テレビCMやポスター、新聞広告などの広告表現にも、それを評価するアワードがあるのをご存じですか?映画や音楽の賞なら海外の有名なものをいくつか聞き覚えがあるでしょうが、広告となると、知っている人も限られるかもしれませんね。 実は、広告賞受賞を目指しているのは広告会社や広告制作会社ばかりではありません。世界のグローバル企業や、国内企業、つまり広告主にも賞獲りにとても熱心な会社があります。中には賞を取ることを第一の目的にしたCMをわざわざお金を出して作る広告主も少なくありません。なぜ、そこまで受賞にこだわるのでしょうか? 国内外の著名な広告賞をいくつか紹介しながら、なぜ受賞にこだわる広告主がいるのか、つまり受賞することのメリットにも言及していきましょう。
国内の主な広告賞
広告電通賞
1947年創設。運営団体である広告電通賞審議会は広告主・媒体社・クリエーター・有識者で構成され、そのメンバーの中から審査員が選出されますので、選考において電通と取引のある企業が有利に扱われることはありません。それが、国内で代表的な賞として現在まで認められている大きな理由でもあります。 申込は制作者ではなく、広告主(企業)が行い、授賞も企業に対して行われます。7つの部門からなり、部門ごとに最高賞が与えられます。最高賞受賞の会社の中から「総合賞」が選出されます。
ACC Tokyo Creativity Awards
ACCも長い歴史と権威を持つ広告賞です。主催の母体となる(一社)ACCは、もともとCM制作に関わる企業・団体を会員とする組織だったので、当初はテレビ・ラジオCMのみを選考する賞でしたが、より開かれたACCを目指し組織改革と受賞部門の拡充をして現在に至ります。
JAA広告賞
広告主で構成する「日本アドバタイザーズ協会」が主催。元の名称が「消費者のためになった広告コンクール」といい、現在も「消費者が選んだ広告コンクール」のサブタイトルを持つユニークな賞です。より生活者視点での選考を主旨としていて、審査員を各世代の一般消費者にお願いしている点で広告制作者側からも注目されています。
TCC賞/ADC賞
上記の賞が企業単位で応募され、表彰も主に企業に贈られるのに対し、TCC賞とADC賞は広告クリエイター個人が表彰される賞です。TCC賞を主催する「東京コピーライターズクラブ」は全国のコピーライターが会員となって運営する組織で、広告会社や制作会社の社員もいればフリーランスのメンバーもいます。同様にADC賞も、アートディレクターを会員とする「東京アートディレクターズクラブ」が主催しています。受賞すればクリエイター個人のビジネスチャンスにもつながる広告賞と言えます。
媒体社が主催する広告賞
新聞社や放送局が主催する賞もあります。新聞社が主催する賞の多くは、その新聞に掲載された広告が審査の対象になりますが、他に「一般公募の部」を設けて、予め発表された課題に対する作品を一般から応募して受賞者を決めるものもあり、新人クリエイターや広告業界を目指す学生たちの腕試しの場になっています。朝日広告賞/毎日広告デザイン賞/読売広告大賞/日経広告賞が代表的ですが、地方にも同様の賞を主催している新聞社があります。また「フジサンケイグループ広告大賞」は、産経新聞・フジテレビ・ニッポン放送・扶桑社などのグループ各媒体社が合同で主催する広告賞で、ジャンルも各媒体に及んでいます。
…このほかにも各地方の広告協会などが主催する賞や、インターネット広告・屋外広告専門の賞など、数々の賞があります。
Tips 国内で権威ある総合的な広告賞は「広告電通賞」「ACC」「JAA広告賞」。他にもクリエイター個人の賞や各媒体・地域別の賞も多数。
海外の主な広告賞
カンヌライオンズ
毎年5月にフランス・カンヌで開催される「カンヌ国際映画祭」と同じ場所で、その1か月後に開催される広告祭で授与される、世界で最も権威ある広告賞の一つです。広告祭では毎年、グローバルネットワークを持つ広告主、広告会社、制作会社などが集います。世界中から応募された各部門のノミネート作品や受賞作品が上映展示されるばかりでなく、各企業のPRブースやレセプションパーティーなどがひしめき合う広告界の一大イベントです。カンヌ映画祭の後で行われるため当初はコマーシャル映像のコンテスト色の強いイベントでしたが、昨今ではサイバーや統合コミュニケーションなど部門も多岐に亘っています。
クリオ賞
1959年に設立され、アメリカ・ニューヨークで開催・授与される国際広告賞。革新性のある作品が選ばれる傾向が強い特徴があり、広告界のピュリッツァー賞とも呼ばれています。上記のカンヌライオンズ、The One Showとともに「世界三大広告賞」の一つとされており、世界の広告業界から注目されている賞です。毎年9月ごろに開催されています。
The One Show(ワンショー)
こちらも世界三大広告賞の一つ。広告クリエイターが審査し、クリエイターに与えられる賞として有名です。トロフィーが鉛筆のカタチをしていて、文字通り「ペンシル」の名で世界中のクリエイターからの羨望の的となっています。全世界から約20,000点近い応募があります。1975年設立。
