飲食店やショップなどの小さな商圏において、来店から受注、成約や購入といったビジネスの効率性を高める魅力的な施策のひとつとして、セールスプロモーションツール(SPツール)があります。SPツールと聞くと、看板やチラシ、店頭POP等が想起されますが、それ以外にもエリア広告やDM、サンプリング、ノベルティなど多岐に及んでいます。
ローカルビジネスの分野でも、情報発信をチラシからSNSに変えるなど、DXの波は少なからず影響を与えていますが、その一方で特に紙を使ったスモールメディアとしてのSPツールがにわかに人気の高まりを見せています。紙以外にも布や木、果ては食材に至るまで、メディアとして使う素材も拡がりつつあります。
SPツールが再び脚光を浴び始めているのにはどのような背景があるのでしょうか?その「小さな広告媒体」としてのハード面に注目し、現在におけるオールドスモールメディア、SPツールの世界を見ていきましょう。
技術の進化や社会意識の変化により、印刷物が再び人気に
SPツールの中でも特に紙を使った印刷物の人気が高まっている理由は、以下のようなことが考えられます。
1. 印刷技術の向上によるコストダウン
まずオンデマンド印刷など近年の印刷の技術進歩により、小さな印刷物を小ロットでムダなく印刷することが可能になりました。それにより小ロットの印刷物が、製作コスト的にも非常に使いやすくなったことが挙げられます。
2. 紙加工技術によるデザイン性の飛躍的な向上
さらにレーザーカット技術などの普及により、ショップカードやポストカードサイズの印刷物でも、ブランドの世界観や独自性を個性的にデザインしやすくなったことも近年の人気の理由です。
3. 小さな商圏でのリアルビジネスに最適なメディア
最近では事業の初期投資をなるべく抑え、スモールスタートからブランドを成長させるという風潮が見られますが、その際小さな商圏であれば紙媒体も低コストで流通させられます。その上、紙の印刷物は視認性と保存性に優れており、また世代を問わず消費者に受け入れられやすいというメリットがあります。エリアを限定したポスティングなどがこれにあたります。
4. 二次元バーコードなどによる印刷物の包含情報量の飛躍的増大
QRコードの浸透などにより、現在ではショップカードなどの小さな印刷メディアからSNSや自社サイトに誘引することができます。そのためショップカードのような小さな紙媒体でも、非常に多くの情報フックを埋め込むことができるようになりました。
5. 紙や木といった素材への受容性の高まり
近年のSDGsへの関心の高まりとともに、再生可能な紙や木の印刷物の受容性が高まりつつあります。そのような社会意識の中、企業が紙や木製品のSPツールを広告媒体として選ぶことで、環境に優しいなどの企業姿勢やメッセージ性を強めることができます。 メディアの価値が情報接触の量的効率性にとどまらず、視覚や触覚などの五感的な「質」も重視されるようになってきたことが背景にあります。
Tips
新技術とアイディアで、紙製SPツールが再注目!
まだまだある! SPツールの新しいアイディア
印刷物の他にも、最近になって注目されているSPツールがあります。最近になって、ちょっとした技術とアイディアで新たなモノとしての面白さや有用性が生まれています。メディアによって表現されたもの、ではなく、メディアそのものが魅力的、ということですね。現在実用されているSPツールのいくつかを見てみましょう。
ギブアウェイ型ノベルティ
チラシを受け取ってもらいやすいように、有用なモノを付けたものを「ギブアウェイ」と呼びます。一番よく目にするのはポケットティッシュのギブアウェイです。生活シーンの中では依然ティッシュを使うことが多いので、受け取りを拒まれるリスクが低減されます。一方で配布の効率性を挙げるために、配布する側がターゲットのセグメントをしながら配ることが重要になってきます。
最近では、夏期には店舗情報などを印刷したミニうちわ、また冬にはチラシを同梱した使い捨てカイロなど、ギブアウェイのアイディアも増えています。さらに屋外でのコンサートやイベントなどで、ロゴを印刷したバンドエイドを配布した事例もありました。
ただ注意したいのは、タレントやキャラクター、アーティストの肖像などの利用です。無料で手渡すノベルティとして使われたものが、オークションやフリマアプリで法外な売り値がつけられたりします。肖像権の一部である「パブリシティ権」の侵害に当たるケースがほとんどで販売者は訴えられ処罰される可能性がありますが、全ての違法販売が取り締まられているわけではないのが実情です。このため一部のタレントはこれを嫌がり、ノベルティへの肖像権使用を契約上認めないケースも出てきています。タレント契約の際にノベルティへの使用可否の確認が必要です。
ブランドイメージやメッセージを伝えるカード
名刺、顧客向けのDM(グリーティングカード)などは紙やインクの色と質感を厳選し、加えて型押しや箔といった印刷技術を活用することで、電子媒体では表現しきれない質感を持たせることができます。その特長を活かしたデザインによって企業や商品・サービスを印象づけることができます。
また、カッティング技術を使ってブランドロゴや商品・サービスの世界観を切り抜きで表現したり、2枚のシートをスライドさせたり見る角度を変えると絵柄が変わるクリエイティブアイデアによって、デザインに物語性を持たせることができます。
企業の環境意識や思想を打ち出せるノベルティ
