広告主から提供される景品は、消費者にとって場合によっては商品そのものより魅力的なもので、景品を入手するためにその商品を購入してしまうこともあり、かつてそれが社会問題になったこともありました。
広告主と消費者の双方にとって魅力的な景品提供の仕組み(プレミアムキャンペーン)を企画立案・実施することは、広告会社のみならず、各企業の宣伝担当者にとって重要な仕事です。ただ、「景品」提供は自由に出来るものではなく「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法)という法律によって規制されています。ここではこの「景品表示法」の内容を抜粋してご紹介しながら解説することで、景品キャンペーンに対する理解を深めていただけたらと考えています。
景品表示法の概要
「景品」とは何か?
一般に景品とは、粗品、おまけ、賞品等を指すと考えられますが、景品表示法上の「景品類」は以下の3点を併せ持つもの、と定義されています。
★顧客を誘引するための手段
★事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供
★物品、金銭その他の経済上の利益
景品類に該当する場合は、景品表示法に基づく景品規制が適用され、内閣総理大臣が指定するもの、と定められています。
上記の「経済上の利益」になり得るものには、以下のものがあります。
- 物品及び土地、建物その他の工作物
- 金券、預金証書、当選金付き証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券
- きょう応(映画、演劇、スポーツ、旅行その他の催物等への招待や優待を含む)
- 便益、労務その他の役務
景品表示法で金額規制を受けるもの、受けないもの
取引の相手方に提供する経済上の利益が「景品類」に該当する場合、景品表示法上どのような規制を受けるのでしょうか?
まず、取引の相手方に提供する経済上の利益が、景品表示法上の「景品類」に該当する場合、提供できる景品類の最高額などが規制されます。具体的な景品類の最高額などについては、景品類提供の方法、いわゆる 「懸賞」か「総付(ベタ付)景品」かによって異なります。
下記3懸賞に関しては、「景品表示法」で基本的に規制されています。
★一般懸賞(クローズド懸賞)
★共同懸賞
★総付景品
下記は景品最高額の規制がありません。
★オープン懸賞
⇒オープン懸賞は、「景品最高額」の規制はありません。
⇒「景品総額」規制も基本的にはありません。
それぞれどんな景品なのかを見ていきましょう。
「景品」と「懸賞」、「クローズド懸賞」と「オープン懸賞」
「懸賞」とは、抽選やじゃんけんなどの偶然性、クイズなどへの回答の正誤、作品などの優劣といった方法によって「景品類」の提供の相手方、または提供する景品類の価格を定めることをいいます。簡単に言うと、応募してもみんなもらえるとは限らない景品キャンペーンのことです。「景品類」を提供する「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」により、提供できる景品類の「最高額」、「総額」などが規定されています。
懸賞の中で、「商品を買わないと応募できない」「商品を買うと正答のチャンスが生じる」のように、商品購入が応募の条件(または当選可能性のアップ)になっているものを「クローズド懸賞」といい、購入を条件としない、誰でも応募できるものを「オープン懸賞」と呼びます。前述の通り、クローズド懸賞は最高額や総額に規制がありますが、オープン懸賞はそのような規制は受けません。
商店街主催抽選会などは「共同懸賞」
「懸賞」のうち一定の条件の下で複数の事業者が共同し行うものは「共同懸賞」、それ以外の懸賞は「一般懸賞」と呼ばれています。「一般懸賞(クローズド)」では、提供できる景品類の「最高額」及び「総額」が定められています。景品類の最高額については、取引の価格が¥5,000未満の場合は、取引の価格の20倍まで、¥5,000以上の場合は一律10万円まで。総額については、懸賞に係る 売上予定総額の2%以内とされており、最高額及び総額両方の制限を守らなければいけません。
一方、次の要件を満たす場合は「共同懸賞」となり、規制の限度額などが変わります。
- 一定の地域(市町村等)の小売業者又はサービス業者の相当多数が共同で実施。
- 中元・歳末セール等、商店街に属する小売店又はサービス業者の相当多数が参加。
