書店POPに見る、セールスライティングの極意

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書店POPに見る、セールスライティングの極意

セールスライティングとは、商品やサービスに関して消費者に行動を促すことを目的に書かれる文章で、企業のホームページやランディングページ、ECサイト、メルマガ、ダイレクトメール(DM)など、ビジネスのデジタル化が浸透した現在では企業や事業主がセールスライティングを内製(自社内で作成)する機会が飛躍的に増えています。

最近ではセールスライティングのハウツー本も多数出ていて、その中では①商品特性をわかりやすく、②どのように役に立つかを明らかに、③個性を活かしてインパクトのある表現を、といったアドバイスが書かれていますが、実際にはなかなか難しいと感じている人も多いようです。

そのような中、いま静かに話題注目を集めているのが書店POPです。セールスライティングに関するサイトでも、その好事例として写真が多数挙げられているのを頻繁に目にします。
書店POPに見るセールスライティングの極意とは、一体どのようなものなのでしょうか?

セールスライティングとは

広告のための文章というと、まずコピーライティングが想起されるでしょう。コピーライティングとは、企業名や商品名につけるタグラインやキャッチコピー、商品を説明するボディコピーなど、主に商品やサービスをインパクトある形で表現し、消費者のみならず株主や従業員、その他生活者に広く印象づけることを目的としたものです。
印象的であること以上に、ブレのない統一したイメージである必要があることから、コピーライティングはCIなどのビジュアルとあわせて、広告会社のコピーライターなどプロに依頼するというケースが多いようです。

一方セールスライティングは、商品やサービスに関して消費者に行動を促すための文章です。行動とは単に購買の促進のみならず、問合せやアンケートの回答、無料体験への応募、サロンへの入会やWEBマガジンの定期購読など多岐にわたるため、マーケティング上の目的や用途によって「書き分ける」ことが可能になります。そこがセールスライティングの醍醐味でもあり、難しさでもあるのです。

それでは、書店POPのいくつかの特徴の中からセールスライティングに応用できそうな要素を抽出してみましょう。

Tips: セールスライティングは、商品やサービスに関して消費者に行動を促すための文章で、マーケティング上の目的や用途によって「書き分ける」ことが可能。

「愛情あふれる代弁者」の話法

書店POPの最大の特徴は、そのほとんどが商品(その本)をこよなく愛する書店員さんによって書かれているということです。書店POPとはいわばその書籍の「1番のファン」による推薦文であるからこそ、迫力と説得力を持っています。
出版社や著者から見ると書店員はその商品の「熱狂的な代弁者」なので、その意味ではアドボカシー・マーケティングの一形態とみることもできます。

唐突ですが漫才を例にとると、お笑いコンビのダウンタウンの漫才を効果的に特徴づけていたのが、浜田雅功さんが松本人志さんの一番のファンという立ち位置でツッコミを入れる、独特のスタイルでした。
漫才においてボケとツッコミという関係性はほぼ全てのコンビに共通しますが、浜田さんは松本さんのボケの一番のファンとして大笑いしてみせてからツッコミを入れる、すなわち身を以てダウンタウンの楽しみ方の見本を示すという点で新しさがありました。

「一番のファン」として語るという話法は、商品やサービスの特徴、使い方、使った気分(情緒ベネフィット)などを、コピーライティングを超える熱量と共感性を持って情報を送り出すことができます。つまりセールスマーケティングの特定の目的に対しては、コピーライティングより有効なのです。
自社の商品やサービスについて当事者として書くのであっても、セールスライティングにおいては一方的なセールストークではなく、書店POPのようにその商品やサービスの「一番の愛用者」の話法を使うことが効果的なのです。

Tips: セールスライティングにおいては一方的なセールストークではなく、その商品やサービスの「一番の愛用者」の話法を使うことが効果的。

自由度の高さゆえ可能となる、さまざまな呼びかけ

護身マニュアルのような書籍を読むと、人混みの中で助けを求める必要がある場合、ただ「助けて!」と叫ぶよりも、佐藤さんや鈴木さんといった誰かの名字を呼ぶと良いと書かれています。実際にその名字の人がいなくても、誰かが手を差し出してくれる確率が高まるのだそうです。これは心理学で「傍観者効果」と言われるもので、人は群衆の中ではなかなか率先して行動は起こさない、というようなことが解説されています。