アジア太平洋広告祭(アド・フェスト)
日本を含むアジア太平洋地域の国際広告祭として1998年に設立されました。日本をはじめ香港、タイ、シンガポールなどのクリエイターたちが中心となって創設、今ではこの地域の最も注目されている広告賞です。例年3月ごろタイのパタヤで行われ、アジアのクリエイターや広告主たちの交流の場にもなっています。
スパイクスアジア
カンヌライオンズを主催する団体が、アジア太平洋地域向けに設立。やはりアジア最大規模を誇る国際広告賞です。毎年、シンガポールで開かれ、参加者は街中の数か所に分かれた展示エリアや、各種のセミナー、交流会を回遊します。
その他海外の広告賞
上記の他にも世界の各都市で「国際広告祭」と銘打った広告祭・広告賞が数多くあります。ロンドンで開催されるLondon International Awardは1986年に設立、日本からの応募も多い著名な広告賞です。同じくイギリスに籍を置くD&AD主催のD&AD賞は1962年設立の歴史あるアワード。国連が共催しているユニークなニューヨーク・フェスティバルも1957年に設立されました。韓国のプサンで開催されるAD STARSは新しいアワードながら韓国唯一の国際広告祭として最近は日本のクリエイターからも注目されはじめました。
Tips 世界三大広告賞はカンヌ、クリオ、ワンショー、そしてアジアではアドフェストとスパイクス。
広告賞受賞がもたらすメリット
よく言われることとして、「広告賞を獲ることにどんなメリットがあるのか」という疑問があります。「広告はもともと、モノを売るために作るものだから、その価値は商品の売り上げで測られるべきではないのか」と。 確かにその通りかもしれません。商品の売り上げを伸ばすのは未来永劫、広告の最も重要な機能であり続けるでしょう。ただ、世の中の進歩に相まって広告表現にはモノを売ること以外の機能が求められるようになったのも事実です。商品や企業のブランドイメージの醸成、というのもその一つです。その商品や企業が社会にどんな提案をしようと考えているのか、どんな社会的責任(CSR)を果たそうとしているのか。それによって商品や企業の「ブランド価値」が醸成され、結果として間接的に企業の売り上げアップに繋がるのです。 多くの広告賞では、その審査の基準として「いかに世の中を動かしたか」「いかに斬新なアイディアがあったか」という点を重視しています。半面、露骨にセールス色の強い表現は敬遠されがちです。裏を返せば、受賞した企業は社会に対する提案力や、先進性・斬新さを評価されたわけです。ここに挙げたような国内外の広告賞は、受賞後様々なメディアを通じて受賞者が発表され、ネットやマスメディアなどで受賞作が露出するわけですから、無料でその企業の質の高いコミュニケーションを再上映してもらえる、とも言えます。ステークホルダーも企業のコミュニケーション活動には注目していますから、よいアピールにつながるでしょう。大きな賞になればなるほど、こうしたPR効果が見込まれます。受賞はメリットこそあれデメリットは見当たりません。
Tips 賞獲りのメリットは企業のレピュテーション向上。お金の要らないPRにも。
広告賞を狙うには
ただ、広告賞受賞はとても狭き門です。上記に挙げた大きな賞はその効果に国内外の巨大な広告主が強い関心を持っていて、中には広告賞受賞だけを狙ったCMなどを予算をかけて作るクライアントも少なくありません。賞のためだけのCMを作る余裕があればそれに越したことはありませんが、広告予算規模の少ない案件では、それこそ本末転倒なお金の使い方、と広告主の社内でも批判されるかもしれません。ただ、広告賞のチャンスは広告予算の多寡とは必ずしも比例しません。あくまでも全体の広告予算の中で考えればよいと思います。例えばポスターやラジオCMは、仮に賞獲りのために追加の表現を作ったとしても、さほど追加のお金はかかりません。 通常の作業の中で賞を獲るためには、意欲と力量のあるクリエイターが必要ですが、いいクリエイターに巡り合えたら一度彼らに「斬新でインパクトのあるアイディアを見せてほしい」と語りかけてみて下さい。彼らに自分のポテンシャルを発揮できる提案の場を設けて下さい。もし、クリエイターから世の中を動かすようないいアイディアが出たら、実際にそのアイディアに基づいて制作してみて下さい。
Tips 予算より、クリエイターに「発想の機会」を用意してみる。
まとめ
広告賞の受賞はクリエイターにとっては自分のステイタスを高める大きなチャンスにつながりますが、メリットはクリエイターだけではなく、広告主も享受できるということを説明してきました。もちろん、どんな広告表現物にも「本来の目的」があり、それを大きく逸脱してまで賞獲りを狙うことがいい選択とは思いません。信頼できる広告会社に相談して、チャンスのありそうな時に、一度トライしてみてはいかがですか。