農産物の栽培には多くの時間を要しています。それがやっと収穫されるまでには多大の労力がかかっています。これを効果的に周知し、販売していくにはどうすればよいのでしょう。これまであまり広告の経験のない方にもわかりやすく、解説します。
農産物のブランディング
農産物を認知させる前に、まず気を付けなければならない点があります。「一生懸命作りました」「おいしい農産物です」だけでは、消費者の注目を得られません。他の多くの作物も似たようなフレーズで宣伝しているからです。必要なのは、差別化の視点です。その農作物はどのような個性を有しているかをアピールしなければなりません。それができないときは、価格競争に巻きこまれ、他の地域の作物よりも安く価格を設定しなければ売れない事態となってしまいます。この事態に対応するのがブランディング、ブランド化の考え方です。
ブランド化とは、他の商品と差別化することを意図した名称やデザイン等のことを指します。ブランド化がなされることで、競争力の強化が期待できます。農作物は自然条件に左右される規格化しにくい生産物とされてきましたが、技術の進歩と共に大量生産されるブランド品も登場してきました。
自分が自信を持って農産物を対外的に推奨するためには、産物の特性を示す必要があります。その特性は、具体的な表現で端的に示しましょう。例えば、「おいしい人参」というフレーズだけではアピール力に欠けます。他の地域の人参も同じように訴求してくるからです。どうおいしいのか、具体的に「スイーツのように甘く、デザートにぴったりです」、あるいは「噛み応えが良いので、おでんや煮物にお使いください」等と言語化して示すように努めることが大事です。野菜売り場では、漠然と買うのではなく、献立などのシチュエーションを想定して買われる場合が多いと予想されます。夜に煮物の献立を考えていた場合、売り場のフレーズに惹かれて買うこともあるでしょう。目的がある場合は、値札を見てただ安いからというだけではなく、高くとも買われる場合があり、競争から一歩抜け出すことにつながります。
ブランド化にあたっては、自分の農作物の長所・短所を分析し、競合相手や顧客について考えます。「スイーツ人参」という訴求で販売したいと考えていても同様の特徴をアピールする人参が近隣地域にある場合にはこの販売戦略が成功する可能性は小さくなります。すでにその産物が先に市場でなじみの品となっている場合、そのシェアを崩すためには、ある程度の資金や期間が余分にかかることを覚悟しなければなりません。先行者利益*1を崩すのは容易なことではないからです。自分の農産物の強み(コアコンピタンス)がどこにあるのかを分析しましょう。この特徴は、情報発信の際に伝えるべきメッセージの核となります。
農作物のブランド化には専門的な視点も要求されます。マーケティングコンサルのノウハウを有する企業の助力を得て、ブランド化を推進することを考えてもよいでしょう。
[Tips]価格競争に巻き込まれないようにブランディングの視点を
情報発信の手法
農産物を広く販売していくためには、それを周知しなければなりません。そのためには情報発信をどう行っていけばいいのでしょうか。
SNS・ブログの活用
まず想定したいのは、インターネットを活用した広報です。中でもSNSやブログは、発信元が個人や小さな団体が多く、また読み手もそんな発信元を期待して見ているので、小規模な農業者や地域からの発信との相性がよいと考えられます。SNS、ブログを積極的に活用して、情報の拡散を目指していきましょう。一般によく使われる主なツールを改めて紹介します。
X
投稿できる文字数は140字まで。短い文章でやり取りでき、気軽に投稿をシェアできます。タイムリーな話題に敏感なSNSです。どのようなワードが投稿されているかが「トレンド」として表記されます。トレンドをチェックする人が多い傾向があるので、時事ネタなどを盛り込むことで情報が拡散されやすくなります。突発的な出来事に対応することは困難ですが、事前に予定されているイベントや行事を確認しておき、実行されるタイミングでコメントを付けることは可能です。年間のイベントや行事は「Xモーメントカレンダー」で、事前に確認する習慣を付けましょう。タイミングに合致した投稿は拡散されやすく、多くの人に情報が行き渡ることになります。一般に農産物は季節性の高い商品ですから、年中行事と関連させたコミュニケーションは有効と考えられます。
Xは手軽に操作できるので、同業者との情報交換にも使われています。
Instagram
農作物を多くのカラー写真によって伝達することができます。視覚が主体なのでユーザーに強く印象付けることができます。旬のみずみずしさ、新鮮な様子をタイムリーに発信するのに適したツールです。また、無料でECサイトを運用できるBASEと連携させることで、Instagram上で商品を販売できるのが特徴です。
Facebook
実名で登録するルールがあるため、ユーザー情報の信用性が高いのが特徴です。ビジネスアカウントを活用した場合、文章、写真、動画の投稿だけでなく、分析機能や有料ですが広告配信機能も利用できます。特に40代以上の年齢層に訴求したい情報がある際は、有効に機能します。
