1987年に初めてNHKがBS放送を開始して以来、衛星放送は様々な進化を遂げながら各家庭に優れたコンテンツを届けてきました。視聴可能世帯数も全世帯のほぼ8割近くに広がってきています。衛星放送番組はその特徴から地上波とは一味違ったユニークなプロモーションとして活用できるので、広告主からの需要も年々高まっています。その現状を見ていきましょう。
衛星放送の種類としくみ
BS放送
BSとはBroadcasting Satellitesの略で、赤道上空3.6万km東経110度上に浮かぶ放送衛星BSAT-3a~cを使用して地上に電波を送り届ける放送です。受信するには専用のパラボラアンテナ設置が必要で、無料の放送についてはNHKのBS1、BSプレミアムの他、民放系7局を含む計12チャンネルがあります(2022年4月現在)。またWOWWOWやJ SPORTSなどの有料チャンネルも数多く存在しています。もともとは送信所から送られてくる地上波の電波が障害物などで届きづらいエリアや、災害時などに安定的に放送を届けることを目指し実用化されました。
CS放送
Communication Satellites放送の略。当初、特定の企業や事業者を相手に番組を届けることを目的にしていましたが、1989年の放送法改定により一般の家庭でも見られるようになりました。上記BSの放送衛星と同じ東経110度に浮かぶ通信衛星N-SAT110、または124度と128度に浮かぶ2つの通信衛星を使って放送されています。スカパーJSAT(株)の持つこれらの通信衛星を経由して、放送プラットフォーム「スカパー!」などで多くのチャンネルが視聴できるようになっています。
CATV、IP放送
上記のような衛星→アンテナを経由した受信が障害物などの理由で難しい場合や、家庭にアンテナを設置したくない場合はJ:COMなどのCATVや、「ひかりTV」などのIP放送を利用して衛星放送番組を観ることも可能です。放送プログラムなどは若干変わってきますが、回線を利用するので荒天などに左右されずより安定した受信ができるようになります。
Tips 衛星放送には放送衛星を利用したBS放送と、通信衛星を利用したCS放送の2種類がある。アンテナを設置しない視聴も可。
衛星放送の現状
普及状況
無料民放BS局が主体となり定期的に行ってきた調査では、BSデジタル放送視聴可能世帯が直近で約4500万世帯(日本の総世帯数の約8割)に達したと報告がありました。2011年の完全デジタル化以降その伸び率が顕著になっています。傾向としては50歳以上の男女が無料民放BS放送を観ている割合が多いようです。
有料となるCS/BS放送については、総契約者数も1328万世帯となっており、うちCATVまたはIP放送経由で視聴しているのが750万世帯ほどです(衛星テレビ広告協議会CAB-J調べ)。視聴者は高所得者が多く、新しい商品に対して興味関心を持ちやすい層だと言われています。
広告費
2021年度の衛星メディア関連の広告費は1209億円で前年比103.1%(2021年「日本の広告費」より)。地上波の広告費総額と比較すると約7%となっています。コロナ禍における巣ごもり需要の関連で通販市況が好調でした。地上波に比べ専念視聴傾向の強い(じっくり番組を観ることの多い)衛星放送では、通販番組などの有効性が認知されており、通販広告枠や、ショッピング専門チャンネルなど、広告主の需要が特に大きくなってきています。
Tips 無料BS放送の視聴者は50代以上男女が多く、有料CS/BS視聴者は高所得者が多い。
広告枠としての衛星放送
チャンネルの種類
衛星放送は無料、有料合わせ地上波に比べて圧倒的に多チャンネルであることが大きな特徴です。ジャンルも映画、ドラマ、スポーツ、音楽、ニュースなど多彩で、その多くが特化された専門チャンネルとしてこれらのコンテンツを放映しています。視聴者は興味に合わせてそのチャンネルを観るので、専念視聴傾向が高く広告主の商品やキャンペーンに合わせて効率的にCMを流すことが可能です。
買い方
原則衛星放送枠も地上波も買い方は同じで、枠としてはスポットセールスとタイムセールスの両方があります。地上波に比べて金額規模を抑えたバイイングができるので、長尺CMや1社枠といった対応もしやすくなります。またチャンネルの専門性を生かしつつ、番組の内容に即した立体的なプロモーションを展開することも交渉次第で可能です。
エリアごとの広告枠の買付のできる地上波と違い、衛星放送の放送エリアは全国となるので、日本全体へのコミュニケーションツールとしては効率的である半面、特定エリアだけを狙ったコミュニケーションは不得意、と言えます。
視聴率・効果測定
無料BS放送については2020年よりビデオリサーチ社が「新視聴率調査」を始めました。これにより、365日、毎分単位で、個人視聴率、タイムシフト視聴などの様々なデータが見られるようになりました(対象はBS日テレ、BS朝日、BS-TBS、BSテレ東、BSフジ、BS11、BS12とNHKのBS2局)。
有料CS/BS放送については同じくビデオリサーチ社の「テレビ接触率全国ペイテレビ調査」が2021年から始まりました。一つ一つのチャンネルごとに上記「新視聴率調査」とほぼ同様の指標を測定できるようになっています。
Tips 専念視聴傾向が強い。最近は視聴率調査も充実してきている。
まとめ
このように家庭への普及とともに衛星放送をめぐるデータの基盤も年々整ってきており、得られる指標も地上波とほぼ同等のものになってきています。それゆえキャンペーンの打ち手の一つとして考える広告主も昨今多くなっているようです。それぞれのチャンネルのターゲットや特性をよく理解してアイデアを練れば、非常に効果的かつ斬新な商品訴求もできるでしょう。4K、8K放送も始まった衛星放送。これからその可能性がさらに広がっていきそうです。