地方自治体が観光広報を成功させるための戦略とは

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地方自治体が観光広報を成功させるための戦略とは

コロナの影響で沈滞気味どころかドン底だった観光業界も、全国旅行割などの影響もあって息を吹き返し始めているように見えます。旅行会社はもちろん、全国各地の観光地やその宿泊施設、移動のための鉄道、航空会社なども一斉に観光客誘致を狙う広告キャンペーンやPR活動を活発化しています。地方自治体の観光キャンペーンも盛んです。

旅行意欲が高まっている昨今ですが、どのキャンペーンも人々の心をうまく惹きつけられるとは限らないようです。今回は「観光広報」にスポットをあてて、その問題点や改善ポイントを考察してみます。


効果があがりにくい観光広報

世に広告キャンペーンと銘打たれるものは数多いものです。ほとんどは、人々に記憶されることなく、通り過ぎていきます。後世に残るキャンペーンの割合は、本当にわずかなのです。広告ですから、その通りと思う方も多いかもしれません。そもそもキャンペーンのほとんどは、短期的な売上増大のために行うものですから、短期的でも人の心にとどまれば十分、というケースも多いでしょう。

観光キャンペーンも例外ではありませんが、観光のための広報は、短期的な印象だけでは少し足りない気がします。私は広告会社の観光関連の営業担当をしていたため、全国各地から送られてくる観光ポスターやパンフレット等を見てきました。どれもそれぞれの場所の観光名所を写したきれいな写真が多かったのは確かです。でも中長期的に効果を上げた観光キャンペーンはわずかでした。どこに問題があるのか、考えてみます。


観光広報の問題点

総論主義

1つ目は総論主義というものです。言っていることは必ずしも間違いではなく、反論もしにくい、誰も反感は持たないが強く共感もしてくれない。例えば、「〇〇県の良さを知ってください(確かめてください)」「〇〇市でゆったりくつろぎ気分に」等の耳になじみのいいフレーズが付けられます。このフレーズ自体に異論はないでしょう。でもこのような文章に心を打たれ、行動が変容することがあるでしょうか。旅なのですから、「良さ」「ゆったりくつろぎ」などのキーワードは欠かせませんが、どんな観光地にもあてはまるような陳腐化したフレーズに人はなかなか振り向いてくれません。

「あれもこれも」主義

2つ目は、「あれもこれも」主義です。広報課に、観光課から多くの観光資源を乗せてくれるようにと依頼があった時、広報側がそれを整理しきれなければ、多くの観光地や産物がはみ出さんばかりに掲載されることになります。地元の人からすれば、わが町の魅力をひとつ残らず紹介したいのは当然です。しかしそのメッセージ内容すべてがターゲットに届くといいのですが、要素が多いとなかなかそうはいきません。人間の記憶容量には限界がありますし、ひとつひとつが旅行者にとって魅力的かどうかはわかりません。

一貫性のなさ

3つ目は、一貫性のなさです。ブランディングを意識している企業や団体は一貫したメッセージを繰り返し発し、その内容を届けようとします。その繰り返しによってメッセージは顧客の心の中に蓄積していきます。ブランドとは、時間をかけて育てていくものです。しかし、観光となるとこの原則通りにはなかなかいきません。特に自治体の観光キャンペーンにその傾向は顕著です。その理由の一つとして考えられるのは、自治体の中の人事異動です。自治体は通常、数年ごとに担当者が変わる人事ローテーションが組まれています。そのため、担当者が変わった時、広報のコンセプトも一新されてしまうことがあるわけです。

