、憧れの先輩バンドがたくさんいました。しかし、そんな先輩たちも3年の冬になるとサークルを引退。下北沢で買った古着を脱ぎ捨て、格安のリクルートスーツに着替えて面接に行くようになりました。
「サークルでの活動なんて、就活では何の役にも立たないよ」
そう言い残して、先輩たちは一般企業や公務員の道へ。憧れだったバンドも、次々と解散していきました。
なぜサークル活動と就職活動はこんなに分断しているのだろう。
なぜ就職活動のために、サークルを辞めないといけないのだろう。
なぜ学生サークルという存在は、社会とつながっていないのだろう。
申し遅れました。電通若者研究部(電通ワカモン)の小島雄一郎です。電通ワカモンは、学生の就職・採用活動のリデザインを行っています。
1月29日に、電通、「エンカレッジ」を運営するリクー、大学生マーケティング会社のユーキャンパスの3社でリニューアルした「サークルアップ」というサービス(リリースはこちら)は、そんな私の原体験から生まれました。
会社とサークルが混ざっていく
日本の大学生活は「モラトリアム」(社会に出るまでの猶予期間)と呼ばれることがあります。その期間に多くの大学生
たちが通る道。それがサークル活動や学生団体などの課外活動です。
大学1年生では、実に89%が所属している「サークル」は、日本の大学特有の存在。会社でもなければ、法人でもない。設立の許可もいらないし、解散の基準もありません。
スポーツ系であれば、体育会ほど「ガチじゃない」ことがサークルの意味だったりもしますし、事実「サークルノリ」という言葉は社会に出ると「子どもじみている」という意味で使われることがほとんどです。
けれども私は、この「サークル」こそ次の組織づくりのヒントになる、という仮説を持っています。
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・終身雇用制の廃止
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・企業の副業解禁
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・コロナ下のリモートワーク
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・個の時代
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昨今、組織に対する帰属意識は下がる一方です。
これまでのトップダウン型の組織ではなく、リーダーを置かない、可変性の高いティール組織なども注目され始めてきました。
また「好きなことで、生きていく」というYouTubeの広告コピーのように、「趣味は仕事にしないもの」という価値観は一転し「趣味を仕事にする」流れもあります。
これらの潮流から、徐々に会社(ガチな組織)とサークル(ゆるい組織)の境界線が溶けていくのが次の時代。
会社がサークルのような雰囲気になっていくこともあれば、サークルがそのまま会社化することも多くなっていくでしょう。大学で謎解きサークルの代表を務めていた松丸亮吾氏が謎解き制作会社を設立したのも好例といえます。
サークル活動と就職活動が分断しない世界を
いわゆるサークルの中でも、代表的なのが大学サークルですが、社会や企業との接点があるサークルは多くありません。
サークル活動とは、あくまで趣味的にやるもの。
学生たちのこの意識には、大学と経団連が定めた「就活解禁日」の影響もあります。
時代によって時期は異なりますが、これまでは会社説明会や採用面接の解禁日が設定されていました。例えば、2020年卒業生の説明会解禁日は、2019年3月1日でした。
これは裏を返せば「3年の冬までは就職のことなんて考えなくていい」(学業に専念しましょう)というメッセージにもなります。しかし日本の大学は海外に比べて比較的簡単に単位が取れるため、実際に専念するのは学業ではなくサークルをはじめとする課外活動(もしくはアルバイト)になっているのが実態です。その結果「サークルを引退する時=就職活動が始まる時」という認識が定着し、サークル活動と就職活動の分断が起こっています。
そこで、大学サークルがもっと社会で顕在化すれば、社会と接点を持てば、大学も、学生も、企業も少しずつ変わり始めるのではないか。そんな仮説の下で2013年にリリースしたのが「サークルアップ」というサービスです。
当時、サークルの連絡ツールとして使われていた「メーリングリスト」をアプリ化。さらに登録学生がアンケートなどに回答することで、サークルの活動費を得られるポイント機能を実装。大きなプロモーションはしませんでしたが、6年間で7万人のユーザーを獲得しました。
しかし7万人という数字は広告メディアとしては少なく、電通の事業としては収益を出せません。また(これは言い訳ですが)当時の私はアプリ開発のノウハウもなく、ユーザーに良質なUI/UXを提供できたともいえませんでした。改善の途中で開発費はなくなり、軽微な改修しかできない状況が数年間続いていました。
このサービスは、サークルの顕在化という点では大きな手応えがありました。サークルアップのプロモーションとして開催したイベントから次々とスターが生まれたのです。
ソニーミュージックと共催した「SOUND YOUTH」という音楽サークルのコンテストには、Official髭男dismの藤原聡さんやYOGEE NEW WAVESらが学生時代に参加。
吉本興業と共催している「NOROSHI」というお笑いサークルの大会には、今注目のフリー芸人ラランドや、にゃんこスターのアンゴラ村長が学生時代に参加しました。また、大会がきっかけで吉本興業の養成所に入る学生も多く、昨今の東京NSC(吉本興業の養成所)を首席卒業した芸人は、直近4年間のうち3年でこの大会に出場経験のある方でした。大学サークルという存在は、新たな「才能発掘の場」として機能したのです。
これらの実績がきっかけとなり、サークルアップは「サークル活動と就職活動を分断させない」をコンセプトに、今回の全面リニューアルを迎えることとなりました。
サークルと企業がフラットにお互いの活動を支援し合うサービスを構築
そもそも、サークル活動と就職活動は相性がいいはずです。
バンドサークル → エンタメ業界
ボランティアサークル → 教育業界
国際交流サークル → 商社
という業界との親和性はもちろんありますが、それだけではありません。
サークルには、仕事のような雑務が伴います。代表をはじめ、会計や庶務、後輩育成など、社会人なら給与をもらって行うようなことを、逆に部費を払ってやっています。
それでもなぜ学生たちはサークル活動をするのでしょうか?