- 年3回を限度としかつ年間通算して70日の期間内に限る。
- 「電気まつり」等一定の地域の同業者の相当多数が共同で実施 など。
「共同懸賞」の制限は一般懸賞に比べて高く設定されています。景品類の最高額は、取引の価格に関わらず30万円、景品類の総額は、検証に係る売上予定総額の3%以内とされています。(下記参照)
総付け(ベタ付け)景品とその限度額
一般消費者に、「懸賞」によらずに提供される景品類は「総付(そうづけ)景品」または「ベタ付景品」と呼ばれています。具体的には、商品または役務の購入者や来店者に対してもれなく提供する景品類がこれに当たります。また商品もしくは役務の購入の申込順、又は来店の先着順のより提供する景品類も、原則として総付景品に該当します。
総付け景品については、提供できる景品類の最高額が定められており、提供できる景品類の最高額は、取引の価格が、1,000円未満の場合は、200円まで、1,000円以上の場合は、取引の価格の10分の2の金額までとなります。
Tips 景品がもらえる条件によって規制の条件も変わる!
景品キャンペーンで注意すべきポイント
オープン懸賞が「際どく」認められない「オープン崩れ」
「オープン懸賞」とは応募者が商品の購入者や来店者に限定されず、誰でも応募できる(法的には「取引附随がない」と言う)懸賞を言います。よく見られるのが、新聞や雑誌などの広告で、簡単な問題を出題し、官製ハガキなどで一般の消費者から解答を募集し正解者の中から抽選で景品を提供する場合です。ただ、オープン懸賞のつもりで実施しても、応募などの過程で「取引附随」が生じると「クローズド懸賞」とみなされてしまいます。これを「オープン崩れ」と呼び注意が必要です。以下のようなケースがあります。
- 商品の包装容器に「オープン懸賞」の問題の出題や解答を記載した。
- 自店舗に応募用紙や応募箱を設置した。
- 自社の製品・サービスを利用したアイデアコンテストを実施した。
- 当選者の発表を自店舗で行なった。
- 自社のサービス(通信など)を利用しないと応募できない。
景品に該当せず、景表法の規制を受けないものとは?
以下、1~6のいずれかに該当するものは「景品」とはみなされず、景表法の規制は受けません。
1. 景表法以外の法律で認められているもの
例「パチンコ景品」「宝くじの当選金」等
2. セット販売
2つ以上の商品を組み合わせて販売していることが明らかな場合。
例「ハンバーガーショップのセットメニュー」「乗用車とスペアタイヤ」「お菓子詰め合わせセット」「パック旅行」「玩具菓子(おもちゃ付きお菓子)」
※景品であると認識されるような方法で告知すると(「〇〇プレゼント」「〇〇無料」「××買えば〇〇が付いてくる」)セット販売と認められません。
3. アフターサービス
メーカーなどが、商品販売後、一定期間無償で行なう修理などのサービスを言います。「正常な商習慣」に照らして「アフターサービス」と認められる経済上の利益の提供は「景品」とはみなされず、景表法の規制をうけません。
4. 付属品
「正常な商習慣」に照らして商品・サービスに付属すると認められる経済上の利益(付属品)の提供は「景品」とはみなされず、景表法の規制を受けません。商品の内容物の保護又は品質の保全に必要な限度内の容器包装も同様です。
※3と4の「正常な商習慣」に該当するかどうかは、取引の内容、提供される経済上の利益の内容提供の方法などを勘案し、公正な競争秩序の観点から判断されます。
5. 値引き
値引きとは、取引に際して対価を減額することをいう。取引の相手に金銭などを返還する場合(キャッシュバック)同じ商品・サービスを追加して提供する場合も「値引き」と認められる経済上の利益の提供は「景品」と見なされず、景表法の規制を受けません。
※値引きでも、以下の場合においては景品として景表法の規制を受けます。
金銭の使途を制限する場合/懸賞による場合(値引き内容を抽選で決める場合も含む)/景品類の提供と一緒に行い、どちらかを選ばせる場合。
6. モニターの謝礼、アンケート謝礼
モニター、アンケート謝礼は、客観的に判断して「顧客誘引」を目的としていない限り、「景品」とはみなされません。
景品キャンペーン・ケーススタディ~消費者庁サイトより~
ご覧いただいたように、景品表示法に沿っているかどうかの判断は難しい場合が多々あります。さらに理解を深めるために、消費者庁のサイトに紹介されている事例をピックアップしました。
【事例1】機械メーカーが取引先(すべて事業者)に景品を提供。景品類に該当するか?