観光広報を成功させるプロセス

今一つ効果が上がらない観光広報の問題点を列挙してきましたが、そのマイナスをプラスに転じるためにはどうするとよいのでしょう。

1つ目の総論主義に陥らないためには、具体的なメッセージになるよう意識し、対象者の心に刺さるものとすることが必要です。そのためにはターゲットを明確に設定しなければなりません。広告制作者に対して、「観光客全体に周知すること」という要望が付されることが少なくありません。気持ちは理解しますが、限られた予算でそれを達成するのは容易ではありません。考え方として、第一次ターゲット、第二次ターゲットと時間軸で考えていくことが有用です。限られた広報予算で、地元へ観光客を呼びたい場合、まずはすぐに行動に結びつけやすい層へ広報費を重点投下するのです。例えば、写真映え(インスタ映え)する観光スポットを有するのであれば、20-30代女性向けのメディアに広告を掲載します。この年代の女性に話題になると、同年代の男性や他の年代層への女性へと広がっていく可能性が出てきます。全年代層に向けた広告展開よりも濃いメッセージ戦略の展開が可能になります。

Tips 具体的なメッセージとし、対象者の心に刺さるものを

2つ目は、「あれもこれも」主義。これに陥らないためには、広告のメインテーマを決めることです。限られた広告スペースにぎっしりと多くの要素を盛り込むと焦点が拡散してしまいます。自治体や公共団体広報の特質として、住民や他の部署等からの多くの要望事項を削ることは困難で、結果として多くの観光スポットや名産品を多く盛り込むことは避けられない、というのもホンネのようで、いわば、それは自治体観光広報の限界なのだ、という声も聞かれます。しかし、その難題に挑戦し、多くの広報効果を上げた自治体もあります。宮崎県は、県の特産物としてマンゴーに焦点を当てた広報戦略を展開しました。それまでは、沖縄がトロピカルフルーツの産地として圧倒的な知名度を誇っていました。いわば宮崎は後発だったのですが、トロピカルフルーツ全体ではなく、マンゴーに的を絞り、特産物としての地位を確立させたのです。全国的な特産物を作りたいとの希望は各自治体からよく聞かれ、候補となる特産品を数多く列挙される場合があるのですが、そのすべてに予算を分散させると効果が薄れます。一定の期間を設定し、その中で優先順位を付けていくことが必要です。

Tips 広告のメインテーマを決め、それに絞り込んだ広報を

3つ目の「一貫性のなさ」への対策が難しいのは、人事・組織的な側面があるからです。まずは地域のブランド資産をストックとして考えていきましょう。ブランドの資産は蓄積されていきます。担当者の変更で、観光広報を一新させていくことは、自己実現としての満足度はあっても、ゼロからブランド資産を積み上げていくわけですから、広告効果の観点からは多くの場合損です。そこで後任担当者へ観光ブランドを引き継ぐためにも観光ファクトブックを作るのも一つの方法です。観光広報戦略で、達成した成果と今後取り組むべき課題が明確になります。このファクトブックは、継続的な観光広報戦略の導きとなります。

Tips ファクトブックを作ることで、人が変わっても変わらぬブランディングに寄与

まとめ

多くの観光広報で忘れられている視点があります。「時間軸」です。

多くの広報担当者から実によく聞く言葉があります。「うちの町には、全国に伍していくだけの魅力のある素材がありません」と。一部に地域ブランド力が各段に高い地域が存在することは認めざるを得ません。それ以外の地域は広報のネタに苦労するケースも多いことは確かです。

しかし、考えてみましょう。その地域が現在に残っていることには理由があります。そこを選ぶ人がいたから現在に続いているのです。過去から積み重なってきた認識の蓄積に注目することを強くお勧めします。もちろん現代的なトレンドや国内外の他地域の流行を追いかけることを否定するものではありません。新しく地元グルメを作り上げて成功することもあり得ます。ただ、他地域の2番煎じに終わっている事例も少なくありません。他地域という横軸ではなく、時間という縦軸を思考に取り入れることは、発想が個性的になり、歴史をバックボーンとしたストーリーが付加され、まさに「地に足のついた」ブランド構築につながっていきます。筆者が今までお手伝いした自治体の観光戦略立案では、歴史という縦軸志向を取り入れて個性的なキャンペーンへつなげた例が多くありました。あなたの街でも、一度試してみてはいかがでしょうか。

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