ブログ
長い文章を掲載できるので、農産物に込めた自分の思いを十分に語ることができます。ただ、多くのブログは、最初は活発に記事が掲載されていても徐々に執筆量が減り、やがてほとんど更新されない状態に陥っています。短い文章量であっても投稿を継続する努力が必要です。写真や動画を付けで、視覚にも訴えるような投稿が効果的です。宣伝を過剰に入れた文章はユーザーに敬遠される傾向にあるので地域の特色やその農産物を使ったレシピ等、読む人が有益になる情報を盛り込む工夫をしましょう。
いずれのツールでも、ユーザーが送ってくれた「いいね」やコメント、メッセージにはこまめに返信していきましょう。コミュニケーションを図ることで、ファンとなってくれる人も出てきます。活発にコメントが交わされているアカウントには気軽に参加しやすい風潮があり、さらにファンが増えていくこととなります。
[Tips]農産物の情報発信を効果的に行うためにSNS・ブログの活用を。継続発信を心がけて
パブリシティ
SNSやブログによる情報発信は極めて利便性が高く、よく用いられるようになってきましたが、万能な伝達手段とまでは言えません。60代以上の高齢者のSNS利用率は、50代以下の層に比較して格段に落ちる傾向にあります。農産物のSNSによるPRだけではほぼ全年代に向けて発信したいと考えたときに、情報が到達しない層が出てきます。
現代においても全世代へリーチする手段を考えたときにテレビをはじめとするマスメディアは大きな位置を占めていることは間違いありません。マスメディアへ露出する手段としては、広告出稿があります。ただし、マスメディアへの広告出稿には相応のコストがかかるため、本稿においてはパブリシティに関して述べることとします。パブリシティの露出に広告料金はかかりません。ただ、掲載・放送する素材はメディアが選択するので、露出が保証されるわけではありません。ニュースバリューがあると判断されるものだけが選択されることになります。
農作物の話題は、一般的な関心も高く、日常のニュースや情報番組等で頻繁に取り上げられる傾向があります。ただ、自己の農産物が取り上げてもらうためにはメディアに選ばれなければなりません。そのためにはどのようか工夫が必要でしょうか。
タイミングの適切性
なぜ、今その話題を取り上げるのかという視点が要求されます。この時期に取り上げる必然性があるかということです。イベントや年中行事は、それが行われたタイミングで報道されることになります。農作物は季節性があるので、報道機関が好んで取り上げるネタの一つです。
他にはない特徴
その農産物をなぜ記事・番組で取り上げるのか、という視点です。以下のような観点を考慮してください。
- 新規性
日本で最初に栽培された。世界初、日本初といえるもの。メディアは新しいものが大好きです。
- 希少性
珍しい、ほかにはなかなか見られないという視点です。このような色の大根は見たことがない、こんな大きなメロンがあったのか、などの話題は読者・視聴者が強く興味を示す話題です。
- 物語性
他人が感動するストーリーが込められているか、という視点です。例えば、栽培が成功するまで10年かかった農産物があれば、それが成功するまでのプロセスを知りたいと読者・視聴者は思うものです。
地域的特性がある
地域の代表的特産物は季節の話題としてニュースになりやすいものです。北海道のジャガイモやトウモロコシ、東北や北陸の稲作、静岡のワサビ等。ニュースにおいてはこれらの地域の映像が毎年流れます。地域の放送局も地元の主要作物の話題をキー局に働きかけるので、放映される機会も多くなります。その地域の主要作物の中で、ニュース性を加味できれば放送される可能性が高いと予想できます。
公共性がある
みんなのためになる、地球環境に良いなどの話題は社会的な関心事です。農薬を半減させた栽培技術、今まで農耕が不可能とされた地域での栽培の成功などは公共的な価値のあるネタとしてメディアが好んで取り上げます。農産物を公共的な観点で取り上げられないか、切り口を考えてみましょう。
切り口を考えたら、各メディアに戦略的にその情報を届けることになります。メディアへの情報リリースについては、パブリシティのノウハウを持つ広告会社やPR専門会社に相談してみるのもよいでしょう。
[Tips]パブリシティのノウハウを活用してメディア掲載を
まとめ
初めて農産物のコミュニケーションをお考えの方にも取り組みやすいよう、お金をかけず、しかも農産物との相性がよい「SNS/ブログ」と「パブリシティ」の活用について基本的な特徴や活かし方をご説明しました。
農産物の栽培や収穫は社会的関心事でもあり、元来メディアにも多く取り上げられます。ただし、メディアで取り上げられるためには仕掛けも必要です。SNSで効果を上げるためにはノウハウも必要です。上記が「始める」ための一助となれば幸いです。
*1:先行者利益とは、誰よりも早く新しい市場に参入したり、自分自身で新しい市場を作り出したりすることで、利益を独占し市場における優位な立場を確立することを言います。