PRが上手な企業があります。常にマスメディアからは大きく扱われ、SNS上ではその企業に動向について情報が駆け巡ります。そして、ネガティブな印象を一時的に与えるようなことがあっても、必ずレピュテーション(評判)を回復させる力があります。これらの企業は、カリスマ性のある創業者や、革新的なプロダクトを持つ企業ゆえに、それをなし得ているのでしょうか。
もちろん、特別な強みを持つ企業であることは確かでしょう。しかし、どんな企業でも、いきなり現在のポジションを確立したわけではありません。紆余曲折がありながらも、地道なPR(パブリックリレーションズ)を続けてきた結果なのです。それでは果たしてPRとは何をすることなのでしょうか。
PRとは何か?
PRとは、Public Relations(パブリックリレーションズ)の略で、企業や団体がステークホルダーと良好な関係を築くための活動を指します。ステークホルダーとは利害関係のある人を指し、株主、顧客、取引先、従業員とその家族、行政、地域住民、メディアなどを指します。日本では「広報」と訳されることや、「自己PR」など広告や宣伝の一部として使われるケースが多い言葉ですが、本来の語源は少し異なる意味を持ちます。
PRの力を1番わかりやすく実感できるのは、企業が不祥事を起こした時ではないでしょうか。経営者や事業責任者が、メディアの前で深々と頭を下げる謝罪会見を目にすることがあると思います。起こしてしまった事態を真摯に受け止め、原因や今後の改善策を述べる姿を見ると同情を集める事があります。逆に、高圧的な態度や、しどろもどろになる姿を見せられると、その企業に対して不誠実な印象を持ってしまう事もあります。
しかし、メディアがこの様子をどのように報道するかによって、印象が良くも悪くも大きく変化してしまうことがあります。例えばテレビの情報番組で、一部分だけを誇張して繰り返し放送することにより、そこだけが強く印象として残ってしまうことがあります。
また、これまでにその企業が行ってきた活動や、過去の経営者の発言などに注目が集まる事もあります。その企業が、社会貢献につながるような活動を自発的に行ってきたのであれば、不祥事を擁護する声があがる可能性もあります。反対に、どんなに記者会見で良い印象を与えることができたとしても、過去に問題とされるような発言や行動があれば、一転してバッシングされてしまう可能性もあります。
今はSNSで簡単に個人の声を広めることができるため、さまざまな立場から企業に関わる人の意見によって、ポジティブにもネガティブにも企業への評価が変化する可能性があります。起こしてしまった不祥事自体は小さなことであったとしても、その後にさまざまな情報が付加されて、大炎上に発展する可能性もあるのです。
これらは、日頃からメディアとは情報提供を通じて良好な関係作りを心がけ、退職する従業員や立場の弱い取引先など幅広いステークホルダーに対しても誠意ある対応を取れているのかによって変わります。社会からバッシングを受けることで企業の株価が急落したり、不買運動に発展することもあります。ステークホルダーとの関係が、企業の価値を大きく左右するのです。
企業の価値を守るPR活動とは
しかし、実際に企業が社会から評価されるような活動をしていたとしても、必ずしもそれがステークホルダーに伝わっていないこともあります。その場合には、誤った情報による炎上など、想定外の大きな騒動に発展する可能性もあります。企業は、自社の活動を可能な限り情報公開し、そして伝える努力をすることで透明性のある経営を心がける必要があります。
例えば、プレスリリースを通じてメディアに対して定期的に情報を開示していれば、それが記者やディレクターに知られることとなり、記事や番組で報道されて、多くの生活者に知られることになります。地道に社内報や自社のSNSアカウントで情報発信を行っていたら、その様子は従業員や取引先など、身近な人たちに知ってもらうことができます。これらは全てPR活動によってもたらされるものなのです。
PRはマーケティング活動にも寄与をする
PRにはこのように、企業価値の低下を少しでも食い止めるための『守り』の効果はありますが、最近では戦略PRと呼ばれるようなマーケティングの一環として行われる『攻め』のPRも増えてきています。
例えば飲料メーカーが新商品を世の中に打ち出すタイミングで、価格や発売日など単純なスペックを発信するだけではなく、その商品を開発することに至った経緯や、社会にどのようなニーズがあるか調査した結果などを、合わせて発信する場合があります。
その情報はメディアが求めるものと合致していれば、社会の変化とその象徴として商品が報道されるようなこととなり、注目度が高まります。店頭で新たな棚が設置されるなど、商品を取り巻く新カテゴリが創出されるようなことがあれば、新たな市場が生まれて売上の拡大に繋がる可能性があります。
商品を無理やり売り込むのではなく、社会から求められる情報と合わせて発信することで、つい商品を手に取りたくなるための「空気作り」を行う力がPRにはあるのです。
スタートアップ企業に必要なPR
スタートアップ企業にとっては、PRは欠かすことができない活動です。大企業であれば十分な予算を確保して、新商品発売のタイミングでテレビCMなどを放送することが可能です。販売チャネルを巻き込んだ大規模な販促活動を行うこともできます。しかし、資金には限界があり、販売チャネルの開拓などには課題を抱えることが多いスタートアップ企業にとって、自分たちの商品やサービスが社会にとって価値があるものであることを伝える活動は、とても大切です。
また、宇宙関連事業のような最先端の技術に取り組む場合、まだ世の中に出せるサービスはなく、開発段階がしばらく続く可能性があります。そのような状況でも、自社のビジョンや、それによってもたらされる社会の変化についてメディアなどに語ることにより、それが報道され、生活者からの共感を集めることで、ファンドや投資家からの資金調達に大きな影響を与える可能性があります。
ステークホルダーになりえる人たちに自社を知ってもらい、ビジョンに共感してもらうことができれば、企業を次のステージに進めることができます。そのようなことを実現するためには、PRは欠かすことができないのです。
PRは難しいことではない
PRは決して難しいことではありません。どの企業でも、情報を公開し、それを発信する意欲があれば、すぐにでも取り組むことができます。
情報発信の手法はさまざまです。プレスリリース、記者会見、記者懇親会、メディアキャラバンのような、マスメディアやネットニュースの記者を対象にした活動もあれば、自社SNSアカウントやウェブサイトから自社の顧客やファンに向けた発信を行う活動もあります。発信する内容も、切り口の作り方にはさまざまな手法があります。KOL(キーオピオニオンリーダー)の起用や、第三者機関による生活者調査を実施することで、企業から一方的に行うわけではなくフラットな情報発信を行うこともできます。
メディアとの関係性を作るには、メディアそのものへの深い理解が必要です。顧客、従業員、取引先との良好な関係を構築するには、相手が関心を持つような情報を、なるべく包み隠さずに開示していくことが重要です。PRが上手な企業には、専任のスタッフやPRの経験が豊富な外部ブレーンがいて、日夜PR戦略を練り、実行をしています。ステークホルダーのことをしっかりと考えたPR活動を行うことが、企業価値の向上に繋がっていくのです。