人が広告と接触する時はそれらとは全く違うシチュエーションですが、広告を自分ごと化するには多分にトリガーとしての「呼びかけ」が必要であることに、異論の余地はないでしょう。
書店のPOPのもうひとつの特徴は、いまこれを読んでいる人に「そこのあなた!」という呼びかけをすることで、強いアテンションを獲得できることです。書店であるPOPを目にしている人は、少なくとも本を買いに書店に来ていて、いまこの書架の前にいることが自明です。なので、書店POPでは書籍ごとにさまざまな呼びかけをしています。
実際、書店に行ってPOPを眺めると、実に多様な呼びかけ方をしているのに出会います。

「サイコパスのワンダーランドへ、ようこそ」
「格闘技ファンでなくても、これは一気に読める」
「読むだけで、100年の凝りが取れます」

ともするとコピーライティングが自己紹介的な発話になりがちなのに対して、セールスライティングは呼びかけのできるコミュニケーションです。そしてその目的の多くは、新規顧客の獲得や潜在顧客とのコンタクト開拓ですから、セールスライティングにおいてはコピーライティングのようにブランド論などの作法にとらわれず、目的ごとに自由な発想で、さまざまなアプローチによる呼びかけをすることで、目的とする行動喚起の効果を最大化することが期待できます。

[Tips]書店POPは、消費者が反応しやすいさまざまな呼びかけをすることで、強いアテンションを獲得している。

ターゲットを醸成し、アクションを喚起する

「この本を持って旅に出たくなりました」
「もう一度青春したい方、必読」
「あのとき××していたら…という思い」

これらのアプローチ表現は、ターゲットを規定して呼びかけているように見えますが、実際は生活者に気づきを与え、ターゲット化し、購買する気分を醸成することを狙っています。すなわち私(=書店員)はこれらの本を読んで、旅に出たい/もう一度青春したいと思ったのですが、あなたはどうですか?という呼びかけです。
そのPOPを目にした私たち受け手は、それまでは何も思っていなかった過ぎ去りし青春について改めて思いを馳せる(≒購読を検討する)のです。

書店POP独特の表記法として、伏せ字が使われることがあります。これは一部のSNS広告に見られるような単に興味を喚起する思わせぶりな伏字ではなく、書店POPは多分にそれ自体が文学的なものなのです。読書好きの人々の中には人生で色々な後悔をしてきている人もいますが、この表現がしっくりくる人はこの本の読者にふさわしいというターゲティングであり、書店員と顧客との間のある種の符丁なのです。

これらビジネスライティングの作法を超えた表現が可能になるのは、それらの投げかけや提起に対して当該書籍がソリューションとなる訳ではないことを消費者もわかっているからです。それを担保するのが、書店員という個人のコメントという体裁の書店POPの特徴であり、セールスライティングの自由度の高さを表すものだといえます。

[Tips]書店POPには、生活者に気づきを与え、ターゲット化することを狙っている表現も多い。

巧妙な語りかけによる、ポジティブな行動の喚起

自由度が高く、主観的であるということだけが、書店POPの原理ではありません。
書店POPには消費者に望ましい行動をとってもらうための周到な言い回しもよく見られ、その多くが一般的なセールスライティングにそのまま応用できます。

「いま、何買いに来たんだっけ?と思っている方」
「辛抱強く齧っていると、やがて味わいが広がります」
老化による記憶力の低下に対するいわゆる「脳トレ」のPOPでは、ともすると反発を招きかねないネガティブな言葉を避け、状況をポジティブな表現にリフレームしています。
また読むのが難しい思想書や文芸評論などは、内容をわかりやすく説明したところで手に取ってもらうまではまだ距離があります。そこで、難解な本に齧りつくことの方にスポーツのような価値を持たせ、手に取ってもらおうという表現戦略を取っています。