取引に附随して、くじなどの方法により物品を提供する場合、提供の相手方が事業者であっても一般消費者であっても、景品表示法上の懸賞として景品規制の対象となります。
一方、懸賞に依らず提供する場合は、一般消費者向けに提供するものは総付景品に該当し、景品規制の対象となりますが、事業者向けのものは原則として対象となりません。
【事例2】非売品を景品として提供。類似品も市販されていない場合
景品類の価格は、景品類と同じものが市販されている場合、景品類の提供を受ける者が通常購入する時の価格に依ることとされている。また、同じものが市販されていない場合、景品類を提供する者がそれを入手した市場価格などを勘案し提供を受けるものがそれを通常購入することとしたときの価格を算定し、景品類の価格と判断されます。
【事例3】古本や中古CDの販売と買取
自己が商品などの供給を受ける取引、例えば古本などの買取は、景品表示法上の「取引」には該当しません。従って、古本などを買い取った際に提供するバックも景品類には該当せず、景品表示法による規制は受けません。
【事例4】紹介者キャンペーンの謝礼は景品類該当するか?
自己の供給商品・サービスの購入者を紹介してくれた人(紹介者)に対する謝礼は、「取引に付随」する提供に当たらず、景品類には該当しません。ただし、紹介者を自己の供給する商品・サービスの購入者に限定する場合は、「取引に付随」する提供となり、景品類に該当し、景品規制の対象となります。
【事例5】[人材派遣業]派遣社員として当社に登録をした人を対象に金品を提供したい
人材派遣会社への登録は、労働契約に係るものであり、基本的には景品表示法上の「取引」には該当せず、従って、登録者への金品の提供については、景品規制は適用されません。
【事例6】新装開店し、宣伝のため来訪者に景品を提供したい
開店披露、創業記念等の行事に際して、正常な商慣習に照らして、一般的に提供される物品又はサービスであると認められるものについては、景品類に該当する場合であっても総付景品規制は適用されません。ただし、店舗改装のために長期間休業していたなど、開店披露と実質的に同視しうるような場合でなければ、総付景品規制の適用除外とはなりません。
【事例7】景品類として提供することを禁止されている金品・サービスはあるか
景品表示法に基づく景品規制は、景品類の限度額、提供の方法などを規制しているものであり、特定の金品・サービスなどを景品類として提供することを禁止する旨は規定されていません。ただし、景品類として提供するものが、他の法令などにより規制を受けていないかどうか、確認する必要はあるかもしれません。
まとめ
景品表示法は昭和37年からある法律で、不当な顧客の誘引を防止するため、虚偽・誇大な表示や行き過ぎた景品設定に制限を設けた法律です。ここではこのうち、懸賞を含む景品についての定義と制限を法に照らし合わせて紹介してきました。「不当な顧客誘引の防止」という大原則はシンプルですが、一方でそこかしこで生まれる景品キャンペーンの多種多様のアイディアの中には、違法か合法かの判断が難しいものがあるのも現実です。
個々のケースでは法の解釈が微妙なケースもあるので、ご不明な点は「消費者庁表示対策課」に問い合わせることをおすすめします。