サークルに所属する大学生たちに聞いたら、こんな答えが返ってきました。
どうでしょう。会社に置き換えて考えみると、理想の組織ではないでしょうか?
サークルなんて、いつでも辞められる。
それでも学生たちはその組織に居ることを自己決定している。なんだかんだ言いながら、そこが居場所となっているからです。
社会人になっても身を置く場所は、そんな組織であってほしいと思います。例えば、そのテニスサークルの雰囲気が好きだから、と部費を払ってまで雑務を引き受けていた学生には、同じようにその会社の雰囲気が好きだから、雑務も苦じゃない組織が見つかればいい。
サークルでの仕事の経験を生かしてスキルアップし、それで少しずつお金をもらえるようになった。そんなゆるやかな移行を自然な就職の形にしたい、サークル活動と就職を地続きなものにしたい。
これらの思いを、リニューアルする「サークルアップ」には込めました。コンセプトコピーは「サークル活動って無限かも。」です。
最後にサービス内容を少し紹介します。
リニューアル後のサークルアップを端的に表現すれば、サークルと企業がお互いの活動を支援し合うプラットフォームです。企業は学生のサークル活動を支援する。学生は企業のリクルーティングやマーケティング活動を支援する。企業も学生も、どの団体の活動を支援するかは自らで決める。
もう少し具体的に説明します。
サークルアップに登録している学生は皆、何かしらのサークルに所属しています。企業は支援したいサークルや学生を決めたら、自社のリクルーティングやマーケティング活動への協力を依頼するオファーを配信。オファーを受け取ったサークルや学生は、それに応えることでサークルポイントとマイポイントという二つのポイントを得ることができます。
サークルポイントはサークルの活動資金などに交換でき、マイポイントも現金として個人口座で受け取ることが可能です。
ちなみに、個人口座に入金される仕組みを新たに追加したのは、アルバイトにかける時間を減らすためです。
サークル活動にはお金がかかるため、お金を工面するためにアルバイトにかける時間も長くなりがち。アルバイトに時間を取られている間に就職活動の時期になり、結局サークルもアルバイトも辞めざるを得なくなる。
サークル活動を存分にできなかった学生は、就職活動でアピールすることがなくなってしまう。
こんなループにハマってしまう大学生は少なくないのです。
そこで考えたのが「サークル活動がそのまま就職活動になる」というソリューション。
企業側はサークルの活動内容や、サークルメンバーからの他己紹介を材料に支援するサークルや学生を探します。つまりサークル活動に力を入れれば入れるほど、企業からの注目度が増すのです。
そして企業がサークルを支援するほどに、サークル活動は活性化。個人にも報酬があるので、学生のうちから企業と関係値をつくれればバイトを辞めてサークル活動に集中することも可能。結果的に学生の実績づくりにもつながるという構造です。
就職活動の時期になったら、サークルもバイトも辞めて、就職活動用に「盛った自己PR」を考える必要なんてなくなります。
サークル活動がそのまま就職活動になる時代へ。
リニューアルした「サークルアップ」で、少しでも実現していきたいと考えています。
「サークルアップ」プロジェクトメンバー。(左)小島雄一郎氏(ビジネス・デザイナー)、(右)古橋正康氏(エクスペリエンス・デザイナー)