「立ち読み歓迎! まずは手にとってみてください」
「この美しい挿絵なら、ジャケ買いしちゃってもいい」
これらは、さながら内緒話をするかのような語り口で、ある種の関係性を構築することに成功しています。どちらも結局はその本を「手に取ってもらうこと」ように誘因しているのです。

「この本を読んでから愛を語り合ってください」
「この本を読むと、誰でもあの頃を思い出します」
愛を語り合う、など万人が好みそうな行動の前提として、この本を読むということが織り込まれます。また「誰でも」などの表現では、この本を読むことを含めて普遍化することに成功しています。

モノは考えようであり、全ては言いようです。書店POPはそれらの要素をうまく組み合わせて、書架の前を通りがかった潜在顧客に語りかけます。その手法はそのまま、HPやECサイト、DMなどで一人でも多くの人の心に引っ掛かりを持つというセールスライティングのよき手本となりそうです。

[Tips]書店POPには、セールスライティングに役立ちそうな「消費者に望ましい行動をとってもらう」ための周到な言い回しもよく見られる。

ベネフィット訴求に入れるべき3つの要素

とはいえ、セールスライティングにおいて最後に消費者の背中を一押しするのは、やはりベネフィットの訴求です。ベネフィット訴求においては、なるべく多くの人にピンときてもらい、共感を獲得し、望ましい行動を誘引することが最終的な目的となります。
そのために押さえておきたい3つの要素があります。

我々は情報や刺激を五感で認識しますが、五感の中でも個人によってピンとくる、すなわち優位性の差があることがわかっています。近年マーケティングやコーチング、医療分野、スポーツなど幅広く応用され始めている神経言語プログラミング(NLP)という心理学によると、それら五感の優位性は大きく①「視覚」、②「聴覚」、③触覚に味覚や嗅覚も含めた「体感」、の3つに分かれます。それぞれ視覚=Visual、聴覚=Audit、体感=Kinestheticsの頭文字をとってVAKモデルといいます。

そしてその優位性は文章の情報を認識する際にも顕著に表れ、メッセージの訴求効果にも少なからず影響するのです。

視覚、聴覚、体感の各優位性に寄った表現とは、例えば下記のようなものです。
① V=視覚…「生活に彩りを与えます」「明るい未来が拓けます」「あなたのビジョンを後押しします」
② A=聴覚…「ご家族の喜ぶ声が聞こえます」「これがあればメキメキ上達します」「波の音と鳥のさえずりに浸れる空間」
③ K=触覚/体感…「思わずほっこりするデザイン」「爽やかな甘さ、ほのかな香り」「とてもバランスの取れた商品ラインナップ」

書店POPにおいては、基本は読んで理解する文字情報(A)をメインにしていますが、イラスト(V)を添えたり、味覚表現(K)などを加えたり、おそらく書き手の性格も影響することで、VAKの各表現があまねく散りばめられているように見受けられます。

自社の事業や商品・サービスについて熱く訴求しても、ベネフィットの表現がVAKのいずれかに偏ってしまうのはある種のギャンブルであり、効果的なセールスライティングとはいえません。消費者が反応しやすいさまざまな呼びかけをすることで、強いアテンションを獲得し、VAKのそれぞれに訴える表現をなるべく多く盛り込むことが重要です。

[Tips]ベネフィット訴求には、視覚的表現、聴覚的表現、触覚/体験的表現の3つをまんべんなく盛り込む。

まとめ

セールスライティングは、商品やサービスに関して消費者に行動を促すための文章で、書店POPはそのよき手本となっている、と言えます。
一方的なセールストークと違い、自社の商品・サービスの「一番の愛用者」として消費者が反応しやすいさまざまな呼びかけをすることで強いアテンションを獲得できることが期待できます。また消費者がとるべき行動を刷り込んだ周到な言い回しと、視覚、聴覚、体感(VAK)のそれぞれに訴えるベネフィット表現で、消費者に望ましい行動を喚起することにもつながります。ここでは書店POPをその典型的な例としてクローズアップしましたが、他の店舗や企業にも十分、参考になるのではないでしょうか。

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