最近の技術では、例えば紙を作るときに花やハーブ、野菜など植物の種を梳き込むことが可能で、それらを使ったオリジナルカードやノベルティ、プレミアムを制作して提供することで、顧客にSDGs等への意識の高い企業として印象付ける効果が期待できます。
種入りのノベルティグッズも最近は多様で、実際に使える鉛筆のフェルール(消しゴムの部分)を種入りカプセルにしたものや、昔懐かしい紙のマッチを思い起こさせる形状のものなど、世代を超えて使いやすく楽しめるSPツールが数多く開発されています。
カレンダー、マップ
カレンダーは今でも人気あるノベルティのひとつです。年末に配布するノベルティのイメージが強いカレンダーですが、現在では1月以外の月から始まるオリジナルカレンダーをノベルティにするケースも見られます。例えば、新商品の提供開始、店舗の新装オープンなどに際して、クリスマスのアドベントカレンダーのようにその当日までの期間の短いオリジナルのカレンダーを配布するのも、顧客の期待感醸成には効果的です。その他、自然の恵みである食材を扱う企業が、その食材と親和性の強い歳時記や自然現象を盛り込んだカレンダーを配布するなど、客の共感を獲得できるノベルティ配布ができます。
飲食業や観光産業など地域に密着した業態の多いエリアでは、企業が連携してエリアマップを制作し、それぞれの店舗等で配布するケースが見られます。一部の街では既にエリア媒体として広告枠が用意されているマップなどもあります。このエリアマップも最近では進化しており、地図に印刷された実際の建物にスマホをかざすとスマホ内にVR(バーチャルリアリティ)の世界が浮かび上がる、といった、印刷媒体とVRの融合実験も始まっています。
汎用性の高い布製品のノベルティ
Tシャツ、ハンカチ、手拭い、エプロン、エコバッグなど、いずれもコットン素材の既製品には、インクジェットまたはシルクスクリーンで簡単に印刷できるので、手軽に利用できるノベルティとして高い人気があります。価格も抑えられることから法的な制限に引っかかることも少なく、サービス利用・商品購入のプレミアムや、イベント会場などでの無料配布など汎用性があり、多様なプロモーションプランが設計できます。
布製品のノベルティ制作に際しては、印刷面積や色づかい、1回の製造ロットなどによって単価が大きく変わるため、デザインや印刷範囲、製造計画などを含めて経験のあるデザイナーや制作会社に相談するとよいでしょう。
飲食チェーンなどにおける小さな広告媒体
飲食店などでは日夜様々な紙製品が使用されて廃棄されるため、経費節減という見地からもそれらの紙製品を広告媒体としてセールスしているケースがあります。例えば大手飲食店チェーンでは、以下のような紙製品が広告媒体になっているのを見かけることがあります。
これらは飲食店を運営する企業が広告媒体としてセールスしていて、広告会社経由で申し込むことができますので、希望するエリアやターゲットの世代などをまとめて広告会社に相談されるとよいでしょう。
プレミアム的な高価格ノベルティ
ノベルティといってもBtoB(企業to企業取引)の顧客向けノベルティともなると、筆記具や手帳、革製品、デジタル機器など高価格になっていきます。 生活者を顧客とするいわゆるBtoCのビジネスにおいても、上質なファンを維持・獲得するために、高付加価値ノベルティや希少性の高いノベルティが出現し始めています。以下いくつかご紹介します。
缶バッジ(セット)
アパレルや音楽関連のノベルティとして定番です。アーティストの楽曲やブランドのファン層をさらに惹きつけるため、デザイン的にこだわったものが多く、購入金額に応じたプレミアムとして活用されています。とりわけアパレルでは缶バッジそのものが商品として販売されることもあります。
見本(サンプルセット)
趣味性の強い収集型商品のメーカーやブランドでは、素材見本のようなノベルティや試作品的な非売品がその希少性ゆえに高い人気を持ち、上顧客に対する季節ごとの特典として配られることがあります。
オリジナルレコード(ソノシート)
レコード盤の衰退とともに消え去ったソノシートですが、昨今の若い世代によるアナログ回帰によって再認識され始めました。このメディアを選択すること自体が、今や世代の感覚に鋭く迫る企業やブランドの考え方の表現といえます。世界観を表すオリジナルの小冊子と音源のセットの形で配布された事例があります。ダウンロード全盛の時代ながら、消費者にアナログレコードの「体験」をセットで提供する、という強い主張があります。ソノシートレコードは印刷媒体にもなります。
食材(一例として海苔)
紙のレーザーカッティング技術を応用し、最近では例えば海苔のような食材に切子ガラスの表面のような精密なカットを施すことができます。まだノベルティとしての活用事例を聞きませんが、食に関わる企業が新たな食の世界を提案する際などに、こういったノベルティを考案して配布する時代が訪れるかもしれません。
Tips
ウチワに種、布製品からソノシートまで。SPツールのアイディアは、リアルだからこそウケる!使える!
まとめ
かつては簡便なコミュニケーションツールとしてマスメディアの補完的位置づけだったSPツールですが、カードや小冊子が持っている視覚と触覚の両者に訴える高い質感や、ノベルティが持つ「モノ」としての楽しさ、また社会の環境意識の高まりに応える印刷物の登場などもあいまって、ここに来て人気復活の兆しを見せています。
そしてその背景には、様々なアイディアとそれを形にする技術の進歩があります。今後も多くの可能性を秘めているメディアと言えるでしょう。古くて、新しい。安価で、価値がある。SPツールのこれからに目が離せません。